土方さんの誕生日
目的地に向かう途中、無線が入る。
「こちら三番隊、桂に逃げられました!どーぞ」
毎度のことだが、桂に逃げられてしまったようだ。しかも目的地に向かっている途中に。
「チっ、おい山崎帰るぞ。」
苛立ちを覚えつつも目の前にはその相手も居ないので、土方は気持ちを抑えて引き返すように言う。しかし山崎は引き返さ様子を見せず、どんどん屯所から離れていく。
「山崎ィ、てめぇ何してんだ!!とっとと引き返せって言ってんだろーが!!」
土方が拳骨を山崎の頭に落とす。ゴツン、と鈍い音が聞こえた。衝撃に山崎の目には涙が浮かび上がる。運転しているため、両手を離すことが出来ない山崎は片手で拳骨の落とされたところを押さえつつ口を開いた。
「す、すいません副長!でも今から屯所に戻っても朝食は取れませんよ。俺、この間いい店があるって聞いたんですよ。今そこに向かってるんです。だからもう殴らないで下さい!!」
それでも拳骨の雨は止まない。目的地に着き車を降りると、まるで鬱憤を晴らすかのように山崎に拳骨を落とし続けていた土方の手がいきなり止まる。
「おい、ここ・・・」
「え、知ってましたか?」
目の前には土方行きつけの店があった。山崎はまったく知らないようだ。いきつけの店と言うことは、もちろん例のメニューが楽しめると言うことだ。土方の顔に、僅かだが笑みがこぼれた。そして山崎の頭に拳骨ではなく、手が乗せられる。
「でかしたじゃねーか、山崎。」
土方は足早に店内へと入っていく。疑問符を浮かべつつも後から山崎が付いていく。が、店内に入るとすぐに土方の足が止まった。
「どうしたんですか?副長」
横から山崎が店内を覗き込む。そこには見覚えのある男が座っているだけだった。
「あれ、万事屋の旦那じゃないですか。奇遇ですね、こんなところで。」
呼ばれた銀時が振り返る。
「あ〜、税金泥棒のところのジミーじゃねーか。しかも何、コイツも一緒!?あ〜あ、朝から災難じゃねーか、オイ!!・・・これはアレか、昨日パチンコで大勝したからか?」
カウンターに両肘をついて頭を抱える銀時。土方はお構いなしにカウンターに座り注文をした。
「親父、いつもの頼む。」
「へい、毎度!!」
座席一つを開けた所に座った土方に銀時の目が向けられた。
「てめー、なんでそこ座ってんだ!俺の視界に入るからあっちに座りやがれ、コノヤロー。」
銀時は自分の後ろにある四人掛けのテーブルに親指を向けた。そんな銀時を土方は鼻であしらう。
「残念だったな。ここは前から俺の席だ。お前こそあっちに行きやがれ。」
そういって先ほど銀時が土方に勧めた席に親指を向けた。
「なんだぁ?俺に喧嘩売ってんの?ぷぷっ。一度やられたのにまだ懲りてないんですかー?やめとけ、やめとけぇ。」
「ほう。てめー、お上にたてつく気か?」
険悪になっていく二人の間に、黙って様子を見ていた山崎が腰掛けた。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。これで二人とも顔を見なくて済むでしょう?」
ね、親父さん、と山崎が店の主人に同意を求めた。その時だった。
「済まねーよ!!」
山崎の頭に二つの拳骨が落とされたのは言うまでも無い。