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晴れた日の過ごし方 2

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昨日セシルは、家に帰ってこなかった。
兄のゴルベーザのマンションに泊まる事になってしまったらしく、夕食を済ませて後片付けをしていると、セシルから電話がかかってきた。
『あのさ、カイン』
「どうした?お前の夕食は用意していないぞ。吉牛かマックで食べてこい」
『せめてガストにしてくれないかなぁ』
電話の向こうで苦笑いしているのがわかる。こういう軽口の叩き合いも、幼馴染みならではであった。
「話がずれたな。こんな時間に電話なんて、どうした?」
再びカインが訊ねると、セシルは泣くのを我慢するような声で、
『今夜僕、兄さんのマンションに泊まるから、玄関の鍵閉めちゃっていいよ』
「ああ、そうか」
他人にはわからない程度に息を吐くカイン。
いつもセシルはなんだかんだ言っても、ゴルベーザのマンションには泊まらなかった。
夜中にタクシーを使い、カインの家の玄関の引き戸を叩いて、
「カイン、遅くなってごめんね」
と詫びながら、親友兼家主を呼び出すのが常であった。
そのセシルが、今夜は戻らないという。
「とにかく、相手に迷惑をかけないようにな。明日気をつけて帰ってこいよ」
『君、僕の保護者みたい』
セシルは笑う。
ようやくいつものセシルっぽくなったなと、カインは感じた。だから彼はできるだけ平生の口調で、
「お前はちょっとおっちょこちょいなところがあるからな。俺も心配なんだよ」
『うわ、カイン、本気でおっさん化してるよ』
「誰のせいだ、誰の」
と、受話器の向こうから、セシルのものでない声がする。雰囲気から察するに、長電話を咎められているようであった。
『……カイン』
ややトーンの落ちたセシルの声。昔からセシルは、誰かに叱られるとこのような声を出す。
『兄さんに叱られちゃったから、僕そろそろ切るね』
『怒られた』ではなく『叱られた』ときたものだ。相当ゴルベーザに気を遣っているのだろう。
「ああ、お休み。セシル」
『お休み、カイン』
お互いに挨拶して電話を切る。
ツーツーと不通話音を発する黒電話を握り締めながら、カインはしばし考える。
「……今日は珍しく泊まりか。一体何があったのだろうか?」
心配といえば、心配だ。セシルは兄とあまり折り合いがよくないのである。
「まぁ、お互い大人だから、それほど酷い事にならなんだろうが」
気楽に考えたカインは受話器を置くと、片付けの続きをすべく台所に戻った。
一人分だと、片付けも楽だ。

風呂から上がったカインは、自室にこもってノートパソコンでインターネットに興じた。
いつもならセシルと居間でテレビを見ている時間帯である。
いい歳した男が二人でテレビを見るのはどうなんだという向きもあろうが、随分長い事こんな生活をしているのですっかり慣れてしまった、
だが、今日はこの広い家に、一人だ。
清々する!と思う反面、少々寂しかったりもする。
『ねぇ、カイン。テレビつまらないから、プレステやろうよ』
雛壇芸人のトーク番組ばかり並んでいると、セシルがそんな事を言い出してきたりする。
カインは居間にノートパソコンを持ち込んでネットをしているのが常のため、テレビがつまらなかろうがあまり関係ない。
ネットだったら自分の部屋でいじればいいのかも知れないが、セシルが一人でテレビを見るのを嫌がるので、自然こうなってしまう。
だがカインは、それがイヤではなかった。
自分も一人だった時期があったので、セシルと一緒に暮らすのは心が落ち着いた。
「俺も結構、セシルに……」
セシルに精神的に依存していた事に気付き、苦笑するカイン。
マウスを操作しながら、セシルと暮らす毎日の事が頭を過る。
「今日は僕がご飯を作るよ」
というといつもカレーだったり、ホラー映画を見た夜は一人じゃ眠れないと言ってカインの部屋に布団を敷いて寝たり。
未だにビデオのタイマー予約ができなかったり。
本当に手のかかる同居人なのだが。
カインはそれがイヤではなかった。
「こういう生活も悪くない」
いつの間にやら、そう考えている自分が居た。
むしろ、必要とされているようで嬉しかった。
……ずっとこんな日が続けばいいと願っている自分も居た。
けれども、セシルはそのうちローザと結婚してこの家を出て行くであろう。
その日は遠くないかも知れない。
けど、けれども。一月でも、一日でも長く。今の生活が続く事をカインは切望に近い感情で願っていた。
「ずっと二人で暮らしたいと言い出したら、お前はどんな顔をするだろうか、セシル……」
優しい顔立ちの親友の姿が、瞼の裏に浮かぶ。
「……って、俺は何を考えているのだが」
自嘲するように呟いたカインは、パソコンの電源を落とすとベッドに潜り込んだ。
いつも居る人間が居ないおかげで、精神のリズムが狂っているのかも知れない。
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