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Backdraft

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沢田綱吉は、十二フィートの暗闇の中を蹲っていた。
 足を三角に折って、膝を抱え込む。其処に頭を預けて、全神経を傾けて振動を探り、耳を澄ませて外に響く僅かな音を聞き続けた。

 綱吉がこの状況になったのは、数時間前まで遡る。

 あるファミリーを追い詰める為に、誰にも言わずに屋敷を出て、全くの独断で行動を起こしていた。
 作戦通りに動けば、相手は速やかに降伏する……予定の筈が、気づけば相手の手の内にはまり、そうしてこの様だ。
 もしかしたら超直感は警告を発していたかもしれない。だが、相手を追い詰める時綱吉は、普段にはなく高揚していた。この仕事が終わったら……そんな事ばかり考えていた。
 己の内側の訴えに耳を傾ける程の余裕もなく一心に相手を追い込み、仕事を終わらせる事ばかり考えていた。
 それなのに、どうやら追い込まれていたのは綱吉の方で、罠に掛かり、コンテナの中に仕舞われてしまったのだ。
 死ぬ気になれば壁くらいぶち破れると、綱吉はグローブで殴ってみた。だが、ボンゴレ十代目を陥れることが出来ただけの事はある。その辺りの対策は準備万端。ナノコンポジットアーマーの壁に阻まれて、強く殴り過ぎた手を痛め、ついでに室内に大きく響いた音に耳まで痛くなってしまっただけで終わった。
 密閉空間で酸素は限られている。炎が効かないと分かると、他にいろいろ試すことすらせずに、綱吉はすぐにグローブを戻した。
 酸素の供給の絶たれた空間。昔閉じ込められた覚えのある、雲の守護者のロールちゃんの球針体に似ている。炎が一切効かない分、此方の方が随分危険度が高いか。

 綱吉は、己の置かれた状況を自分なりに分析してみた。
 そうして己を振り返れば、其処に穴を見つけられれば、状況打開に繋がる手立てがあるかもしれない。
 家庭教師の教えに従って、基本的に流され、行き当たりばったりに行動する綱吉が、珍しく熱心に己を振り返ってみたのだが、此処まで来て考える事をやめてしまった。
 全くもって相手は完璧である。相手のシナリオ通りに事は進み、己はここにいる。シナリオの流れとしては、途中幾つかの綻びがあったとも思うが、その小さな綻びに気付けなかったのは綱吉だ。綻びを突いて、計画の穴を大きくできていれば、このような状況にはならなかったかもしれないし、此処からの脱出も可能だったかもしれない。
 だが、計画の穴は突かれるどころか、気づかれることもなく、全く相手の計画通り。天下のボンゴレ十代目沢田綱吉は、一切の綻びに気づく事無く、シナリオライターのシナリオ通り、演出者の指示通り。舞台の上をくるくる踊って、綺麗にこの場面にたどりついてしまった。
 なんてこった、弁明の余地もない。今更弁明の相手もいない。

 ……それにしたって。
 綱吉が、ボンゴレ特製、どんなに苛酷な任務でも、例え象が踏んでも壊れないらしい、腕時を見れば、時刻は二十三時を回っていた。
 綱吉は己の両腕に額をぐりぐりと押しつけながら自分を責める。
 どうして今日なの……。
 浮かれていたのはわかる、自覚は十分過ぎる程にある。
 でも、だからって! なんで今日だっていうの!
 綱吉は大きく息を吐きかけて、慌ててその口を両手で覆った。

