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NAKED TRUE(未完)

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イギリス人の3割は家で電話をする際……裸らしい。
一体何処の調査会社がそんなものを調べたのだろうと思うのだが、聖域在住のあの人を見ていると、自宅では裸で過ごす人間は国籍問わず何処にでも存在するものと思われる。

カタカタと、キーボードを叩く音が室内に響く。
モニターから放たれる光が、薄暗い部屋を鈍くてらしているが、深夜のためかそれはひどく明るく見える。
「……嫌な情報が入ったな」
パソコンデスクの前に腰掛けていた男は、送られてきたメールを読みながら、苦々しくそう呟く。
どうやら某大企業内で内部分裂の動きがあり、開発部門の技術者が多量に離脱する可能性があるとのこと。
そうなった場合、その企業の開発力は著しく低下し、同業会社に食われるかも知れない。
ここは早めに、株を手放しておくべきか。下がってから売るのでは、大損だ。
そう真面目に分析し、これからの方針を考えるが。
シリアスな光景のはずなのに、とてもシリアスな光景のはずなのに、何故か……格好がつかない。
何故か、違和感がつきまとう。
「売るか」
しばしの計算の後、決断する。
右手だけでタイピングを済ませ処理をすると、デスクの前から立ち上がった。
……そこで皆、己の抱いた違和感の正体に気付くであろう。
男は、全裸だったのだ。
均整の取れた長身は布一枚、葉っぱ一枚身につけておらず、滑らかな質感の肌が夜の闇の中で鈍く光っている。
誰もが息を飲むような美しい肉体である。
ギリシャ彫刻のような美しい裸身である。
けれどもその美しい裸身がパソコンデスクに腰掛けている様は、まったくもって奇妙としか言いようがなかった。
パソコンは自動でシャットダウンする。
男はそれを確認すると、ベッドの中にもぐり毛布をかぶった。
無論、裸である。

双子座のサガは常識人だ。
邪悪の化身であった黒サガと、神の化身と呼ばれた人格が融合してからは、真面目な立派人間に生まれ変わった。
黒サガだった頃の名残は、一日一箱の煙草と就寝前の深酒、そして、少々のマネーゲームのみだ。
煙草も酒も株も皆やっていることなので、目くじらを立てる要素は一つもない。
時間になれば職場である教皇の間に出向き、アイオロスがイライラしている横で書類を片付け、仕事の合間を見ては先行投資で小銭を儲ける。
一日の仕事が終わったら磨羯宮で一服した後、双児宮へ帰る。
そんな、どこにでも居るような、普通のサラリーマンと変わらない生活を送っている。
ただ、そんな普通の暮らしをしているサガであるが、帰宅すると『ある』行動に出る。

服を脱いで全裸になるのである。

サガが全裸に目覚めたのはいつ頃か、詳しいことは誰にもわからない。
彼の幼少期を知るシオンやアイオロスは既に殺されていたし、シュラやデスマスク、アフロディーテはサガの正体が明らかにならないよう、距離を取っていた。
ましてや幼少の黄金聖闘士たちは教皇はサガに殺されたと、ムウ以外は知らなかった。
そんなわけで、サガがいつ裸族になったのかは、誰も知らない。
ただ気が付いたらサガは全裸で聖衣をまとっていたし、気が付いたら双児宮で裸になるようになっていた。
その件についてミロがカノンに、
「お前の兄貴、いつからストリップが趣味になったんだ?」
と訊ねたところ、カノンはメンソールの煙草を噴かしながら、
「俺と一緒にいた頃は、普通にパンツ履いてたぞ」
そう首を傾げつつ答えていたので、多分教皇の座に就いてから脱ぎ癖がついたのではないかと思われる。
アフロディーテに分析をもちかけると、彼は絵画のような綺麗な顔に苦笑を浮かべながら、
「教皇になると沐浴場に入り放題だろう?だから、すぐに入浴できるようにああなったんじゃないのかな?法衣だけ脱げば、すぐに入れるしね」
つまり、偽教皇になった後、沐浴しているうちにお風呂の虜になり、すぐに脱いで入れるよう、全裸の上に法衣に走ったのか。
そして下着のない開放感が病み付きになり、自宮では聖衣はおろか下着すらつけなくなったということなのだろうか。
まぁ、本人にそれを訊く命知らずはいないから、全て憶測でしかないのだが。
「私、あまり双子座の聖衣は修復したくないのですよ」
聖域で唯一聖衣修理技術を持つムウは、丸い眉を顰めてそう語る。
「だって、直接……アレでしょう?正直、チェストガードの内側はクリーニングしたくありませんよ」
心底ウンザリした様子である。
それを聞いた誰もが、気持ちはわかると内心激しく首を縦に振った。

周りから色々思われているにもかかわらず、サガは涼しい顔で裸族を続けていたが。
その裸族生活を脅かすような出来事が、双子座の聖闘士を襲うことになる。

その日、グラード財団の仕事でアメリカにやってきたサガは、ホテルの一室でいつも通り裸になり、ネットで株価のチェックをしていた。
いつもなら財団の仕事はアフロディーテが担当することが多いのだが、彼は休暇中だったのでサガが請け負うこととなった。
本当はサガは、アフロディーテに休暇を潰させてこの仕事に当たらせるつもりだったが、アフロディーテが物凄い笑顔を浮かべながら、
「では、次回のアラブ某国での仕事を貴方に代わってもらいますよ?あそこの議長は、貴方にえらくご執心でしたよね。また挨拶のキスを強請られるのではないでしょうか?」
と言ってくるものだから、流石に今回は諦めた。
こんな経緯でサガは現在異国のホテルでネットに興じているのだが。
サガがすぐにインターネット接続するのは、ネット中毒だから……というわけではない。
株を趣味にしているので、現状の把握のためにネットが必需品になっている、ただそれだけの話なのだ。
執務中にもシオンの目を盗んでは株価のチェックをしているようで、時々アイオロスは、
「あいつもチャレンジャーだよなぁ」
とぼやいている。
現在株価のチェックのため、椅子に腰掛けてじっとモニターを眺めているサガは。
当然のように。
全裸だった。
ギリシャ彫刻のように整った肉体を惜しげもなく晒し出して、ネットで株の売り買いをしている様は、シュールとしか言いようがない。
「……うむ」
マウスを操作し、モニターを睨みつける。
さて、この後どうするべきか。考えていると、テーブルに置かれた携帯電話が鳴った。相手すら見ずに、電話を取る。
「Hello?」
聖域を出た際はサガも英語を使う。
ギリシャ語など、ギリシャ国内くらいでしか通じない。英語の方がよほど汎用性が高い。
『サガか、今何をしている』
電話の相手はアテナの執事の辰巳だった。
この男は黄金聖闘士相手にもぞんざいな口を利くので、十二宮の住民からはあまり好かれていない。
サガはハンズフリーモードにした後、
「ネットで株をチェックしていた。それが何か?」
やや口調に棘があるように感じるには、辰巳の日頃の行動がよろしくないからだ。辰巳は苦々しさを押し殺しつつ、顔も頭も実力もハイクラスな双子座の聖闘士に訊ねた。
『お前は株をやるのか』<br>
「聖域の資産を倍に殖やしたのは、私だ」
淡々とそう答える。
サガは悪の人格に支配されていた頃、幻魔拳を使った強制インサイダー取引を何度か行っていた。
作品名:NAKED TRUE(未完) 作家名:あまみ