BLUE MOMENT10
まずかっただろうか?
藤丸に嫌な思いをさせてしまっただろうか?
「あ! シ、シロウ! だ、大丈夫なのですか? 足元がふらついて……」
セイバーが腕に触れる。
なんでだろう。すごく、物足りない。
セイバーの細い手指では、違和感しか浮かばない。
「…………アー……チャー……」
違和感からか、どうすることもできなくて、アーチャーを呼んでしまった。
「え? アーチャー?」
「あなたはお呼びではないようですよ、セイバーの私!」
セイバーと同じような声に目を向けた。
「な! 何を言うのです! 私は、」
あれ? なんで、セイバーが二人……?
おかしいな、左目の視力、だいぶ良くなってるって、思っていたんだけどな……。
「シロウ、ほら、アーチャーですよ! 私はアーチャーの、」
不思議だな……。二重に見えるセイバーの服が違う気が……。
なんだか、二重のセイバーが、口喧嘩をしているような……?
「…………」
早くアーチャーに会いたい……。よくわからない現象に、今は頭がついていかない。
「アーチャー……」
やっぱり、セイバーは後にしてもらおう。
そういえば、セイバーはご飯を作ってほしいって言ってたな。ランサーもまた焼きそば食いたいって……。
ああ、なんか、いろいろ頼まれてたことを思い出した。
何階だったかな、水道管が凍結しやすいからどうにかできないかって相談も受けてたし、管制室の配線をやり直したいから手伝ってくれって言われていた。
それから、厨房の手伝いを、また、アーチャーに……。
(ああ、会いたい……)
顔を見るだけでいいから、少しその手に触れるだけでいいから……。
その眼差しを……、その声を……、その温もりを……。
BLUE MOMENT 10 了(2019/7/19)
作品名:BLUE MOMENT10 作家名:さやけ