CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中
おぞましい怪物が、金属の箱から孵化していく。
さながら、コズミックホラー映画のワンシーンだ。
「ア、あああ、アカン……!」
「お、おおお、俺のせいか……!?」
タンと斉藤が、そろって肩をわなわなと震わせる。
もはや一目瞭然である。
このロッカーの全てに、猿が詰め込まれていたのだ!
「くそ! すぐに逃げるべきだ!」
「でもどこにいけばええんや!?」
「『やばいとき』――」
バニラの冷静な――とはいえ今は流石に動揺を禁じえない――呟きに、三人の視線が集まる。
「『つんだとき おこしてください はさみをさがしています』」
彼が口ずさんだのは、聞き覚えのある文言だ。
皆は即座に、何のことであるかを悟った。
「――幼女か!」
「幼女だ!」
「幼女だね」
「幼女や!!!」
大の大人たちは、そろいもそろって異口同音にする。
平時ならば別の意味で危険ともいえる光景だが、今の状況は文字通りの命がけだ。
彼らはいっせいに、ロッカーを出て左側――駅のホームへ走り出した。
☆『下』に続く
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中 作家名:炬善(ごぜん)