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誰にも君を渡さない 3

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誰にも君を奪わせない



その日、ラー・カイラムの周囲をネオ・ジオンの旗艦レウルーラとそれを守る様に三隻のネオ・ジオン戦艦が取り囲んでいた。


「あなた方は何を考えているんですか⁉︎言ったでしょう?アムロは今、負傷して療養中だと!面会など許可出来ません!」
ブライトがブリッジのモニター越しに連邦軍高官に訴える。
《もちろん我々もそれは説明した。その上で、シャア総帥は直接アムロ・レイ大尉の容態を確認したいと言ってきたのだ。何も今すぐにネオ・ジオンに引き渡すとは言っていない。今回は面会だけだ》
「しかし!面会は無理です!」
《打撲と骨折だけだろう?命に別状も無いようだし、問題はあるまい?》
「大いに問題があります!アムロには休息が必要なんです!断って下さい!」
《しかし既に総帥はそこにいるのだろう?仮に会話は出来なくとも様子を見るだけでも良いだろう?君も総帥とは知らぬ仲ではあるまい?対応は君に任せたよ》
そう言って一方的に通信は打ち切られた。
「ちょっ!」

そして続けざまにレウルーラから通信が入る。
《ネオ・ジオン総帥補佐のナナイ・ミゲルと申します。ブライト艦長、乗艦許可をお願いします》
「申し訳ありませんが、アムロ・レイ大尉は今、面会出来る状態ではありません。今日のところはお帰り願えませんか?」
《総帥は姿を見るだけでも良いと仰っています。許可を頂けないとなると、今後の停戦協定を撤回しなければならなくなりますが宜しいでしょうか?》
「…っ」
有無を言わせぬナナイの言葉にブライトが言葉を詰まらせる。
『何があっても拒否はできんという事か…』
暫し考え、ブライトが重い口を開く。
「…分かりました。しかし、条件があります…」

◇◇◇

小型艇でラー・カイラムへと降り立ったシャアと側近であるナナイ・ミゲル大尉、そして護衛数名がブライトに案内されて医務室へと向かう。
久しぶりに直接会うシャアは、クワトロであった時とは違い、総帥としての威厳を持ち、堂々とした風格だった。
そんな男に話し掛けるのは少々気後れしたが、ブライトはシャアへと今後、アムロをどうするつもりかを確認する。
「総帥は…なぜ停戦協定の条件として、アムロ大尉を?その理由をお伺いしても宜しいか?」
「アムロ大尉を求める理由?そもそも、ニュータイプが連邦にいることの方がおかしいとは思わないかね、ブライト大佐。ニュータイプとは宇宙で人が生きていくために進化した存在だ」
「だからアムロ大尉が欲しいと?貴方とは浅からぬ因縁を持つ男です。恨みもあるでしょう?」
「そうだな。恨みが無いとは言えない。今回のアクシズ降下作戦も彼によって阻止されてしまった」
「では捕虜として?」
「いや、アムロ大尉には特務大使としてネオ・ジオンに来てもらおうと思っている。当然、相応の待遇をするつもりだ」
「特務大使…?」
「そうだ、停戦の証として彼にはネオ・ジオンに来て貰いたい」
「それは程のいい人質ではないのですか?」
ブライトの言葉に、シャアは苦笑を浮かべる。
「人質か…まぁ、そう考えられなくもないな。アムロ大尉がいなければ連邦軍などどうとでもなる。だが、彼がネオ・ジオンにいる限り、攻撃はしないと誓おう」
「それを信じられると?」
「私は約束は守るよ」
「よく言う…」
「ブライト大佐、少々口が過ぎるのでは?」
旧知の仲とは言え、ブライトの失礼な物言いにナナイが抗議をする。
「ナナイ、構わん。私とブライトの仲だ」
「しかし!」
「ナナイ、私が良いと言っている」
「はい、総帥…申し訳ありません…」
「気にするな」

「ここです」
医務室の前に来ると、ブライトが扉の前に立つ。
「先程お話した通り、面会は総帥のみでお願いします」
「それはお受けできません!総帥の身に何かあっては…!」
「大丈夫だ、ナナイ」
「しかし大佐!」
「では、医務室内のアムロ大尉の病室のすぐ横の部屋で待機というでは如何ですか?」
何かあれば直ぐに駆け付けられる場所ならと、渋々ナナイがそれを了承する。
「それでは…どうぞ…」
少し緊張した面持ちでブライトが医務室へと案内する。
そして、アムロの病室の前まで来ると、シャアへと振り返る。
「おそらく話は出来ませんが宜しいですね?」
「そんなにアムロの容体は悪いのか?」
少し不安げに告げるシャアに、ブライトは複雑な表情を浮かべる。
「それは…これからご自分の目で確かめて下さい…」
そう言うと、ブライトは扉を開け、シャアを中へと案内した。


明るい病室の中で、腕に包帯を巻いたアムロがベッドに横になっていた。
額や顔の火傷はほぼ完治し、ガーゼや包帯は取れている。
そんなアムロの横にはジュドーが立っていた。
「彼は今、アムロの世話をしてくれているジュドー・アーシタと言います。彼の同室をお許しください」
「彼は医療関係者ではないだろう?おそらくパイロット…」
「よくお分かりですね。彼は元ZZガンダムのパイロットです」
「ガンダムの…?」
「昔の話ですよ、シャア総帥。ジュドー・アーシタです。よろしくお願いします」
ニッコリと答えるジュドーからは悪意が感じられなかった為、シャアは渋々ながらも同席を認めた。
そして、ゆっくりとベッドへと近付き、アムロを見下ろす。
アムロは今、眠っている。
実はハサンに睡眠薬を投与してもらい、眠らせているのだ。
少なくとも眠っていれば今のアムロの状況は分からない筈だ。
少し緊張しながらブライトは二人を見つめる。
「アムロは…眠っているのか?」
「ええ、痛み止めの影響でしょう」
ブライトの言葉に少し不信感を募らせながらも、シャアがアムロの頬に触れる。
「少し…熱があるか?」
「え、ああ。そうですね…。骨折のせいでしょう、ずっとこんな感じです」
「アムロは…あの日帰艦した時、どのような状態だったのだ?」
「気を失い、漂流していたところを回収しました。帰艦時には意識が無く、怪我の状況としては全身の打撲と肋骨、右足の骨折。頭部、左腕の裂傷。それから、高熱に晒された為、脱水症状を起こしていました」
「あの状況でよくその程度で済んだものだ」
「ええ、本当に…。総帥も無事で何よりです」
ブライトの言葉に少し棘を感じて、シャアがチラリとブライトを見る。
「本心だと受け取っておこう」
「本心ですとも」
そんなブライトに小さく肩をすくめると、シャアは再びアムロへと視線を移す。
「少し痩せたか?」
「そうですね、あれからまともに食事が取れていないので」
こんな会話をしながらも、ブライトは少し緊張していた。『このまま無事に終わってくれ…』そう思わずにはいられなかった。
「直ぐにはアムロを特使として迎えるのは難しそうだな」
「ええ、出来れば回復してからにして頂きたい」
表面上、平静を装いながらブライトが答える。
「分かった…、時間を取らせてすまない。ブライト大佐」
最後に、シャアがアムロの頬を撫で、手を離したその時、アムロの瞳が突然開かれた。
「アムロ?」
それに驚いたのはブライトとジュドーだ。
かなり強い睡眠薬で眠っている筈のアムロが目を覚ましたのだ。
『そんなバカな』と思いながらも口には出さずその様子を見つめる。
作品名:誰にも君を渡さない 3 作家名:koyuho