土方さんの誕生日
満月が綺麗に見える時分、土方が宴会会場に戻ってきた。予想通り、ほとんどの隊士が酔いつぶれている。近藤もそのうちの一人だ。全裸のまま畳の上にいびきをかいて寝転がっている。沖田は頬を染め、鬼嫁の酒瓶を抱えてなにやら楽しそうにしている。それを見た土方は部屋には入らず、縁側に腰掛けた。タバコを口に咥えてライターで火をつける。すると、後ろに気配を感じて振り返る。
「よ、副ちょーさん。一杯どうだ?」
酒瓶とコップをそれぞれ片手に持って銀時が立っていた。
「ほざけ。てめーの持っているもんは全部俺らのもんだぞ。」
「何言ってやがる。てめーらのもんは全部善良な市民の税金で買ってるんだからよぉ、俺らのもんでもあんの。」
銀時を見ていた土方は庭に目を向ける。
「てめーは税金払ってねーだろ」
言い放つと後ろでゴトッと音がした。今度は見向きもしなかった。
「おい、新八、神楽。けーるぞ。」
寝転がっている二人を銀時は起こそうとするが、うんともすんとも言わない。
「しゃーね〜な。」
新八を背負い神楽を担ぐ。
「邪魔したな。食いもんは残ってねーが、楽しんでくれや。」
じゃーな、と言い残して銀時は屯所を後にした。土方は後ろに置かれた酒瓶を手に取る。ふと一つ皿が一緒に置かれていたことに気付く。きれいに切り分けられたケーキだ。上には『誕生日おめでとう、トシ』と書かれたチョコレートが載っている。素人がチョコペンで書いたために文字がゆがんでいたが、まったく知らないプロに書かれた文字と比べると、なにか暖かいものが感じられた。土方はしばらくそれを食べようとはせず、一口、また一口と酒を堪能した。そのケーキを見ながら。
―完―