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誰にも君を渡さない 2

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その姿は、ダブリンの街にコロニーが落ちようとしていたあの時、それを察知して暴れるカミーユの姿と同じだった。
「ジュドー!すまん、お前も手伝ってくれ!」
「は、はい!」
ジュドーも一緒にアムロを押さえていると、そこに鎮静剤を持ったハサンが駆け付けアムロにそれを投与した。
数秒後、力の抜けたアムロが床に倒れ込む。
しかし、その視線は遠くを見つめ、まだ何かを呟いていた。
「アムロ…」
ブライトとジュドーの二人でアムロを担ぎ、ベッドへと寝かせる。
「お忙しいのに呼び出してしまってすみません、艦長」
ハサンが器具を片付けながらブライトへと謝罪をする。
「いや、こちらこそすまん。しかし、アムロの世話はやはりチェーンだけでは難しいか…」
「そうですね。こちらでも口の硬い限られたスタッフだけに担当をさせている為、どうしても人手が足りなくて…。それに暴れる成人男性を抑え込める者となると…」
とは言え、アムロのこの状態をあまり複数の人間に知られたくはない。
ブライトが頭を抱えていると、ジュドーがブライトに声を掛ける。
「あの…艦長。俺でよかったらアムロさんの世話を手伝います」
願ったりな申し出に、ブライトが顔を上げる。
「それは…助かるが…しかし…良いのか?」
「はい。どのみち俺たちはここで足止めを食らってる状態なんで、やる事も無いし」
「そうか…そう言ってくれると助かる」
「おや?君は…ジュドー・アーシタじゃないか!久しぶりだな」
「はい、ハサン先生。お久しぶりです」
「ははは、あのヤンチャ坊主が一人前の大人になって!木星から帰ってきたか!」
「はい!って言うか、あれから何年経ったと思ってるんですか!」
「いやはや、それにしたってなぁ。艦長だってそう思うでしょう?」
「ああ、全くだ」
あの頃、ヘンケンやクワトロを失い、カミーユまで心を壊して途方に暮れていたところをジュドー達に救われた。
とんでもないヤンチャ坊主共だったが、その真っ直ぐな心はブライトに新たな希望を与えてくれた。
「お前には、また世話になるな」
「何言ってんの?世話になったのは俺たちの方だよ。これで少しは恩が返せるかな?」
「そんな…しかし、本当に助かる…」
アムロへと視線を向け、ブライトが悲痛な表情を浮かべる。
そして同じく、ジュドーもアムロを見つめる。
「あの頃のカミーユと同じだね…でも、何かを感じて行動を起こしてる。全くの無反応じゃない。だから大丈夫だよ」
「そうだな。しかし、何に反応したのか…」
ブライトの呟きに、ハサンが重い口を開く。
「おそらく…ネオ・ジオンの…シャア・ダイクンの声に反応したのかと…。医務室のモニターでも映していましたから…」
ハサンの言葉にブライトが小さく息を飲む。
恋人であるチェーンや長い付き合いである自分の声には一切反応しなかったアムロが、シャアの声には反応を示したのだ。
それ程までに、アムロにとってシャアの存在は大きいのだろう。
少しの嫉妬と共に、二人の因縁と繋がりの強さを感じる。
「…そうですか…」

