彼方から 第二部 最終話
エイジュのその言葉は、『あちら側』の知らせに基づく確かなものだったのだが、ガーヤはただの気休めと取ったのだろう……応えながら溜め息をついている。
二人が、そんな会話を交わしている内に、皆がざわつき始めた。
「ん……?」
それに気づき、ガーヤが眼を見張る。
「おい! いたぞ!!」
バラゴが、エイジュとガーヤに向けて、嬉しそうに大声でそう言ってくる。
「本当かいっ!?」
ガーヤは喜び勇んで、バラゴの元へと駆け寄った。
皆が、ノリコを抱き、歩み寄ってくるイザークを笑顔で迎えている。
良かったと、喜びの声が響いている。
皆に迎えられ、囲まれ、慣れていないのか、少し戸惑ったような表情を浮かべ応えているイザーク。
エイジュはもう一度、胸に指先を当てていた。
――『ノリコ……』『怪我……』
――『一緒に……』『治す……』
『あちら側』は、そう伝えてくる。
どれほどの怪我なのか……そこまでは伝えてはくれない。
イザークの様子から、彼女の命にまで係わるような怪我ではないのだろうと、エイジュは推察する。
――確かに、『あちら側』は、一度しか『大丈夫』とは言わなかったけれど……
気を失うほどの、一人では歩くことが出来ないほどの怪我をした……そのことに手が震えてくる。
大岩鳥に攫われた後、二人に何があったのか……
大気を伝い来る彼の気で、それは全て分かっていた。
『あちら側』の制止がなければ、すぐにでも二人を救いに行きたかった……
『あちら側』の傀儡と同じこの身が、初めて恨めしいと、そう思えた……
――でも、だからこそイザーク……
――あなたはもう少しで手に入れられるのよ……掛け替えの、ないものを……
陽はすっかり落ち、夜空には数多の星が煌めいている。
――このまま、どのくらいの間、一緒に居られるのかしら……
ふと、そんなことを思う自身に、エイジュは苦笑していた。
彼らと共に居るのは、ただの『役割』であったはずなのに……と。
まだ、彼らと行動を共にし始めてから、一日と経ってはいない。
それなのに、そんなことを思うほど、彼らの存在が、自分の中に居座り始めている……
これも、『あちら側』の思惑なのだろうか……そう思う。
皆がこちらを振り向き、呼び寄せるように手招きをしているのが見える。
「今、行くわ」
エイジュはそう応えると、心落ち着かせるかのように深く息を吐き、歩きだした。
第二部 ― 完 ―
作品名:彼方から 第二部 最終話 作家名:自分らしく