誰にも君を渡さない 2
誰にも君を渡さない 2
ブライトがブリッジに上がると、正面モニターいっぱいにシャア・ダイクンが映し出されていた。
ネオ・ジオンの象徴である鷲の紋章を背負い、堂々とした風格を醸し出す姿に、敵ながらも思わず魅入ってしまう。
ブライトはゆっくりと艦長席へと座り、モニターを見据える。
《アクシズの地球降下は成し得なかったが、まだまだ我々には地球連邦政府に対峙する余力がある事は分かって頂けたと思う。我々ネオ・ジオンは地球連邦政府に対し、独立を宣言すると共に、条件によっては和平条約に応じる準備がある。地球連邦政府の英断を期待する》
モニターにはシャアの姿と、ネオ・ジオンの軍勢が映し出される。
グリプス戦役から7年、強大な連邦軍に叛旗を翻すのには決して充分とは言える時間ではない。
しかしこの男は、その短い期間でこれだけの軍勢を秘密裏に準備し、万全の状態で連邦へ宣戦布告をしたのだ。
改めて、敵とは言えこの男の力量に感服する。
それに、自身は連邦軍の軍人ではあるが、シャアの言い分は十分すぎる程理解出来た。
地球連邦政府は地球から宇宙移民を支配し、その人権を軽視して弾圧している。
そして未だ留まるところを知らぬ汚染は母なる地球から自然を奪っていく。
それを憂い、立ち上がった男にスペースノイドが賛同するのは当然だ。
地球寒冷化と言う暴挙には賛成できないが、その想いはスペースノイド達の総意だろう。
シャアの演説が終わり、ラー・カイラムのブリッジに微妙な空気が流れる。
それはそうだろう、命がけでアクシズの落下を食い止めたものの、未だネオ・ジオンの脅威は衰えず、寧ろその勢いを増しているのだ。
ブライトは小さく溜め息を吐くと、哨戒の指示を出す。
「さぁ、仕事だ!俺たちは俺たちの仕事をするぞ!」
「はい、艦長」
皆が任務へと戻り、ブライトはドカリと艦長席に腰を下ろす。
と、そこにオペレーターから声が掛かる。
「艦長、木星船団の調査船から通信が入っています」
「木星船団だと?」
「はい、任務を終えて地球圏に帰還したところ、地球連邦軍本部と連絡が取れないとの事で、事情を聞きたいそうです」
「そりゃそうだろう、連邦軍本部はネオ・ジオンの対応に追われてそれどころじゃないだろうからな」
「それから、食料物資の補給も願い出ています」
「分かった、受け入れを許可する」
「了解です」
ラー・カイラムへと接触をしてきた木星船団の調査船から数人の船員がラー・カイラムのブリッジへと足を踏み入れる。
その中の一人を見て、ブライトが驚きに目を見開く。
「ジュドー⁉︎」
「ブライト艦長!」
そこに現れたのは、かつてZZガンダムのパイロットであったジュドー・アーシタだった。
当時十四歳だった少年は、二十歳を超えて青年へと成長していた。
身長も伸び、今ではブライトと並ぶ程だ。
「お前の船だったのか!」
「驚いたな、ブライト艦長!お久しぶりです!」
ブライトはジュドーの肩を叩くと嬉しそうに微笑む。
「元気そうで何よりだ」
「艦長こそ!」
「しかしまた、とんでもないタイミングでの帰還になっちまったな」
「らしいですね。さっきの見ましたよ」
「ああ、なんとか最悪の事態は免れたんだがな、これからどうなる事やら…。ああ、すみません。ラー・カイラム艦長 ブライト・ノアです」
共にブリッジに来た調査船の艦長に挨拶をし、状況の説明をする。
そして、おそらく暫くは混乱で地球への寄港は難しいだろうと、食料などの物資の補給を約束した。
◇◇◇
その後、ジュドーは積もる話もあるだろうと言う船長の配慮でラー・カイラムに残る事になった。
「しかし驚いたな」
「本当ですよ、まさかブライト艦長の艦だったとは」
ブライトはコーヒーをジュドーに差し出し、自身もコーヒーを手にソファに座る。
艦長室に招かれたジュドーはキョロキョロと室内を見ながらもブライトに微笑む。
「あれから七年ですか…今回の叛乱から察するに、地球連邦政府のお偉方は相変わらずといったところですかね」
「ああ、エゥーゴは一体何の為に戦ったのか…シャアが叛乱を起こすのも無理はないと思ってしまう…、と、これはオフレコでな。俺の立場で言っちゃマズイ事だ」
「ははは、そうですね」
「そういえば、この艦にはあのアムロ・レイが乗ってるんですよね?やっぱり今回のアクシズ落下阻止にも彼が?」
ジュドーの言葉に、ブライトが一瞬ビクリと肩を揺らすが、小さく息を吐いて「まぁな」と答える。
「そういえば、お前はアムロに会った事が無かったんだったな」
「ええ、俺が地球に降りた時、丁度アウドムラを降りて宇宙に上がったらしくて、すれ違いでした」
「そうだったな」
あの時、アムロはシャアの行方を探す為に宇宙へ上がっていた。
