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晴れた日の過ごし方 2

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「……で、俺は八つ当たりされたわけか」
台所で料理本を眺めつつビールを飲んでいたカインが、苦虫を10匹ほど噛み潰した顔でそううめく。セシルは苦笑しつつ、
「まぁ、今回は交通事故みたいなものだと思った方がいいんじゃない?」
「そうよ。リディアも喜んでいたし」
とローザ。
この台所とエッジたちのいる居間はガラス戸のはまった障子で隔たれているため、隣の部屋の会話が全て筒抜けなのである。
(居間にいるエッジたちは自分たちの話でイッパイイッパイなので、台所からの声など全く聞いちゃいなかったが)
そのため台所に引っ込んだこの幼馴染み三人は、居間で交わされる会話を労せずに耳にすることができた。
盗み聞きをしているわけではない。勝手に聞こえてくるのだから、盗み聞きではない。
「エッジがあんなに必死になるところ、長い付き合いだけど初めて見たよ」
セシルも缶ビールのプルタブを開ける。ああ、今日は飲まなきゃやってられない。
ローザはその横でリンゴを剥いていたが、不機嫌な幼馴染みと、苦笑いを浮かべている恋人にこう言った。
「でも、リディアが幸せになればそれで済んでしまうと思わない?」
その言葉に、お互いの顔を見合わせるセシルとカイン。二人はどこか諦めたように笑うと、ビール缶を乾杯するかのように触れ合わせた。
「ルネッサーンスって、あれ?」
「ネタが古いぞ、セシル」
と、突然。台所と居間を分けていたガラス戸の障子が勢いよく開け放たれた。
柱にぶつかったガラス戸が、耳障りな音を立てる。
「お前ら、こんな時間から飲んでるのかよ」
エッジである。来訪時の生気のなさはどこ吹く風。今は生まれ変わったかのように清々しい顔をしている。
……現金なものだな。
カインはそのつぶやきをビールと共に胃に流し込む。
自分は間男扱いされたのだ。一発殴ってやってもよかったなと、今のエッジの顔を見たら思う。
「話は上手くいったようね」
「そうなんだよ、ローザ。フハハハハハハハ」
話している途中なのに笑いこけている。
……さっきとは別の意味で、エッジは可哀想な人になりつつあった。
「で、何だ、帰るのか?」
カインの冷たいサファイアで一瞥されたが、エッジは全く気にした様子もなく、
「お前さっきプリン出してたろ。あれ、リディアに一口貰ったんだけさ、美味かったな」
「そうか」
カインの返答は、冷たい。
吐き出した息がドライアイスになってしまうんじゃないかと考えてしまうくらいに冷たい。
だがエッジは意にも介さず、
「美味かったからアレ、俺にもくれよ」
さっき残ってたろ?と尋ねるが、セシルはアルコールがほんのり回ったピンク色の頬で、
「あれ、エッジが要らないって言うから、僕が食べたよ」
「え」
「カインが可哀想だったからね。美味しかったよ、カイン」
「また作ってやるよ」
「あれはエッジの自業自得よね」
ローザもエッジを庇う気は毛頭ないらしい。そりゃそうだろう。折角の恋人とのまったりとした時間に乱入されたのだから。
「それよりもエッジ、リディア送っていってあげたらどう?もう夕方よ」
「え?もうそんな時間か!」
気がつけば、オレンジ色の太陽が西の空に沈みかける時間である。
カインは手元にあった自分のRV車のキーをエッジに投げ渡すと、パッパと追い払うように手を振った。
「俺たちはもう飲んでしまったから運転できん。車を貸してやるから、リディアを頼む」
「お前、保険は?」
「俺の車は極稀にセシルも運転するので、心配は要らん」
「なるほど。なら借りるぜ」
鼻歌まじりの様子でカイン宅を後にしたエッジ。その際リディアがカインに、
「今日はごめんね。迷惑かけちゃったみたい」
と、ひどく申し訳なさそうに言うものだから、流石のカインも仏心がわいてしまい、
「あまり気にするな。足が必要なら、また声をかけてくれ」
「ありがとう、カイン!」
広大な花畑の花が一斉に咲いたような、幾千の宝石をライトに当てたかのような。
リディアの笑顔には、人目を惹き付ける何かがあった。
エッジの運転するカインのRV車が安全に発進したのを確認した三人は、屋内に戻る。
時間が時間なので、そろそろ夕食の支度を始めなければならない。
「カイン、今夜は鍋がいいなぁ」
「何だ、いきなり」
「今夜はローザもエッジもいるだろうから、鍋にしようよ。二人じゃ鍋はできないから」
「……どうする、ローザ。食べていくか?」
「カインがいいって言うのなら」
「では今夜は4人前の鍋だな」
シャツの袖をめくって台所に立つカイン。
いつもは居間でテレビを見ているだけのセシルも、今夜は親友とともに台所で作業をしている。
ローザがいるので、いつものようにのほほんとしていられなかったのである。
「カイン、今日は美味しいもの作ろう」
「俺はいつも美味く作っているつもりだが?」
皮肉っぽいカインの笑み。確かにカインの料理はおいしいので反論できない。
「でも、今日はいつもよりも美味しいと思うよ」
銀色の長い髪をゴムでまとめたセシルは楽しそうにネギを切る。更に皮肉を濃くするカイン。
「お前が手伝っているからか?」
「どうしてそういう事言うかな。今日はいつもの倍の人数で食べるからね。きっといつもの倍美味しいよ」
サファイアの瞳を、ほんの少しだけ見開くカイン。
セシルが物言いたげに片目を閉じたところで、玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「セシル、カイン、今戻ったぜ!もうこんな時間だから、飯食わせてくれよ!」
「やっぱりね」
予想通りの展開にセシルは思わず笑みをこぼす。
「今日は4人か。後片付けが大変だな」
そうぼやくカインの表情も、満更でもなさそうな様子だった。
「絶対に今夜は楽しいさ」
セシルは、笑う。

やはり食事は、大人数で食べた方が美味しくて楽しいのである。
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