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miss you 5

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miss you 5



「うわぁぁぁぁぁぁ!」
屋敷中に響き渡る叫び声に、ジョルジョが慌ててアムロの部屋に飛び込む。
「アムロ⁉︎」
部屋に入ると、窓辺でカーテンを掴み、頭を抱えるアムロの姿があった。
慌てて駆け寄り顔を覗き込むが、錯乱したアムロはジョルジョの存在に気付かず外に向かってひたすら叫び続ける。
「ああああっ!」
「どうした!アムロ、大丈夫か!」
ガタガタと身体を震わせ、琥珀色の瞳からはポロポロと涙の雫が零れ落ちる。
「アムロ!」
ジョルジョの声に、ようやくその存在に気付いたのか、アムロがゆっくり顔を向ける。
「ジョル…ジョ…」
「どうした⁉︎何が!」
そう言い掛けてジョルジョはその理由に思い当たる。
「アムロ…君…まさか…」
アムロはジョルジョを見上げながらも頭を抱え涙を流し続ける。
「ジョル…ジョ…宇宙が…落ちた…恐怖と悲しみ…怒りが…私の中に…入ってくる……わた…うううう…」
カーテンを握る手に力が入り、アムロの顔が恐怖で歪む。
「あ…あ…あああああ…やだ…怖い…怖い…」
「アムロ!」
ジョルジョはアムロの腕を掴むと、その細い体をギュッと抱きしめる。
「ジョルジョ…ジョルジョ…助けて…」
ジョルジョの身体にしがみ付き、ガタガタと震えながらアムロは涙を流し続ける。
「アムロ、大丈夫だ。僕がここに居る。こうして抱き締めているから!」
ジョルジョはアムロを抱きしめる腕に力をを込める。
「アムロ…!」

その日、地球連邦政府の本拠地であるチベットのラサに小惑星5thルナが落ちた。
シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン軍が、交渉に応じようとしない連邦政府への牽制として5thルナを落としたのだ。
いち早くそれに気付いたブライト・ノア率いる地球連邦軍 外郭新興部隊 ロンド・ベルが阻止に向かったが、地球連邦本部からの応援の無い状態では統率の取れたネオ・ジオン軍に敵うはずも無く、無情にも5thルナは落下し、ラサは一瞬で滅び去った。

地球連邦政府はネオ・ジオンの通告を本気に取らず、直前になって漸く本気だと気付き、市民への避難勧告も出さずに自分達だけ逃げ出したのだ。
その結果、何も知らされず、逃げ遅れた多くの市民がその犠牲となった。

その人々の恐怖の思惟を、遠く離れた場所に居ながらアムロは感知してしまった。
人々の恐怖をその身に受け、アムロは半狂乱になって叫ぶ。
高いニュータイプ能力を持つアムロは、その力をある程度コントロールする事が出来た。しかし、それも適わない程の思惟がアムロを襲ったのだ。
ジョルジョはこのままではアムロの精神が保たないと判断し、駆け付けた医師に安定剤と睡眠導入剤を注射させ意識を奪った。
それでも、顔を歪めて涙を流し続けるアムロを抱き締める事しか出来なかった。
「アムロ…」


◇◇◇


「大佐、大丈夫ですか?」
レウルーラの艦橋で、5thルナの落下を確認しながらナナイがシャアに問い掛ける。
ナナイもシャアも少なからずニュータイプ能力を有している。
アムロ程では無いにしろ、それなりに衝撃は受けていた。
「ああ、問題ない。私は出来損ないだからな。それより君の方が辛かろう」
「申し訳ありません。少し気分が…」
「あとは私一人で大丈夫だ。君は部屋で休んでいたまえ」
「しかし…」
「構わん。おそらく連邦からの追撃は無い」
「…はい。では、失礼します」
「うむ」
辛そうな表情を浮かべ、ナナイがレウルーラの艦橋から出て行く。
シャアは視線を地球へと戻し、宇宙からでもはっきりと分かるラサの炎を真っ直ぐに見つめる。

