Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1
「そう! この何とも言えないデンジャラスな雰囲気、見た目、そして形! まごうことなき危険な匂いがプンプンする! 私はそれを解明したい! そして新たな一ページにメラニア大先生の名を刻むのだ!」
なかなかに目標の高い人だな。
『パンドラ。ギリシア神話に登場する女性の名で、神々によって作られ人類の災いとして地上に送り込まれた人類最初の女性。まあ、その黄金の林檎……以降、パンドラとしよう。それがなにかも分からない以上、危険物であることは確かだろう。ミス・メラニア。貴女の研究はどこまで進みましたか?』
突然のホームズの問いかけに、驚く暇もなさそうに興奮しているメラニアさんはペラペラと研究成果を発表した。
「そうですね、まず始めに調べたのはどのように発生したのかですね! これについては、この謎の空中庭園の土がいい案配でパンドラの成長を促していることがわかりました! 試しに他の土地で種を植えてみたところ、発芽すらしませんでした! つまりこの空中庭園はパンドラの栽培に最適だったのです! 次に味ですね! 見た目は色を抜かせば普通の林檎と大差ありませんが、味は上品かつ、依存性の高い甘さであることが判明いたしました! 試しに色々な食べ方で懸賞してみましたが、生で食べた方が美味しいですね! すりつぶしてジュースにしてみたり、焼いて食べてみましたが、甘味が完全になくなり、苦味と渋みしか残りませんでした! これは大発見でしたね! ふっふっふ~! これだけ調べても調べても、まだまだこのパンドラには無限の可能性が秘めている気がするんです! ……とまあ、この程度ですかね?」
「な、長い……」
「そうですか? 結構かいつまんで説明しましたが……」
「もういいです。ありがとうございました」
長話を聞かされぐったりしていると、キャスターがメラニアさんに一つの疑問をぶつけた。
「一つ聞く。その林檎……いやパンドラはどうやって手に入れた」
「そうですね。確かにそのパンドラの群生地であるヘスペリデスの園に足を踏み入れると、パリスさんが現れます。逃げようとしても音速を越える矢を放放たれてしまいます」
「パリス? ……あぁ、あの弓を持った人ですね! あの人の目を掻い潜って落ちているパンドラを拾っているんです! 何度か発見されましたが、そこは女性としての交渉術でなんとか切り抜けましたね!」
この女、交渉だけでパリスから逃げていたのか。
そう考えると、パリスは話が分かりそうなサーヴァントだが、どうやらアキレウスを目の敵にしているようだった。
もし、アキレウスを連れずにもう一度パリスに会ったら、戦わなくて済むかもしれない。
うまくいけばこちらの仲間になってくれそうだ。
「その人はどんな感じですか? 例えば、次来たら撃ち殺すぞ、とか言いそうですか?」
「いえいえ、とても紳士な方ですね。足元に気をつけてねとか、転ばないようにねとか言ってくれましたね。それと、パンドラを拾っているところを見られましたが、なにも言われませんでしたね。ただ帰り際、笑顔で手を握っていました」
「……いい人ですね」
「そうだね。いい人だと思うね、アキレウス?」
「俺に振るな。俺はあいつに殺されてんだ。次は必ず俺が倒す、それだけだ」
そう言うとアキレウスは建物から出ていった。
メラニアさんから聞くパリス像は優しい紳士であることがわかった。
だけど、ギリシャ神話で聞いたパリス像とはどこか違っていた。
パリスはアフロディーテを選び、その提案としてヘレネを奪い去り、そして引き渡しを拒んだためトロイア戦争が勃発した。
……とてもそのような事をする人のようには見えなかった。
「……ともかく、お前はパンドラの研究をするためにここにいるのだな。となれば、ここの情勢にも詳しいと判断する」
「え? まぁ、そうですね」
「それでは一つづつ聞いていく。知っている範囲でいいから答えてくれ」
「は、はい、お手柔らかに」
キャスターはメラニアさんに容赦なく質問していった。
女王のこと、空中庭園にいる人やサーヴァントのこと、セミラミスの居場所。
俺たちが聞きたい事を歯にもの着せぬ言い方でどんどん聞いていく。
そしてキャスターのお陰でさまざまな事が判明した。
『それじゃ、質問とそれの答えを纏めるよ。まず女王エリザベスはヘスペリデスの園のさらに奥、つまり空中庭園の中央にある古城にいる。そこにセミラミスがいると考えられるね。そしてこの空中庭園にいるサーヴァントは全部で5騎。パリス、セミラミス、エリザベス、上空にいる女神系サーヴァント、そしてまだ会っていないセイバー。う~ん、5騎が相手となるとこちらの戦力も増やさないといけないかもね。せめてあと一人はほしいね』
「それでしたら、パリスがあることを言ってました。この特異点に哲学者と義賊がいるって」
『哲学者と義賊……哲学者はそこにいるキャスターの事だとして、義賊はまだ会っていないサーヴァントだと思われるね。メラニアさん。義賊についてなにか知っているかい?』
「申し訳ありません。久しく地上に降りてないものですから、地上の情勢はちょっと……」
『そうか。それじゃ、女王の事についてわかったことだし、次の目標は義賊のサーヴァントを探すってことでいいかな?』
「異論はありません」
『うんうん、いい返事だ。だけど、今日はもう遅い。その建物を臨時拠点として、今日は休むといい。それでいいかなメラニアちゃん』
「はい、狭いところですけど、ゆっくりしていってください」
今日の探索はここで切り上げ、特異点初日を終えた。
明日は地上に降りて義賊のサーヴァントを探す。
出来ることなら仲間になってほしいが、まあ、今回もなんとかなるだろう。
そう思いながら俺はメラニアさんの拠点で休むことにした。
……。
………。
…………。
「……やあ、セイバー。どこにいってたんだい? 今日は襲撃があったって言うのに」
「あの男がこの世界にいる。寝ても覚めても、死んだ後でもあの男を思うと、胸が苦しくなる」
「あの男か……へぇ、そう言えば君は彼にただならぬ因縁があるんだっけ? 君のいた場所の歴史は分からないから、浅知恵で推測するしかないけど……」
「それで合っています。私は彼ともう一度戦う。そして私が勝つ。今度はあの屈辱を、辱しめを! アイツに与えてやる!」
「……ふう、やれやれ。女の執念って怖いものだね」
「今度は私が勝つ! そして終わらぬ苦痛を! 屈辱を! 死を与えてやる! 待っていろ、セタンタ!」
◆◇◆◇◆◇
第6部 天下の大泥棒
「それではクーフーリンさん。メラニアさんの警護をよろしくお願いします」
「応っ、任せな!」
メラニアさんの拠点で一夜を空かした俺たちは、少しだけパーティー編成を変え、下に降りて義賊を探すチームと、メラニアさんの警護をする人選をした。
消極的に考えてクーフーリンの兄貴が適役だったので、拠点の警護を任せる事にする。
その事にメラニアさんは……
作品名:Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1 作家名:獅子堂零