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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中

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「ちょっと」タンが声を潜め、皆に呼びかける。
「誰かがいるみたいやで」

 自分達は、駅構内に続く入り口からみて右側に位置していたが、彼は左側を示していた。

 線路と平行になるように設置されたベンチの上――鬱蒼としたホームに不釣合いな、ほのかな、白い何か。

 恐る恐る近づいて、理解した。それは小柄な人影だ。
 白いワンピースに身を包んだ一人の少女であった。
 その輪郭に、バリツはハッとした。

「アシュラフ……君……?」

 脳裏に、塵芥川と語らう前日の出来事が蘇る。
 屋敷に現れたアシュラフに、自らが問うた時の、あの妖艶な笑み。あの言葉。

 『――知りたいのですか?』

 だが、見慣れたゴシック&ロリータ調の服装ではなかった。
 仄かな反射光を微かに放つ、簡素な、無地の白ワンピース。
 整った、幼い顔立ちに、妖艶なピンク色の、ミディアムヘアーの毛先が流れている。
 身を丸くして、ベンチで機用に寝転ぶその体系は、「少女」というよりも「幼女」というべきものに思えた。

 ノースリーブの衣服から伸びる、細く滑らかな腕。すやすやと息をつく、小さな口と鼻。
 革のサンダルをまとう、微かに覗く華奢な脚。
 一見その姿は無防備にも程があった。

 だが、バリツは一目で理解した。
(この子は、何か……やばいやつだ……アシュラフ君とはまた異なる、触れてはいけない感覚だ)

「なんでこんな所に女の子がおんねん?」
 だが、タンはそうは思わなかったらしい。沈黙する一同など意に介さず、助手は幼女をゆすり起こそうと手を伸ばす。
「いや、ちょ、タン君――」
「いだあ~!!!」
「え、どうした?!」

 突然、タンの顔面に何かが衝突したらしい。
 鼻面を押さえ、その大きな後ろ姿は激しく仰け反る。
 座り込む助手へと慌てて駆け寄るが、バリツは幼女の小さな手に細長い何かが握られていることに気づいた。

 ベンチの下に仕込んでいたのだろう。それは一枚の小さな看板だった。

 幼女は寝転んだまま、もう片方の手で、ちょんちょんと、看板を指さしている。


 やばいとき
 つんだとき
 おこしてください
 はさみをさがしています


 達筆で、このようなことが書かれていた。
 ぱちりと見開かれた、真紅の眼。少しムスッとした顔つきで、小さな娘はこちらを見つめている。
 バリツは顎に手を当てた。

「やばい時、つんだ時、起こしてください……これは、どういうことだ……?」
「んー、そうだなあ。文字通りの意味なら、ひとまず敵ではないと考えてもよさそうだけど」
「うむ……」

 幼い娘という容姿による所も大きいのかもしれないが――確かに、敵ではないように思える。もっとも、ただならぬ気配こそ、それでもぬぐえなかったが。 

「そして探し物があるようだ。鋏といえるかは微妙なところだが……」

 バリツは懐から万能ナイフ――昔からバリツが常備している、刃渡りの短いものだ――を取り出し、付属の鋏を見せる。
 彼女はむくりと身を起こし、万能ナイフを一瞥するが、首を横に小さく振る。
 どうやらこれではないようだ。

「問おう」
 斉藤が大仰に、幼女に問いかける。
「君も猿なのかね?」

 幼子は言葉を発さないが、なにいってんだこいつ、と言わんばかりに、微かに眉を寄せた。

「いやいや、斉藤君……」
「そして早速俺たちは詰んでいるんだ。そんなわけで早速助けてくれないか!」
「はええわ!」
 悶絶していたタンがツッコむ。実際その通りだ。
 取り繕うような形で、バリツは問う。
「君は……言葉を話せないのかね?」
 少女は円らな瞳を、斜め上へと逸らした。
 本当に話せないのか、あえて話せないのかはわからなかった。

「俺、この子おんぶしてってええかな?」
「待ちたまえタン君、死にたいのか」
「えーっ……あー、うん、やっぱやめとくわ。今すっごい目で睨んできたこの子」

 幼女は大きなあくびを一つつくと、看板をコンコンと叩いた。「それじゃ、よろしくね」と言いたいのだろうか。
 看板を器用に立てかけると、ころりと、再びベンチに横たわってしまう。
 バリツは肩をすくめた。

「ひとまずこの子は大丈夫であろう。これは私の勘だが、彼女はここにいても心配ないし、彼女自身も敵ではないのだろう」
「俺もそう思うぜ」
「真っ先に、君は猿かと問いかけてたもんネ、斉藤君……それにしても。電車がまた来る可能性はあるのだろうか?」
「アレやな、いっそ線路を歩いて帰るってのもアリなんちゃう?」
「んー、いや、それはやめたほうがいい。いっそ線路を破壊する方がマシじゃないかな」
「それこそやめた方がいいと思うぞ、バニラ君……」
「まあ冗談さ。なににしても、現状だと手がかりが足りないな」
「そうだね」
  
 バリツは唸る。
 見慣れぬ駅名。時刻表と思しき掲示物。謎の幼女。
 そのままではわからないことだらけだ。自らの博物学も図書館も役立つまい。

「ひとまず、中に入ってみるか?」
「そうだね、斉藤」
「斉藤君の言うとおりだな」
 
 斉藤の提案に、一同は歩き出した。

 ふとみると、タンがきょろきょろと辺りを見渡している。
 何かの気配を覚えるとでもいうのだろうか。

 喫茶店でしきりに主張していた事柄――「テーブルの下に何かいたんや」。
 それを思い返し、バリツも周囲を見渡すが、真新しいものは見つけられなかった。

☆続