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章と旌 (第三章)

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平旌が父親や兄と、共に居たくない理由の一つに、軍や朝廷での父親の対応に、「無駄」を感じることがある。だが、兄曰く、そういう事でしか解決出来ない、のだと言う。
平旌が、物事に合理的な考えが出来るのは、『若さ』、と持って生まれた、独自の物事の捉え方にある、と兄は言う。

だが、当の平旌には、自分のどこが悪いと父親に言われているのか、よく分からないのだ。
正しい事を言っているだけ。
言うべきことを言うべき人に言い、直ぐに対処すれば、事は小さくて済むのに、、。
何故が皆、口を噤(つぐ)む。そしてそうでは無い、と。
父親も、兄ですらも。

そんな父親の姿に苛つきを覚える。
苛ついているのは、平旌だけでは無い。父親が、そんな平旌を見て苛ついている。

この王府を出たい、、父の元から離れたい。
ただの反抗期だった筈が、拗れてしまったのだ。

──ここを出よう。兄上がいたら、長林王府は大丈夫。父上だって、私の顔を見て、眉間に皺が寄ることも無くなる。
、、、、私なんて必要ないんだ。──
『許してはもらえなかったが、左路軍に行こう、黙って行こう、、』そう心に決めた。
剣が一振りあれば、後はどうにでもなる。
また自分の事を探させては申し訳ない。書き置き一つを残せば、きっと硬い決意は、分かってくれるし、追い戻されはしないだろう。

そうと決意すれば、心が変わらぬ内に、、、。
『左路軍に世話になります』
そう一筆書いて、卓の上に側にあった、傷薬の瓶を重しにした。
着替えの肌着を包んで肩に担ぎ、颯爽と部屋の扉を開ける。
平旌に迷いなどは、一筋もなかった。

やましい事とは思っていないが、まさか表門から出て行く訳にもいかない。
西門から出ようとそちらに向かう。西門には厩もある、具合が良かった。

「次子様。」
何処から現れたのか、東青が拱手をして、目の前に立っていた。
「どちらへ行かれます?。」
兄平章は、東青を弟の監視役にしていたのだ。
ほとんど姿を見せないが、外門に近付こうとすると、必ず現れる。
完璧な監視だった。
「東青には関係ないよ。放っといてくれればいいから。目的は部屋に書き置きしてる。お前は兄上から咎められたりしないよ。」
「外に行かれるので?。、、、、、左路軍ですか?。」
平旌はぎょっとした。まさか東青にまで、見破られていようとは。
──ああ、、兄上か、、、兄上が東青に言っていたのかも。──
「東青、、、ここを通して。籠ってばかり居たから、滅入って仕方が無い。気晴らしに出かけるだけだよ。」
「、、荷物を担いで?、何処に行かれると?。」
段々、平旌も苛ついてきた。
「聞くなよ!、腕ずくでも行く!。」
兄の従者を務める東青なら、自分に手を出したりしない、それならば、力ではまだまだ東青に敵わぬものの、東青に隙も出て、突破できる可能性は大きい。
斬るつもりは無いが、素手では無理だ。平旌は剣の柄に手をかけ構えた。
「次子様、、どうかお戻り下さい。」
「、、、頼むから通して。」
東青の横をすり抜けようとするが、平旌がどう動こうと、東青は平旌の正面に常に回り込み、決して抜かせようとはしなかった。
「私がお前を斬れないと思うなよ!。」
平旌が遂に剣を抜く。
──刀身の腹で打てば、東青だって怪我なんかしない。──
問題は上手く打たせてくれるかだ。
──本当に斬ってしまったら、誰も彼もが後味が悪すぎる。私も、東青も、、、兄上も。──

