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自分らしく
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彼方から ― 幕間 ―

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 イザークにそう一声かけ、二人一緒に寝床へと向かう。
 その、二人の背中を見やりながら、
「エイジュ」
 イザークは声を掛けた。
「何かしら?」
 二人同時に振り向くも、言い出しあぐねている様子のイザークに、ガーヤはエイジュに軽く頷き、一人で寝床へと向かう。
 エイジュはそのまま立ち止まり、イザークの言葉を待った。

「――あんたのお陰で、ゆっくりと薬草を探すことが出来た……ありがとう……」
「イザーク……」
 照れ臭いのか、眼を背けたまま礼を言うイザークに、眼を見張るエイジュ。
 いつもの、ぶっきら棒な言い方ではなく、きちんと『ありがとう』と言われたことに胸が温かくなる。
「どういたしまして……」
 微笑みを浮かべながら踵を返し、エイジュはそう言って寝床へと向かった。

   *************

 一人、眠るノリコの傍らで、薬草の調合を続けるイザーク。
 皆の規則正しい寝息が、何故だか心地よく思える。
 ふと、ガーヤと初めて出会った頃を思い出す。
 金を稼ぐ目的で参加した隊商に、ガーヤもまかないとして参加していた。
 あの隊商でガーヤと出会わなければ、恐らく今の自分はいない。
 剣など、手に持つこともなく、渡り戦士になることもなかったかもしれない……

 ――縁とは、不思議なものだな

 そう思う。
 あの時、ガーヤと出会っていたから、ノリコを預けた。
 そして、ノリコを預けなければ、左大公たちと出会うことは恐らくなかった。
 バラゴやアゴルも然りだ……
 いや……そもそも、ノリコと出会っていなければ、ガーヤの所へ行こうとすら、思わなかったかもしれない……
 考えると、不思議としか言いようのない出会いを繰り返しているように思える。

 ――彼女との出会いも、その縁の内の一つ、なのだろうか……

 イザークはスッ――と、横になっているエイジュに視線を送った。
 この先もずっと味方でいるのか、それとも、敵となるのか……

 ――これからの、おれの行動次第だと……そう言っていたが

 やはり、体内に眠る【天上鬼】の力に、関係しているのだろうか……
 使い過ぎればコントロールすることすら儘ならない、この力が……

 自分と同様に、エイジュもまた、人に知られてはならない『何か』を隠しているように思える。
 そしてそれはきっと、自分とも無関係ではないのだ……
 だから彼女は、ことある毎に姿を現すのではないだろうか……

 イザークは調合の終わった薬草を容器へと移し、荷物の中へ仕舞うとノリコに眼を向けた。
 薬草が効いているのか、今は安らかな寝顔だ。
 自分も彼女の隣へ、俯せになり横たわる。
 これからどうするのか、どうすべきなのか――答えは見つからない。
 少し、血の気の戻ったノリコの頬に、そっと触れる。
 仄かに温かく、柔らかな彼女の頬。
 今、この時だけは、ノリコは自分のものだと……そんな驕った考えが脳裏を過り、イザークは慌てて自身を諫めた。

 今はただ、こうして彼女の傍らに……
 ただ、それだけでいいのだと、自身に言い聞かせて……


               幕間 終  第三部へ続く