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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 下

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「あれから間もなく、不思議な出来事とやらに巻き込まれたんだぞ!? だから、私から連絡していたというのに、何故繋がらなかったのかね?」

『へ、へへ、申し訳ないぜ、バリツ君。そっちも色々あったんですねえ……』

 相変わらずの口調に、今は神経を逆撫でされたような感覚を覚えてしまう。

 だが、考えてもみれば、彼にはタンがテーブルをひっくり返したハプニングの際、自分達を庇い、料金も立て替えてくれた恩義がある。これ以上感情的になるのも、旧友として大人気ない。自制せねば。

 そう思いをめぐらせた途端、バリツの憤りが吹き飛ぶ発言が、彼から飛び出した。

『実は、ちょっと通り魔にあって、入院してたんでさあ……』

「――ええ!?」

『出血が酷かったモンで、そのまま意識を失っちまってたみてえで……さいきんやっと目覚めたらしいんですわ。今も、病院の公衆電話からかけてるんさ』

 あまりに予想の斜め上の発言であった。
 もはや怒る気力も起きなかった。

「よくもまあ、そいつは災難だったね……!」

 考えてみれば、自分も死に直面する怪異は味わったものの、振り返ってみれば五体満足なのだ。
 しかしながら、自分達にあの都市伝説を吹き込んだ彼は、半死半生の状態をさ迷った。
 客観的に見れば、ともすれば因果応報とも取れたかもしれない。
 だが、旧友の受難を責め立てる気持ちは、もはや起きなかった。

「しかし、一体なにが?」

『それがよーー』旧友はおもむろに語り出す。
『その通り魔はヤタラとガタイがよくて、全身を機械みたいなので覆ってたんサ。やけに毛皮臭かったなあ……金属鎧のイエティさながらさ』

「え」

 全身を機械みたいなので覆ってた。
 やけに毛皮臭かった。

「それって――」

 バリツの疑問は、旧友のマシンガントークに飲み込まれた。

 もはや、喫茶店で怪談話に興じていた、あのテンション……否。
 もったいぶりながら、ゆっくりと話していた、あの時の否ではない。
 客人を交えぬ、旧友同士のワンツーマンだからだろうか?

『そいつがカギ爪か何かであっしの腹を切りつけて、堪らず倒れたんさ。たまたま人気のない裏路地を通ってたもんだから、もうダメだって思った。ところがですよ――黒衣の少女が、ビルから振ってきて、銃でもって化けモンの脳天を打ち抜いちまったんでさあ!!』

「黒衣の少女が――化けモンの脳天を……?」

 待て。待て。
 待て待て待て待て待て待て!?

『ありゃあ天使だったか、悪魔だったか。そもそも夢か幻だったか、そんなんはわかんねえさ。間もなくあっしは意識を失っちまって、その後は見る由もなかった。警察も、何も見つけちゃいねえとおっしゃる』

「ちょっと、芥川君、それって」

『でも、あんな美しい姿は、これまで見たこともねえ。そんでもって、あっしは実際助かってるわけですわ。ああ~! パラレルワールドのあっしが手を差し伸べてくれたんか。はたまたあれは、あっしの守護霊の具現化だったのか! 気になるったらありゃしねえですわ! 更にゃ未来からやってきた使者だった可能性もあるとね! あっしの死の未来を変えるために派遣されたってんなら、いやあ燃えてくるのなんの!』

「あのさ、なんつう肺活量してんの君」

『や、ちょっとクラクラしてきちまったから、いったん切るけどね。バリツ君』

「切り上げるの唐突じゃない!?」

『またそっちの話も聞かせてネ。へへ。それじゃ、そういうことで』

「おい、芥川君――!」

 話すだけ話して、彼は一方的に電話を切ってしまった。
 バリツはしばらく、座ったまま呆然としていた。

「……アシュラフ君」

 突然の爆発音が、バリツに襲い掛かった。

 衝撃に震えるテーブル。シャンデリア。
 風景画、壷入り観葉植物。飾られた盾と剣。本棚の古典に古文書たち。
 色とりどりのアンティークが、小刻みなダンスを踊る。

 爆発の心当たりは、あまりにも覚えがありすぎた。

「……またキッチン爆破したの?」
 

☆To be continued…