モビルスーツに乗れるようになったとは言え、まだ精神的には辛かったろうに、シャアを探す為に無理を押してまでアムロは宇宙に上がったのだ。
「会ってみたいな」
「……」
「艦長?」
「あ、ああ。いや、すまん。実は今回の戦闘で負傷してな、今はちょっと…」
「え⁉︎大丈夫なんですか?」
「ああ、打撲や骨折はあるが命に別状はない」
「そうなんだ…、良かった」
ホッと肩を撫で下ろすジュドーに対し、本当の事を言えず少し罪悪感が込み上げる。
「そう言えばさっきドックでアストナージを見かけました。懐かしいなぁ」
「後で会いに行くといい、アイツも喜ぶ」
「はい、そうします」
と、そこに呼び出しのコールが鳴り響く。
「ん、何だ?すまんな」
「いえ」
ブライトは立ち上がると、モニターをオンにして通信を繋げる。
《来客中にすみません、ハサンです。至急医務室にお越し願えますか?》
「どうした?」
《大尉の事でちょっと…》
「アムロの?」
《はい…》
とハサンが答える後ろで、アムロの叫び声が聞こえる。
「アムロがどうかしましたか⁉︎」
《少し前から暴れて出しまして…》
何かが激しい音を立てて倒れる音と、チェーンの叫ぶ声。そしてアムロのうめき声が響く。
「分かりました、直ぐに行きます」
通信を切った後、ブライトはハッとジュドーを振り返る。
「艦長…今の…」
ジュドーはかつて心を壊したカミーユと接している。おそらく今の通信で状況を察したのだろう。
ブライトはジュドーに隠しても仕方がないと、溜め息を吐く。
「実は…な…」
自分も医務室に行くと言うジュドーを拒みきれず、一緒に医務室へ入ると、そこには点滴の針を引き抜き、腕から血を流したアムロが床を這っていた。
歩こうとしたが、右足の骨折により歩く事が出来なかったのだろう。
しかし、何かを求めるように必死に床を這って進もうとしていた。
「アムロ!」
「艦長!すみません、私ではアムロを抑えきれなくて…」
チェーンが必死にアムロの上に覆い被さって止めようとするが、どこにこんな力があるのかと言う程の力で払い除ける。
「アムロ!」
ブライトが慌てて駆け寄りアムロを押さえつける。
「あ、あ、ああああああ」
言葉にならない声で叫ぶアムロに、ジュドーの目は釘付けとなり、その様子に驚愕する。
『この人が…アムロ・レイ?』
ブライトがブリッジに上がると、正面モニターいっぱいにシャア・ダイクンが映し出されていた。
ネオ・ジオンの象徴である鷲の紋章を背負い、堂々とした風格を醸し出す姿に、敵ながらも思わず魅入ってしまう。
ブライトはゆっくりと艦長席へと座り、モニターを見据える。
《アクシズの地球降下は成し得なかったが、まだまだ我々には地球連邦政府に対峙する余力がある事は分かって頂けたと思う。我々ネオ・ジオンは地球連邦政府に対し、独立を宣言すると共に、条件によっては和平条約に応じる準備がある。地球連邦政府の英断を期待する》
モニターにはシャアの姿と、ネオ・ジオンの軍勢が映し出される。
グリプス戦役から7年、強大な連邦軍に叛旗を翻すのには決して充分とは言える時間ではない。
しかしこの男は、その短い期間でこれだけの軍勢を秘密裏に準備し、万全の状態で連邦へ宣戦布告をしたのだ。
改めて、敵とは言えこの男の力量に感服する。
それに、自身は連邦軍の軍人ではあるが、シャアの言い分は十分すぎる程理解出来た。
地球連邦政府は地球から宇宙移民を支配し、その人権を軽視して弾圧している。
そして未だ留まるところを知らぬ汚染は母なる地球から自然を奪っていく。
それを憂い、立ち上がった男にスペースノイドが賛同するのは当然だ。
地球寒冷化と言う暴挙には賛成できないが、その想いはスペースノイド達の総意だろう。
シャアの演説が終わり、ラー・カイラムのブリッジに微妙な空気が流れる。
それはそうだろう、命がけでアクシズの落下を食い止めたものの、未だネオ・ジオンの脅威は衰えず、寧ろその勢いを増しているのだ。
ブライトは小さく溜め息を吐くと、哨戒の指示を出す。
「さぁ、仕事だ!俺たちは俺たちの仕事をするぞ!」
「はい、艦長」
皆が任務へと戻り、ブライトはドカリと艦長席に腰を下ろす。
と、そこにオペレーターから声が掛かる。
「艦長、木星船団の調査船から通信が入っています」
「木星船団だと?」
「はい、任務を終えて地球圏に帰還したところ、地球連邦軍本部と連絡が取れないとの事で、事情を聞きたいそうです」
「そりゃそうだろう、連邦軍本部はネオ・ジオンの対応に追われてそれどころじゃないだろうからな」
「それから、食料物資の補給も願い出ています」
「分かった、受け入れを許可する」
「了解です」
