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彼方から 第三部 第ニ話

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彼方から 第三部 第二話

「おれ達を尋ねてきた男達?」
 買い出しに来た町。
 アゴル親子はそこで、ノリコの静養のために借りた家の持ち主から、偶然、呼び止められていた。
「そーだよ、この町に来る途中の道で会ってね。あたしの古屋を貸してるって、教えてあげたんだよ」
 雑貨や洋服、携帯食や保存食……
 そんなものを売る店が建ち並ぶ、町の大通り。
 行き交う人波の中、アゴルは家主の女性の言葉に、眼を見開いていた。
「あれ? 知り合いじゃなかったの?」
 驚きに固まるアゴル……いつもは少々煩く感じられる町の喧騒も、女家主の言葉も、今は一つも、耳に入って来ない。
「い……いや、済まない――ありがとう」
 気を取り直し、アゴルは少し焦りながらも礼を言い、ジーナを抱き上げると馬を繋いだ町の入口へと、戻り始めた。

 ――誰だ!?

 逃亡中の身である者を尋ねてくる者など、いる訳がない。
 その者たちが、追手である場合を除いて……
「ジーナ、済まない。もっと、この町の面白いところへ連れて行ってやるつもりだったんだが……」
 娘を抱え、走るアゴル。
 その脳裏に一瞬、『エイジュをもう少しだけでも、引き留めていれば良かったかもしれん』と、後悔の念が過る。
「ううん、さっきのおばさんの話しが気になってるんでしょ?」
 ジーナの言葉に『ああ』と小さく返し、眉を潜める。
 尋ねて来たという男たちが、追手である可能性は低くはない。
「何者だ?」
 アゴルは、その男たちの素性が気になった。
「ナーダかケミルの配下か――それとも、リェンカの追手なのか……」
心当たりがあるとすれば、その二つ。
 そのどちらだとしても、相手は恐らく手練れとなるだろう。
 しかも、複数人の……
 あの御前試合から、だいぶ日が経つ……
 バラゴの言う通り、ケミル右大公がナーダからジェイダ左大公を捕らえたとの連絡を受けてあの日、城に来ていたならば、脱出を図った者たちに追手を差し向けていたとしても不思議ではない。
 それに、リェンカも……
 尾行班と連絡を絶ち、行方を晦ましているのだ。
 裏切り者と判断されていても、致し方ない。
 
「とにかく、早く戻ってみよう……妙な胸騒ぎがする」
 予期せぬ出来事……
 いや、予期できたはずの出来事だ。
 追われているのが分かっていて、ただ、日々の安息に気が緩んでしまっていた。
 リェンカともナーダとも、関わりを持つ者の癖に、何をやっていたのかと自身を叱責する。
 別れ際に、エイジュがイザークに見せたあの餞別を、思い出す。
 
 ――もしかしたら、あれは……『緩んだ気を引き締めろ』と、そういうことだったのか?

 そうも思える。
 なんにしても、今はうだうだとやっている場合ではない。
 アゴルは自分たちの乗ってきた馬を見つけ、ジーナをその背に乗せようとした。

「お父さん。あたし、占ってみようか?」
「ああ、そうか!」
 少し、焦りが先走っている父に、ジーナがそう声を掛ける。
「占者のジーナなら、何か占(み)えるかも……」
「うん」
 娘にそう言われるまで考えが及ばない程、アゴルにとって『尋ねて来た男達』は、不測の事態だった。
 馬の背に乗せようとした手を一旦止めると、ジーナの占いを待つ。
 ジーナは父に抱かれたまま、首に掛けた小さな巾着に入っている占石を――母の形見であり、占いをする為の媒体でもある守り石を、服の上から握り締めた。
 ゆっくりと瞼を閉じ、守り石に心で語り掛ける。

 ――あたしの胸の石さん
 ――どうか教えて下さい

 ――おばさんが道で会った人は誰ですか?

 尋ねて来た男たちのことを教えてくれた『おばさん』の顔を思い返しながら、ジーナは『占石』を通して頭に浮かんでくるであろう、『占い』の映像を待った。
 やがて……『おばさん』の面影が消え、違う映像が浮かび上がってくる。
 それは――

 ――あれ?

 ジーナが想像していたものとは違っていた。

 ――何だろ、この泡
 ――人の顔が見えると思ったのに……

 ゴボゴボと、沼か、湖の底から湧き上がって来ているような――泡の、群れ。
 幾重にも重なり、形を歪に変えながら寄り集まってゆく……
 寄り集まった泡は、一つの大きな泡となり、幾つも……幾つも出来上がっては割れて、そして『それ』は、膨らむも次第に泡の様相を成さなくなってゆき、歪な形を見せながら、まるで、人の顔にも見えるような窪みを作ってゆく。
 一際大きく、ハッキリと『顔』だと認識できる膨らみが、ジーナの脳裏に映像として浮かび上がり、ニタリ……と、薄ら笑いを浮かべているかのように窪みを歪めた。
 その次の瞬間だった――
 歪な泡の膨らみが、生き物のように盛り上がって来たかと思うと、その、不定形の体をくねらせる。
そして――歪な窪みは不気味に、大きく開いた口のように裂け、中には幾つもの目玉が犇き合い、ジーナを凝視し、長く、不気味な舌を伸ばしながら、裂け目から牙を剥き襲うかのように向かってきた。

「きゃあぁあっ!!」
 
 ジーナは恐れの叫び声と共に瞼を開き、占いを止めると父の……アゴルの首に必死にしがみ付いていた。
「ジーナッ!?」
「やだぁっ! お父さんっ!!」
 ジーナには分っていた。
「こわいよォ! 化物がァ……!!」
 あの泡全てが……
「化物がいっぱいいるよォ……」
 掴みどころのない、異様な体を持つ化物だということを……
 その化物に、占いの映像とは言え、牙を剥かれたのだ。
「ジーナ――!?」
 小さな体を恐怖で震わせ、自分の首に顔を埋めるようにして、きつく、抱きついてくる娘――

 ――化物……!? 
 ――ケミルやナーダ、リェンカの放った追手じゃないのか……!?

 今までの占いでは見られなかった娘の反応に、アゴルは戸惑い、ただしっかりと、抱き締めてやるしかなかった。

   *************
 
「あの……」
 家の玄関から顔を覗かせ、外で馬車の修繕を行っている二人……バラゴとイザークに、ノリコは声を掛けた。
 エイジュと別れた日。
 その日の昼下がり。
 ノリコは夕食の下拵えを終え、まだ陽の高い空を見上げ、ふと、散歩でもしようかと思い立っていた。
「夕食の仕度まで時間があるので、それまでちょっと散歩してくるね」
 別に、遠くへ行くわけではないが、それでも、なんの断りもなく行くのは気が引ける。
 ノリコは行く先を指差しながら、二人に笑顔でそう言っていた。
 彼女の声掛けにイザークは顔を上げると、
「あまり遠くへ行くな、ノリコ。じき日が暮れる」
 そう応じていた。
「過保護だねぇ……」
 一緒に馬車の修繕をしていたバラゴが、しゃがんだままの状態で呟いてくる。
 イザークが眼を向けると、
「ガキじゃねぇんだから、遠くへ行くなもねぇだろうが……よっぽど気になるんだねぇ、イザークくん」
 からかい気味にニヘッと、少しいやらしい笑みを浮かべ、
「おれに遠慮はいらねぇぜ。そんなに心配なら、くっついて行ってやれよ、ほれ」
 更に、煽るように、言葉を続けた。

 ――うわっ! 
 ――バラゴさんったら、また……!!