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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中

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 コインロッカーはコの字型の列を成し、奥に続く形となっていた。
 一通り見たところ、全て荷物が満載で、空いているロッカーはない様子だ。

 見渡す限り、100の位の数字ばかりだ。十の位である87番のロッカーを探すのは容易に思えたが、なぜか番号は順番に割り振られておらず、探すのに時間を要した。

 手分けして番号を探す中で、彼らは声を先ほどまでよりも潜めて語らう。

「そういえば、斉藤君」
「なんだ?」
「君は猿……エリックにタン君の処理を任されたという名目だが、見つかったらヤバイんじゃないか?」
「まあそれはそうだなあ。あのエリックの様子は普通じゃなかったけどよ」
「それに、彼以外の猿がこの駅のどこかにいる、という話も気がかりだ」

「あのさ、アレや」
「何だ? タン。ってかオレの足踏むんじゃねえっ」
「ご、ごめん。猿にもし見つかってもさ、斉藤が皆をとっつかまえた体でいけばええんちゃう?」
「あー、つまり?」
「『新しい処理の方法を考えたんで試してみたいから、連れてくんだぜ~!』、みたいなさあ」

 なぜかノリノリで例を出すタンに、バニラがため息をつく。

「『ついていくから見せろ』って言われたらどうするんだい?」
「あー……」
「むしろ増えるかも知れぬな……」
「そっかあ……」
「それに、さっきもギリギリだったからよう。二度目はなさそうだぜ……」
「お疲れ様だ、斉藤君。何にせよ慎重を期す他はあるまい。――おっと、これか」

 屈みながら探る中、バリツは87番のロッカーを発見した。

「開けるぞ、皆……」

 自身の持つ鍵で解錠し、恐れ半ばに開く。ロッカーの金属部品が擦れあい、鈍い音が響く。

 ロッカーの中にあったのは、またもや鍵だった。
 それも、やけに大きな鍵だ。スマートフォン並みの大きさはあろう。

「これは……?」
「教授、それは駅長室の鍵じゃないかい?」
「可能性は高いな。そして、待てよ」

 自身の勘に従い、更にロッカー内に目を凝らす。
 奥には何もなかったが、扉裏の小棚に、複数枚の硬貨を発見した。かなりの数だ。

「皆、これはこの領域の貨幣ではないか?」

 鷲掴みしたコインを掌に広げ、皆に見せながら、自身も観察する。
 その重み、その煌き。一見すると、それらは普通の100円玉と500円玉そのものだ。
 だが、よくみると明らかにおかしい。描かれている文字は日本語に近いはずだが、まるで文字化けしているかのように読み取れなかった。年号は、100の位の謎めいた数列が表記されていた。人類のそれではない。

「ああ、エリックが話していたのはこれに違いねえな」
「にしても、この場所は我々の日常とは似て全く非なる場所だね。やはり我々は、猿の惑星に来たというのだろうか……?」

「おお、そういえば」
 斉藤が何かに思い至ったかのように、横にした平手をにぎり拳でポンと叩く。
「駅のホームの掲示物を思い出したんだ。なんだか、ふ、とか、さ、とか書いてあったろ?」
「うむ、確かに――」

 受け答えるが、様々なことを経験した探索の中で、記憶がおぼろげなのも否めなかった。
 悟ってか、バニラが自身のカメラで撮影した画像を皆に見せてくれた。

『普 1 :00』 『さ   :30』

 と書かれた、時刻表の表示だ。

「これがどうしたのかね?」
 バリツが問うと、斉藤は続ける。
「エリックは、『人間界行きの電車に乗れば帰れる』って話してたんだ。だけどよう、電車は一本とは限らねえ気がしてよ」

「ふと浮かんだ仮説だが」バリツは顎に手を添える。
「ここは中間地点で、現実行きが『ふ』、猿の世界行き……我々にとっての地獄が『さ』なのではないか?」
「おいおいバリツ、エリックたちの世界は地獄なんかじゃないんだけどよう」
「ぬ、すまぬ……」
「なんてな。言いたいことはわかってるぜ」

「そもそも電車が一本しかないとは、エリックって猿は言ってなかったみたいだしね。それに、どうやら必ずしもここが終点とは限らないだろうからね」

 バニラも同意する。
 次はおしまいです――この駅で目覚めて間もないときの、あのアナウンスを思い出し、バリツは少しだけゾッとした。そして更に、恐ろしい考えが過ぎる。

「もし正しい電車を逃した場合は、我々は戻る手立てを失うということか?」
「んー、まあそうなるのかなあ」
 バニラは淡々と答える。恐ろしいほどの、肝の据わりようだ。
「線路を歩いて戻ることはできないだろうしね」

「エリックもそういや、『早くここから出たほうがいい』って言ってたな」
「――だが、私もその場で話を聞いていたからわかるが、あの言葉は、また別の何かを示しているようにも思えたね」
「おー、言われてみれば確かにな。でもそうだとして、どういうことだ?」
「んー。それも気になるけれど、何にしてもやることは変わらないだろうね」

 バニラは冷静に言う。

「なににしても、このあと電車が複数来るとして――来た電車の行き先を必ずしも判別できるとは限らなそうだね。情報が足りない」
「そうだね。ひとまずは、この鍵を持って駅長室に向かうべきだろう」
「うん」
「尤も、タンが大声出してなけりゃ、エリックからそれも聞けてたかもしれねえけどよ。まあ過ぎたことは仕方がねえが――」

 そこでふと、思い至る。
 途中から、タンが、会話に参加していない。
 (彼らしくないが)あえて一歩引いて静観しているのかと思いきや、そもそも会話すら聞いている気配がない。
 いつの間にか、三人のみで話し合っていたではないか。

「そういや、タンは何やってんだ?」

 見やると、タンは、自分達の背後のロッカーひとつひとつに、耳を当てているではないか。
 その姿は、まるで突如視力を失った者が、壁を張って進んでいるような様だ。バリツはどこか、寒気を覚えた。

「タン君?」恐る恐る近づきながら、声をかける。「何をして――」
「このロッカーの中から……声がしたんや……開けて、開けてって……テーブルーの……下の……」

 タンはぶつぶつと呟いている。
 バリツの声が届いているのか、いないのか、判別ができない。
 テーブルの下のとは……喫茶店で話していた例の?

「おい、タン君――」
「タン、お前、しっかりしろよ」

 斉藤が近づき、タンの肩に手をかけた。
 途端。一瞬、弾かれたようにタンの体が痙攣を起こし、その頭がロッカーに激突した。

「いだぁ! は!? え!? 俺は何を!??」

 カチッ。
 正気を取り戻した様子のタンの目の前――ロッカーからの小気味よき音。

 水を打ったような沈黙が、一同に降りる。

「何の……音だ?」

 カチッ、カチッ。

 呟くバリツに応えるかのように、音は続く。
 それは決して気のせいではなかった。そして一つでもなかった。

 どういうことであろうか。鍵を失った、使用中のはずのコインロッカーが、一人でに解錠されていくではないか。

 呆然と立ちすくむ一同の目の前で――タンの目と鼻の先で――ロッカーの一つが、ついに開け放たれた。
 中から飛び出してきたのは、毛むくじゃらの手だ。

 その隣も、更に隣も。右も、左も、正面も。