しばらく二人、睨み合っていたが、東青が膝を折る。
「次子様。どうか、、、どうか、、そのままお聞きに、、。」
「、、、、、。」
睨み合ったままで、東青が静かに話し出す。
「どれほど長林王や王妃様が心配なされたか、、、次子様はご存じですか?。痩せて窶(やつ)れられたとは、思いませぬか?。」
「、、、、、。」
平旌は、怒られる恐怖ばかりで、よく見ていなかったが、言われてみれば、父も母も疲労の色が現れていた。
「長林王は、毎晩遅くまで、王府の主院の前に立ち、じっと門の方を見ていらしたと、、。」
平旌が見つかったと報告を受けてからも、幾日か経っている。ほっと安心しても回復しないほど、心身疲れ果てて居たのだろう。三ケ月も行方不明になり、名も無き兵士として、殺されてしまう可能性もあったのだ。長林王も若くは無い、十日やそこらでは回復し切れなかった。
「王府はまるで灯火が消えたようで、、。蒙家や飛盞様も心配されて、協力を惜しまぬと。」
「東青、、、、だから、、ここを出るんだよ。
最善の事をしているつもりなのに、、結果、いつも騒がせるだけで、、、、父上を、、怒らせて、、兄上に手間をかけさせて、、、。
大人になりに、外に出るんだよ。外で揉まれて来るんだよ。もう、父上に子供扱いされないように、、。」
「次子様、、。」
「、、分かるだろう?、行かせてよ。」
平旌は東青が、一瞬、隙を見せたのを逃さずに、脇を通り抜けようとした。
だが、東青は逃さない。
東青は平旌の腹部に腕を回して、抑え込んだ。体の大きな東青に必死で抑えられては、幾ら体の柔軟な平旌でも逃げられる訳が無い。
「離せよ!!、行かせて!!!、頼むから!!!。」
「次子様!!、世子が、どれほど心配されたか、、、。」
「行かせてー!!!。」
平旌は剣を投げ出して、東青の腕や肩を、拳で叩き続けるが、東青はびくともしない。
「世子のあの怪我だって、、、。」
「馬に噛まれたんだろう!!、知ってるよ!!、。」
「、、、、、、。」
東青は黙ってしまった。
「、、、?。、、違うの?。」
平旌が叩くのを止めた。
「??、なぜ怪我をしたんだ??、兄上は?。、、東青!!、言えよ。」
「、、、、。」
黙り込む東青の、腕の力が緩み、平旌は東青の腕を外して、東青の顔を覗いた。しかし東青は目を伏せて、決して平旌を見ようとはしない。
「東青?、何があったの??。あれは馬に噛まれたんじゃないのか?、、、東青!!。」
平旌が、力任せに東青を揺さぶったが、東青は『言わない』と心に決めているようで、口を開く事は無い。
「東青?、頼むよ、何があったんだ?。私は知らなけりゃ。
私の事で、誰かに責められたのか?。誰にやられたの?。
父上って言うことは無いだろ?、、。
軍部に責任を問われて、、、まさか兄上は、、右手を潰されて、、、。」
「、、、、いいえ、、、誰も、、、世子を責めたりなど、、。」
「なら、どうして!!!、東青!!!、言えよ!!!。」
「、、、、、。」
東青は、頑として、言おうとはしない。
平旌は剣を拾い上げ、刃先を自分の首筋に当てた。
「次子様!!、一体、なにを、、、、。」
「言わなきゃ、死んでやる!、、、私は本気だからな。」
「、、、、、。」
それでも言わない東青に痺れを切らし、平旌は剣の刃を少し動かす。
平旌の首筋に、つーっと、血の筋が出来た。
誰が平章を責めることが出来るのか、そして罰を受けさせることの出来る人間、そして平章がその罰を受けなければならない人物、、、目まぐるしい勢いで、平旌は思考を巡らせた。
「陛下か???、、、もしかして、私の事で、陛下が兄上を責めたのか?。陛下が兄上の右手を、、、。」
──そう言えば、陛下は兄上を、私のように何でも許して下さる訳では無い。──
作品名:章と旌 (第三章) 作家名:古槍ノ標