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章と旌 (第三章)

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《三章》

「なんで父上は許してくれないんだ!!!!!。」
父長林王が庶務を摂る主院から、足音、荒々しく、平旌は、自分の部屋へと戻る。
今、迂闊に平旌に触れば、矛先が構った者に向き、八つ当たりされそうで、誰も平旌に声をかけられなかった。
、、、何故ならば────




.....................................



この度の左路軍での話は、皇宮にも軍部の各所に伝わっていて、長林王は各所の役人や同僚から、『流石は長林王の子、良い息子を持った』と、褒め囃されていた。
普通の父親ならば、息子への賛辞を聞いたなら、鼻高々になろうものだが、、、。
普段、父と共に行動する平章は、父長林王が、周囲からそう言われる度に、どんどん機嫌が悪くなるのを感じていた。
「どう思う?、平章。」
「??、喜ばしい事かと、、、。何が心配なので?。」
「、、、、、平旌の奴が、調子に乗り過ぎてしまう、、。皆、面白がって煽るだけなのだ。平旌の奴は、言葉をそのまま受け取ってしまうだろう?。まだ子供だ、そういった事は分からぬのだ。」
『困った事になった』、と、頭を振り振り、父王は皇宮の回廊を歩いて行く。
あの日、長林王は、無事に戻った事を、誰よりも喜んでいた。
行方が分からなくなっていた間の、夜半、幾度となく主院の前に立ち、そこから見える王府の門を、長い間じっと見ていた。頬が涙に濡れていた事も、一度ではない。
それ程心配していたのに、無事に戻れば戻ったで、また先々を案じている。
『親というのは面倒臭いものだ』と、平章は思いつつも、『平旌の親なれば、そういう心配をするのも、分からないでもない』、と思った。
色々、失敗して成長するのに、子の可能性を、閉ざしてしまうことになるのでは無いだろうか。普通ならば過保護と取られよう。
だが、今の平旌は、手っ取り早く大きな仕事をして、父親に認められたいだけなのだ。目的が、父親の評価では、間違いも起こしやすい。
そして平旌は、思いつく事も、やる事もでかい。
自由に羽ばたき、一人でやり遂げたい平旌ではあるが、手元から離すのは、もっとずっと先で、周りの事を見る事が出来るようになってからだ。
自由に世間を飛び回る為には、父と兄の元で、まだまだ学ばねばならぬ事も多い。
その考えは、兄平章も、父と同じだった。



そんな世間での評判は、どこからか、平旌の耳にも入っていた。
これならば、さすがに自分の事を認めるだろう、平旌はそう踏んでいたのだ。
ところが、誉めるどころか、眉間に皺を寄せ、日に日に、平旌を見る目が厳しい。
顔を合わす度に、苦虫を潰したような顔が酷くなる。
まるで潰す苦虫が、そこここから涌いてきて、長林王の側に、日に日に増えて、勝手に口に入っていくような、、、。

『実は自分は、長林王の子供では無いのではないか、、。』そんな事を本気で考えた事はある。
たとえば、不義で生まれ、仕方なく引き取った子供、、、とか。
、、、長林王の不義、、、考えにくかった。
侍従の周老人に聞いたら、平旌は間違いなく長林王と長林王妃の子供だと。
屋敷の従者は、口止めされているのかも知れないと、覚悟を決めて母親に聞いたら、母親からは思い切り笑われた。
兄平章に聞けば、「間違いなく二人の子」だと。平旌が生まれた時、兄はこの屋敷で、生まれたばかりの平旌を、この手で抱き上げたのだと。
、、皆、『否』と言うが、納得が出来ない。
「最後は父親に聞くか、、、?。」
そこら辺にある物を、いきなり投げつけられそうで、勇気が湧かない。

──いっそ、自分は、王府にいない方が、良いんじゃないか、、。──

長林王は、平旌と顔を合わせれば、渋い顔になり、、。
自分の何がそんなに気に入らないのか、、、。
平旌は頑張っているつもりなのだが、、。良かれと行動すると、必ず裏目に出るのだ。上手く行った部分もあるのに、そこを褒めずに小言を言われる。
兄の事は叱らない。平旌から見ても、兄は完璧であり、叱責を受ける部分など、ひとつも無いのだ。
──、、、『要らない子ならば』、出て行くのを、きっと許してくれる、。──

どこかへ行く当てが、無いわけではい。
国境の山の中で、共に過ごした左路小隊の兵士達からは、『何時でも来い、次子様ならば歓迎会する』と言われている。
兵士として有能なのは、今回の事で実証済みだ。
左路軍は、長林軍の一部では無い、独立した部隊なのだ。長林王があれこれ口出しは出来ぬのだ。
だから、平旌が、兵士として入退すれば、長林王の視界から平旌は消え、長林軍とは別の組織であるだけに、平旌の行動の逐一が、父親の耳に入る事も無く、父親の苦虫は、散り散りになるだろう。
王府にも左路軍にも迷惑をかけることは無く、一石二鳥の策だった。

左路軍には入れなくても、どこか手頃な軍を、父親として探してくれるかも知れない。


覚悟を決めて、勇気を出して、父親に切り出してみる事にした。

父親に言ったら、みるみる父親の眉は吊り上がり、、。
「馬鹿者!!。」
そう怒鳴りつけられ、手元にある筆や硯を投げつけてきた。
「わぁ〜〜!!!、、。」
父親の剣幕に押され、挨拶もせずに、長林王の主院から飛び出してきた。



..............................



足音、荒々しいのは、そんな訳だった。


「、、なんで!!!、、、、くそっ!!、、。」
言葉も荒々しく、自分の部屋へと向かう。
部屋に入り、乱暴に扉を閉めると、更に悔しさが溢れてくる。
──父上は多分、私を兄上のようしたいのだ。──


──私は兄上のようにはなれないし、なりたくない。──
江湖を渡る、自由な剣士になりたい。
父親のいる軍部はもとより、皇帝が率いる朝廷ですら、窮屈で思うようにならないのは、少年平旌にも薄々分かる。
──そんな所に身を置いたら、息が詰まる。──
権力や富よりも、ただ己の腕を磨きたい、その一心だった。
江湖の剣士が今は難しくとも、この家さえ出られれば、そこに自由があるような気がした。
父も兄も、長林王府の血筋としての責任を担う事を望んでいるのだ。
だがそこに、平旌の追い求めるものは無い。

とりあえず、父の元から離れよう、手っ取り早く、軍ならば許してくれる、そう考えた。お誂(あつら)え向きに、左路軍とも親しくなれた。
多少反対はされても、父親を言いくるめる自信はあった。なのに、怒鳴りつけられて、取り付く暇もない。
「私の何が駄目なんだ、、。いつもいつも父上は、、。」
兄が叱られる所など、一切見たことが無い。
兄のようになろうとしても、いつも何かが足りなく何かが余計で、必ず父親に叱られる。
兄と張り合いたい、という訳では無いのだ。兄平章を尊敬し、どう足掻いても勝てはしない。勝ちたいとも思わない。兄のする事には間違いがない。
兄平章は、いつも父親の側に居て、父親の考え方や、軍のあり方、長林王府の立ち位置など、長林王の呼吸1つ逃さずに吸収しようとしている。父親と兄の意見は、常に、ぴったりと一致しているのだ。
作品名:章と旌 (第三章) 作家名:古槍ノ標