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晴れた日の過ごし方 1

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ライブハウス関係者出入口。
今夜のステージを終えたメンバーは、この後とある居酒屋で打ち上げを行う。
この打ち上げは会費制で、ファンであっても会費を払えば打ち上げに参加できた。
できる事なら、アンナも打ち上げに参加したかった。でも、さすがに高校生の身で居酒屋に行くのは気が引けた。
何かの拍子で補導されてしまったりしたら、大好きな父親を悲しませる事になる。
『今』のアンナには、そんな真似出来なかった。
だからせめて、ギルバートにプレゼントと手紙だけでも直接手渡したかった。
「キャー!!」
黄色い声が、出待ちの追っかけたちからわき上がる。
ダムシアンのメンバーが、打ち上げ会場に移動するため関係者入り口から姿を見せたのである。
「ギルバート!!」
機材車のバンに乗り込もうとするギルバートに、アンナは思い切って声をかけてみた。
出待ちしている子はたくさんいる。
声をかけても、名前を呼んでも、ギルバートに気付いてもらえないかもしれない。
用意したプレゼントも、スタッフ経由で彼の元へ届く事になってしまうかもしれない。
けれどもアンナは、手渡せるかもしれないチャンスを、逃したくなかった。
「ギルバート!!」
もう一度、あらん限りの愛しさと願いを込めて、アンナは憧れのバンドマンの名を呼んだ。
すると。
栗色の長い髪がゆらりと揺れ、宝石を埋め込んだような瞳がアンナを映す。
「おや?君は……」
歌声も美しいが、地声も水晶のグラスを銀のマドラーで叩いたかのように美しい。
その声に聞き惚れかけたアンナだったが、ギルバートに向かって深々と頭を下げながらプレゼントの包みと手紙を差し出し、自分の全ての感情を言葉に込めた。
「受け取って下さい!!」
強張る体、震える声。
目の前に、手を伸ばせば届くくらい近くに、憧れの人が居る。
アンナの心臓は、口から飛び出そうなくらいに激しく脈打っていた。
『受け取ってもらえなかったら、どうしよう……』
心の何処かで、アンナはそれを恐れていた。
憧れのギルバートが、自分のイメージとは違う人物だったらどうしよう。
手からプレゼントが離れるまでの時間が、アンナにはとてつもなく長く感じられた。
「君、僕たちが駅前でストリートライブをやっていた頃から見に来てくれてたよね?」
アンナの手から丁寧にプレゼントを受け取ったギルバート。
アンナが弾かれたように顔を上げると、彼女の視線の先でギルバートが優しい笑みを浮かべている。
「いつも見に来てくれてるよね。どうもありがとう。このプレゼントも大切にするよ」
そう礼を言ったギルバートは、ローディーや他のメンバーに促され、ようやくバンに乗り込んだ。
歓声とも悲鳴ともつきかねる奇声が、辺りに響く。
アンナは今起こった事が信じられなくて、呆然とバンの赤いテールランプを眺めていた。
憧れのギルバートが、自分からのプレゼントを受け取ってくれた。
そして、自分が何度もライブに足を運んでいた事も知っていてくれた。
今起こった事が現実だなんて信じられなくて、夢の続きをまだ見ているようで。
……幸せ過ぎて、頭の中が惚けている。
「ダムシアンの打ち上げに参加のファンの方は、居酒屋カイポに移動して下さい!」
ライブハウスから出てきたダムシアンのスタッフが、外に居るファンに呼びかける。
他のファンはワラワラと打ち上げ会場に移動するが、一部の心ないファンはアンナにこんな捨て台詞を残していった。
「てめーのせいで、あたしらがギルにプレゼント渡せなくなっちまったじゃねーかよ!!」
だがそんな罵声が耳に入らないくらい、アンナは夢心地の中に居た。

「アンナちゃん!」
裏口の前で魂抜けている様子の友人の肩を、リディアはポンと叩く。
アンナはリディアに名を呼ばれ、ようやく我に帰る。
「……リディア……?」
「どうしたの?あんまり遅いから、心配になって見に来ちゃった」
リディアはライブハウス前でアンナと待ち合わせしていたのだが、いくら待っても来ないので心配になってこちらに出向いてきたのである。
アンナは“どうしたの?”の問いに、両手で口元を押さえて心底幸せそうに笑うと、急にハイテンションになり、リディアの肩や腕をバシバシ叩き始めた。
「あ……アンナちゃん?」
さすがのリディアも、これには戸惑う。
あのお嬢様然とした上品な友人が、こんな行動をとるとは……。
彼女がここまでハイになるなど、一体何が起こったというのだ。
「アンナちゃん、何かいい事あったの?」
「あったの!!」
テンション高いまま、ぎゅっとリディアに抱きつく。
「プレゼント、受け取ってもらえたの!そしてギルバートね、私の事を覚えててくれたの!私がストリートライブ時代から観に行っていたの、覚えててくれたの!!」
「そうなんだ!よかったじゃない!」
リディアも自分の事のように喜ぶ。
やっぱり友達が幸せだと、自分も嬉しい。
「本当、すっごく嬉しいわ!」
リディアに抱きついたまま、ピョンピョン飛び跳ねるアンナ。
「手紙にね、私のwebメールのアドレス書いておいたの。メール来るといいな!」
「そうだね」
リディアはポンポンとアンナの背中を叩くと、何処かなだめるような口調で、
「もう遅いから、今夜は帰ろ?お父さん心配するよ」
「そうね。帰ろうか、リディア」
「うん」
頷き合った女子高生二人は更けつつある夜の道を歩き、駅へ向かう。
素晴らしいライブに、素晴らしい出来事。
アンナは夢を見ているような気持ちで、家路を急いだ。
父親が、大好きな父親が家で待っている。
「アンナちゃん」
「……何?」
「今日のライブ、よかったね。また誘ってね」
リディアの言葉を受けたアンナは、真夏のヒマワリのような笑顔を友人に見せた。
「また一緒に見ようね!!」

その夜はリディアにとっても特別な夜になったようである。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