地球連邦軍政府へ宣戦布告し、スペースノイドの独立自治を求めたが、連邦政府の反応は希薄で中々要求に応じようとはしなかった。
連邦政府のへの牽制として、要求を飲まなければ連邦本部のあるラサに小惑星5thルナを落とすと通告したが、それすらも本気に取らず、とうとうこの日を迎えてしまった。
直前になって、連邦の上層部はラサから脱出したようだが、市民には避難勧告すらしていなかったらしい。
人々の恐怖の思惟が宇宙にまで届いている。
シャアは拳を握り締め、それを逃げる事なく受け止める。
これが己が選んだ道だと、どんな犠牲を払っても信念を貫き通し、スペースノイドの自由を勝ち取るのが己の使命だと。
それが、ジオン・ズム・ダイクンの子として生まれた己の運命なのだと。
「しかし…アムロはこんな私を許さないだろうな…」
自嘲気味に呟き、苦笑する。
しかし刻は動き出した。もう止める事は出来ない。
それでも、出来ることならば、そんな自分を側で支えて欲しいと願ってしまう。
都合のいい話だと分かっているが、願わずにはいられなかった。


◇◇◇


翌朝、アムロの部屋を訪れたジョルジョは、扉をノックしても反応を返さないアムロに嫌な予感を覚える。
「アムロ?入るよ!」
慌てて部屋に入りアムロを探す。
しかし、アムロの姿はどこにも無い。
「誰か!アムロを知らないか⁉︎」
部屋を飛び出し、通り掛かった使用人を呼び止める。
「え?アムロ大尉でしたら先程出掛けられましたよ」
「何だって⁉︎一人で行かせたのか?」
「いえ、ジョルジョ中尉がエレカで待っているからと言っていましたが…」
「僕はずっと部屋に居た!くそっ、何時頃だ?」
「十分程前です」
「まだそんなに時間は経ってないな、どこに行ったんだ」
「制服をお召しになっていましたし、基地の方では?」
「基地?休暇申請は今日まで出ている、そんな筈は…」
そこまで言ってジョルジョはある事に思い至る。
「宇宙港か!今日、レウルーラが帰港する!」
「出掛ける!もしもアムロが戻ってきたら連絡してくれ!」
「は、はい!」
ジョルジョは急いでエレカに乗り込み宇宙港に向かう。
「アムロ…まだ体調は戻っていないだろうに…大佐の気配を感じたのか⁉︎」
昨日、アムロは5thルナの落下の犠牲になった人々の思惟をその身に受けて精神的にかなりのダメージを受けた。
精神安定剤と睡眠薬で眠らせていたが、過去の人体実験で薬に抗体のあるアムロにはあまり効かなかったらしい。
本来ならば今日の午後までは目覚めない程の量を投与したにも拘らず、アムロは目覚めてしまった。
そしておそらく宇宙港に到着したシャアの気配を感じたのだろう。

アクシズを落とした訳では無いが、シャアのやった事はアムロの意向に反する事だ。
アムロが黙っているはずが無い。
「まずい事にならなければ良いが…」
ジョルジョはアクセルを全開にし、アムロを追って宇宙港を目指した。
『アムロ!』


宇宙港についたアムロは、昨日の衝撃と薬の影響でまだフラつく身体を必死に奮い立たせ、シャアの気配を感じる場所へと向かう。
「シャア‼︎」
連邦に対してどう対処するつもりだと問い質した時、言葉を濁したシャアの反応に嫌な予感は感じていた。
アムロにはまだ正確な情報は入っていない。
しかし、ラサの被害者が見た最期の光景がアムロの脳裏に飛び込んで来た。
空を赤く染め、迫り来る隕石。
そして次の瞬間、激しい衝撃と眩しい光、猛烈な爆風が襲い掛かってきた。
作品名:miss you 5 作家名:koyuho