ラー・カイラムへと接触をしてきた木星船団の調査船から数人の船員がラー・カイラムのブリッジへと足を踏み入れる。
その中の一人を見て、ブライトが驚きに目を見開く。
「ジュドー⁉︎」
「ブライト艦長!」
そこに現れたのは、かつてZZガンダムのパイロットであったジュドー・アーシタだった。
当時十四歳だった少年は、二十歳を超えて青年へと成長していた。
身長も伸び、今ではブライトと並ぶ程だ。
「お前の船だったのか!」
「驚いたな、ブライト艦長!お久しぶりです!」
ブライトはジュドーの肩を叩くと嬉しそうに微笑む。
「元気そうで何よりだ」
「艦長こそ!」
「しかしまた、とんでもないタイミングでの帰還になっちまったな」
「らしいですね。さっきの見ましたよ」
「ああ、なんとか最悪の事態は免れたんだがな、これからどうなる事やら…。ああ、すみません。ラー・カイラム艦長 ブライト・ノアです」
共にブリッジに来た調査船の艦長に挨拶をし、状況の説明をする。
そして、おそらく暫くは混乱で地球への寄港は難しいだろうと、食料などの物資の補給を約束した。
◇◇◇
その後、ジュドーは積もる話もあるだろうと言う船長の配慮でラー・カイラムに残る事になった。
「しかし驚いたな」
「本当ですよ、まさかブライト艦長の艦だったとは」
ブライトはコーヒーをジュドーに差し出し、自身もコーヒーを手にソファに座る。
艦長室に招かれたジュドーはキョロキョロと室内を見ながらもブライトに微笑む。
「あれから七年ですか…今回の叛乱から察するに、地球連邦政府のお偉方は相変わらずといったところですかね」
「ああ、エゥーゴは一体何の為に戦ったのか…シャアが叛乱を起こすのも無理はないと思ってしまう…、と、これはオフレコでな。俺の立場で言っちゃマズイ事だ」
「ははは、そうですね」
「そういえば、この艦にはあのアムロ・レイが乗ってるんですよね?やっぱり今回のアクシズ落下阻止にも彼が?」
ジュドーの言葉に、ブライトが一瞬ビクリと肩を揺らすが、小さく息を吐いて「まぁな」と答える。
「そういえば、お前はアムロに会った事が無かったんだったな」
「ええ、俺が地球に降りた時、丁度アウドムラを降りて宇宙に上がったらしくて、すれ違いでした」
「そうだったな」
あの時、アムロはシャアの行方を探す為に宇宙へ上がっていた。
モビルスーツに乗れるようになったとは言え、まだ精神的には辛かったろうに、シャアを探す為に無理を押してまでアムロは宇宙に上がったのだ。
「会ってみたいな」
「……」
「艦長?」
「あ、ああ。いや、すまん。実は今回の戦闘で負傷してな、今はちょっと…」
「え⁉︎大丈夫なんですか?」
「ああ、打撲や骨折はあるが命に別状はない」
「そうなんだ…、良かった」
ホッと肩を撫で下ろすジュドーに対し、本当の事を言えず少し罪悪感が込み上げる。
「そう言えばさっきドックでアストナージを見かけました。懐かしいなぁ」
「後で会いに行くといい、アイツも喜ぶ」
「はい、そうします」
と、そこに呼び出しのコールが鳴り響く。
「ん、何だ?すまんな」
「いえ」
ブライトは立ち上がると、モニターをオンにして通信を繋げる。
《来客中にすみません、ハサンです。至急医務室にお越し願えますか?》
「どうした?」
《大尉の事でちょっと…》
「アムロの?」
《はい…》
とハサンが答える後ろで、アムロの叫び声が聞こえる。
「アムロがどうかしましたか⁉︎」
《少し前から暴れて出しまして…》
何かが激しい音を立てて倒れる音と、チェーンの叫ぶ声。そしてアムロのうめき声が響く。
「分かりました、直ぐに行きます」
通信を切った後、ブライトはハッとジュドーを振り返る。
「艦長…今の…」
ジュドーはかつて心を壊したカミーユと接している。おそらく今の通信で状況を察したのだろう。
ブライトはジュドーに隠しても仕方がないと、溜め息を吐く。
「実は…な…」
自分も医務室に行くと言うジュドーを拒みきれず、一緒に医務室へ入ると、そこには点滴の針を引き抜き、腕から血を流したアムロが床を這っていた。
歩こうとしたが、右足の骨折により歩く事が出来なかったのだろう。
しかし、何かを求めるように必死に床を這って進もうとしていた。
「アムロ!」
「艦長!すみません、私ではアムロを抑えきれなくて…」
チェーンが必死にアムロの上に覆い被さって止めようとするが、どこにこんな力があるのかと言う程の力で払い除ける。
「アムロ!」
ブライトが慌てて駆け寄りアムロを押さえつける。
「あ、あ、ああああああ」
言葉にならない声で叫ぶアムロに、ジュドーの目は釘付けとなり、その様子に驚愕する。
『この人が…アムロ・レイ?』
作品名:誰にも君を渡さない 2 作家名:koyuho