Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1
「警護をしてくださるのはありがたいのですけど、できる限り研究の邪魔になるようなことはしないで下さいね。それと、決して研究中は部屋に入らないで下さい。私、人に見られると思うように研究出来ないんです」
「まあ、そう言うことなら邪魔はしねぇよ。安心して研究なりなんなりやってくれや」
すこしばかり念押ししていた。
まぁ、人によっては見られていると思うように事が進まないっていう人もいるからね。
そんなわけで俺たちは早速出発した。
行き先はとりあえず近くの町に行くことにする。
アキレウスの戦車に乗り、近くの町の付近に降りて早速義賊についての情報を探る。
「あの、すみません。少々お伺いしたいことがございます」
マシュはいつものように町行く人に代わる代わる話しかけ、情報を集めていった。
アキレウスは万が一に備えて霊体化して辺りを探索し、キャスターは建物の壁等をじっくりと観察していた。
「あの、何してるんですか?」
「………」
無視ですか。
初めて会ったときも無駄な話は嫌いだと言っていたが、ここまで無視されると結構辛い。
……ここは臨機応変に話題を変えていこう。
サーヴァントとのスキンシップもマスターとしての役目だからな!
「……この壁って、なにでできてるんですかね?」
「おそらくだが、この地域で取れる土と砕いた岩を混ぜて塗り固めているのだろう。雨風に強く、耐火性も僅かだがある。この時代の建築技術としてはいい方だな」
「そ、そうですか。キャスターさんって詳しいですね」
「何事も必ず『何故?』などの疑問から始まる。その疑問を細かく考えてみればまた新しい疑問が生まれる。それの繰り返しをしていくと、いつしか森羅万象の一片を見ることとなる。 ……まぁ、深く考える必要はない。子供のように素直に疑問に思うことが大切なのだ」
「疑問……か……。どうして無駄な話が嫌い何ですか?」
「……別に話すことが嫌いではない。討論も自分の意見や主張を口にすることも俺はどちらかと言えば好きな分類だ。だが、無駄話ほど効率の悪いものはない。確かに相手との距離が近づいたり好感度は高くなるだろう。だが、はっきり言って時間の無駄だ。無駄話をして時間を浪費するくらいなら、自分の世界に閉じ籠って物思いにふける方がまだましだ。少なくとも俺はそう考えている」
「……そうですか。でも、キャスターさんって……」
言おうとして、止めた。
まだ会ってから時間が経っていないのもそうだが、ここまで言ってしまうのも俺としてはどうかと思うところがある。
余計なお世話だと、怒られるかもしれない。
だから、口を途中で閉じた。
「………」
キャスターさんはそれに追及し来なかった。
暫くしてマシュが戻ってきた。
「お待たせしました。どうやら義賊は隣の町で活動しているようです。早速行ってみませんか?」
「うん、そうだね。魔力が切れて消滅しちゃわないうちに早く行こう。お願い、アキレウス」
『あぁ、任せておきな!』
霊体化したままアキレウスは返事をした。
町を出てアキレウスの戦車で移動する事数十分、ようやく町が見えてきた。
戦車から降りて町に入ってみると、なにやら騒がしかった。
「一体何かあったんでしょうか?」
「ひとまず行ってみよう」
俺たちは足早に町に入り、町の中心に向かった。
そこにいたのは武装した盗賊風の男たちが、町を襲撃していた。
盗賊たちは町の人々から金品や食料を奪っていたのを目撃した俺は、すぐさまマシュに指示を出した。
「マシュ!」
「はい! オルテナウス起動! 町民の救助を最優先に戦闘行動を開始します!」
マシュを先頭にアキレウスも走りだし、次々と盗賊たちをなぎ倒していく。
マシュは襲われている人々を守りながら盗賊を撃退している。
キャスターはと言うと。
「ふん、無駄な……」
瓦礫を浮き上がらせて、それを盗賊たちの上にまるで雨のように降らせていた。
瓦礫を逃れた盗賊の一人がキャスターに向かって走り出したが、キャスターはその盗賊も宙に浮かばせ、盗賊たちの方に向けて投げた。
「殺せ! あの、魔術師から殺せ!」
盗賊の頭らしい人物が指示をだし、残っていた盗賊たちは一斉にキャスターめがけて攻撃を開始した。
「疑似宝具展開。降り注げ、天の裁き」
キャスターが魔力を少しだけ解放すると、上空から何かが降ってきた。
『気をつけて! 上空から隕石群が降ってくる! マシュ!』
「はい! 皆さん私の後ろに!」
俺は急いでマシュの後ろに行くと、マシュは宝具を解放した。
「真名、凍結展開。これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城――呼応せよ!『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』!」
マシュの宝具が発動した直後、隕石群が降り注いだ。
しかしそれはピンポイントに盗賊たちの上に降り注ぎ、俺たちのほうには来なかった。
数秒ほど降り注いだ隕石が止むと、そこには盗賊たちが倒れていた。
「今のは、対軍宝具でしょうか?」
『いや、少量の魔力で放たれた宝具だ。それなのにあの威力だと思うと、もっと上だと思う。対城……いや、対界宝具に匹敵する。恐ろしいサーヴァントを味方につけたようだね』
「対界……宝具」
かの英雄王の宝具と同じ対界宝具。
……確かにあの有名な哲学者ならそのレベルの宝具を持っていても違和感はない。
真名を名乗っていない以上憶測での判断だが、まず間違いないだろう。
「大方片付いたようだな。生き残りはとっくに逃げたな」
「はい、住民の皆さんも怪我はありません。戦闘を終了しま……」
『待って! サーヴァント反応! 8時の方向!』
「っ!?」
ダ・ヴィンチちゃんの声に従い8時の方向を向いてみると、大きな高笑いが聞こえた。
「やぁやぁ盗賊諸君! この町でずいぶんと暴れてくれやがりましたっすね!」
屋根の上に誰かがマフラーのような物をたなびかせて仁王立ちをしていた。
声からして少女のようだった。
「だがしかぁし! このアッシが来たからには悪行の限りを尽くさせるわけにはいかないっすよ! 例え神様仏様が許そうとも、この天下の大泥棒石川五右衛門様が許さねぇっすよ~!」
ポニーテールの少女が大見得を切っていた。
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作品名:Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1 作家名:獅子堂零