「ねえ、さっきから一人で何遊んでるんだい」
 そんな綱吉に声が掛かった。
 綱吉の十二フィート向こう。同じように壁に背を預けた人から発せられた声は、少し低めで耳に心地よい。こんな場所にいるというのにまるで慌てた様子もなく響いた。
「遊んでないです。ちょっと、自分を責めてるだけです」
「ふうん」
 綱吉の言葉に、十二フィート向こうの壁に背を預けた人物、雲雀恭弥は興味なさそうな様子であった。
 それがまた、綱吉をイライラさせる。
 あー、きっとこの人は分かってない! 分かってたけど、分かってない!!
 だから嫌だったのに、なんで今日なの。
 口には出さず、脳内で雲雀と、己の置かれた状況を呪う。
 綱吉は頭を掻き毟りながら、叫び出したい気分だった。
 だが、そんな事が全く無意味である事。自棄の行為に走るには、己は少々成長しすぎた事を知っているから、弁える。綱吉は世間体ばかり気にして、捨て身の行動に走れない自分にも気がついて、余計に自己嫌悪に陥った。
 ああ、泣き出してしまいそう。勿論そんな事はできないが、目の奥はじんわりと熱を持って来た。

「……なんで自分を責めてるの」
 ところが、じんわりと涙腺まで熱くなってしまう前に、向こう側から声が届いた。基本的に、雲雀は他人に対してまるで興味を持たない筈なのだが、珍しい。
 思わず頭を上げた綱吉は、闇に慣れてしまった目で、反対の壁に寄り掛かっている雲雀を見つめた。
「あれ、雲雀さん。興味持ってくれるんですか」
「うん、暇だからね」

 ああ、綱吉は思う。
 雲雀さんに興味を持ってもらえるならば、こんな状況でいるのも少しは悪くないかもしれない。この壁の外側にいて、コンテナをどうしようかと考えているだろうファミリーの皆さんは、骸に散々ねちねち嫌がらせを受けてやられてしまえと思うほど腹が立つけど、この人が、周りに興味を抱いてくれた分だけはよかったかもしれない。

「今日、何日か知ってますか」
「五月五日」
「何の日か知ってますか」
「……並中が休みの日」
 やっぱりわかってない!
 いや、わかってる。雲雀がこういう人間だという事は、もう十分過ぎるほどわかっているのだ、己は。
 それでも、と思ったのは自分であり、それに対しても雲雀が何も感じていないだろう事だって、綱吉は十分わかっている。
「今日……あともう少しで終わっちゃいますが、雲雀さんの誕生日なんですよ」
「ああ、そういえばそうだったね」
 ……毎年君が、勝手にはしゃいでる日。
 毎年毎年よく覚えてるね。そんな事覚えておく容量があったら、仕事に回した方が、赤ん坊が喜ぶんじゃないのかい?
 雲雀は事も無げに言う。

 それはそうだ。雲雀は己の生まれた日に、何の頓着もしていない。
 だから綱吉は、雲雀の変わりに、彼の誕生日を覚えている。どんなに忙しくても毎年毎年雲雀の誕生日を祝ってやるのだ。
 ボンゴレのシェフ特製の、生クリームのたっぷりのった、でも甘さ控えめのケーキ。チョコレートプレートにおたんじょうびおめでとうきょうやくんとまで書かせて、山本に握ってもらったお寿司と、忙しいながらに時間を見つけて必死に選んだプレゼントを手に、雲雀の元へ向かう。
 どんなに嫌な顔をされようと、トンファーでぶん殴られそうになろうと、その腰に無理やり張り付いてでも、生まれて来てくれてありがとうを告げるのだ。

「雲雀さんが生まれて来たって、嬉しくて。雲雀さんがそうやって全然気にしてくれないから、変わりに俺が祝うんです」
「ふうん」
 勝手だね。
 自己満足で祝ってる事が勝手なのか。無理やり祝ってしまうことが勝手なのか。
 それは綱吉にはわからない。
 だが、どんな意味だとしても、自分が勝手であるという事だけは正しいから、綱吉は頷いた。
「はい。今年もお祝いしようって、この仕事が終わったら探し出してやろうと思って、プレゼントは買って、シェフにケーキの準備もしてもらってたんです」
作品名:Backdraft 作家名:桃沢りく