◇◇◇

それからジュドーはラー・カイラムに泊まり込み、チェーンと共にアムロの世話に当たった。
基本的には大人しく横になっているが、時折突然暴れ出す事もあり、アムロの世話は思った以上に大変だった。
そして暴れた際、骨折部分を痛めてしまう事も多く、怪我の回復の方も遅れていた。
今も、骨折の悪化により発熱したアムロを心配そうにチェーンが見つめ、その手を握っている。
「チェーンさん、代わりますからちょっと休んで下さい」
交代に現れたジュドーがチェーンに声を掛ける。
「ジュドー…ありがとう。お願いするわ」
疲れた表情を浮かべるチェーンに、ジュドーがそっとドリンクを手渡す。
「ありがとう」
「顔色が悪いよ、チェーンさんが倒れちゃう」
「そうね…ごめんなさい…、ただ…ね…」
そう呟きながらアムロを見つめる。
「どうしてアムロがこんな事になってしまったんだろうって…思うと辛くて…」
瞳に涙を滲ませ、チェーンが唇を噛み締める。
「私にとってアムロは尊敬すべき軍人であり、上官で…いつもの、あの凛としたアムロを思うと、今の状態が信じられなくて…」
チェーンは数日経った今でもアムロのこの状態を受け入れられずにいた。
モビルスーツ隊の隊長として隊員を指揮し、ブライトの右腕としてこのロンド・ベルを支えていたアムロ。
そしてプライベートでは恋人として、いつでも自分を優しい眼差しで見つめ、包み込んでくれた。
そのアムロが、今はまともに話す事も出来ず、それどころか自分に反応すら返してくれない。
その状況にチェーンの瞳から涙が溢れ出す。
「私…私、どうしたらいいか…!」
泣き出すチェーンをジュドーが優しく抱き締める。
「疲れてるんだよ。疲れてるとどうしてもネガティヴになっちゃう。とりあえず休もう。これからの事は落ち着いたら一緒に考えよう。ね?」
そういうと、ジュドーはハサンの元に行き、睡眠薬をチェーンに処方してもらう様に頼み、再びアムロの元に戻って来てチェーンと交代した。
「アムロさん、チェーンさんが心配してるよ。早く元気になろうね」
額の汗を拭きながらそう囁くと、アムロの瞳が薄っすらと開かれる。
そして、唇が何かを言おうと微かに動く。
「アムロさん?」
アムロの瞳を覗き込み、それを読み取ろうとしたその時、頭の中に直接声が聞こえてきた。
『ありがとう…』
それは少し舌足らずな、でも優しい声。
「アムロさん⁉︎」
そう聞き返した時、アムロの瞳は再び閉じられ、意識を感じられなくなってしまった。
「アムロさん…」

◇◇◇

その頃、ブライトの元に連邦本部から伝令が入っていた。
「何ですって⁉︎もう一度言って下さい!」
怒りに震え、思わずブライトが聞き返す。
《だから、ネオ・ジオンが和平の証にアムロ・レイ大尉を引き渡して欲しいといって来ているのだよ》
「それをあなた方は受け入れたんですか⁉︎」
《致し方あるまい、そうでなければ和平条約を結ばないと言ってきているんだ》
「しかし!」
《彼一人の身柄で平和が約束されるんだ。アムロ大尉には申し訳ないが受け入れて貰いたい》
「お断りします!」
《ブライト大佐、人類の平和の為には少しの犠牲は必要だよ》
「犠牲だと⁉︎」
《これは政府としての決定事項だ。拒否は許されん》
「命令ですか⁉︎」
《そういう事だ》
「しかし、アムロは負傷して直ぐには動けません!」
《負傷?》
「はい、打撲と複数の骨折で療養中です」
《…そうか、一応先方にはそう伝えよう》
「ついでにこの馬鹿げた取引も撤回してきて下さい」
《ブライト大佐、口が過ぎるぞ。政府の決定に口を挟まない事だ。あまり目に付くようであれば君の処分も考えねばならん。気をつけ給え》
「好きにして下さい!」
ブライトが叫んだと当時に通信が打ち切られ、
真っ暗になったモニターに向かってブライトが「クソッたれ」と罵声を浴びせる。
「あいつら!結局自分たちの保身の事しか考えていない!何が少しの犠牲だ!」
「艦長…」
怒りの治らないブライトを副官が宥める。
「はぁ…すまんな、ちょっとアムロの所に行ってくる…」
「はい、艦長」

作品名:誰にも君を渡さない 2 作家名:koyuho