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忘れないでいて【if】3 〜birthday2〜

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「テムは優秀な技術者だったが偏屈な男だったからな」
「それは認めるけどさ、可愛いって…僕、男だし」
「わははは!男だろうと女だろうと、わしにとっては可愛い子供だ。それにアムロはカマリアに似て別嬪だからな」
「そんなに母さんに似てる?」
「この髪の色といい、顔立ちといいそっくりだ」
「…そっか…」
一年戦争で別れて以来、会っていない母を思い出す。
幼い頃、抱き締めてくれた優しい手の温もり。
十年振りに会った自分に直ぐに気付いてくれた。自分と共に生きてはくれなかったが、幸せに生きていてくれれば良いと思う。

 再会を喜ぶ二人を見つめるシャアにスミレがそっと声を掛ける。
「シャア大佐、依頼されていた例の物も準備してあります。後でお渡ししますね」
「ああ、無理を言ってすまないな。ありがとう」
「あの…不躾な質問ですが…アレの刻印の“A”ってもしかして…」
「ん?ああ、彼だ」
「ああ、やっぱり…、でもあの…お二人は一年戦争でライバルだったと…」
「そうだな、しかしあれから色々あってな」
優しい笑顔で答えるシャアに、スミレは思わずドキリとする。
『シャア大佐がこんなに優しい笑顔をなさるなんて…!』
そして、アムロに向ける熱い視線に思わず納得してしまう。
「本当なんですね。正直驚きました。それにあのガンダムのパイロットがあんなに可愛らしい方だったなんて」
「そうだな、しかし可愛いだけでは無い、ああ見えて頑固で芯がしっかりしている」
「ふふふ、そうなんですね。ああ、それから、これは私から大佐へのプレゼントです。今日、お誕生日ですよね?」
「知っていたのか?」
「勿論です!」
そう言って手渡された包みを受け取り中を覗き込む。
「これは…」
「やっぱりペアが良いと思いまして、大佐の分も用意しました」
「そうか…ありがとう。嬉しいよ」
「喜んで貰えて良かったです」


◇◇◇


 零式の受領とアムロに合わせた調整を終えた二人はフォンブラウン市街へと足を伸ばす。
「あ、シャア。ちょっとそこのお店に寄って良い?」
「ああ、構わない」
「すぐに戻るのでここで待っていて下さい」
アムロが向かったのは小さな洋菓子店。
少し待っていると、アムロが袋を抱えて戻ってきた。
「何を買ったんだ?」
「え?あ…その…お菓子です!明日も零式の調整でスミレさんに会うのでその…色々良くしてもらったお礼に…」
「そうか、スミレも喜ぶだろう」
「は、はい」

 二人は食事を済ませると、フォンブラウンにあるシャアの私邸に向かった。
「こんな所に貴方個人の家があるなんて…」
「皆には内緒だぞ」
「はい」
おそらくクワトロ・バジーナ名義では無いであろう事を察して頷く。
「先にシャワー浴びると良い」
「ありがとうございます」
市内の中心部にあるマンションの一室、とは言えこのフロアは全てシャアの持ち物らしく、通常三軒分の広さを一軒にしているようで、とても広い。
 シャワーを終え、備え付けのバスローブを纏って部屋に入れば、シャアがいつもの赤い軍服から紺色のスラックスと白いシャツに着替えて寛いでいた。
「お、お待たせしました、シャワーどうぞ」
「ああ、温まったか?」
「はい」
少し頬の蒸気したアムロにグラスの水を差し出し、軽く頭を撫でてシャアもシャワーに向かう。
「びっくりした。あの人何着てもカッコいい…」
グラスを手に、シャアの姿を思い出しドキドキする。
そして、先ほどの洋菓子店で買ったお菓子の袋から一つの箱を取り出す。
「こんなので良いかな…。でも他に思いつかなかったし…」
ボソリと呟き、綺麗な箱を見つめながらそっとその箱を抱き締める。
「喜んでくれたら良いな…」

 暫くして、シャワーを終えたシャアが髪を軽くタオルで拭きながら戻ってきた。
「どうした?」
落ち着かない様子のアムロに、シャアが声を掛ける。
「あの…えっと、お誕生日おめでとうございます!」
そう言って先程の箱をシャアへと差し出す。
その、思いもよらぬ出来事にシャアが驚いて固まる。
「……」
「…シャア?」
言葉の出ないシャアをアムロが心配気に見上げる。
「あ、ああ、すまない。少し驚いて…ありがとう」
差し出された箱を手に取り、アムロへとお礼のキスをする。
「開けて良いか」
「はい、大した物ではないんですけど…急だったのでこんな物しか用意できなくて」
箱を開ければ、そこには綺麗なチョコレートが並んでいた。
「これは、先程の洋菓子店で?」
「はい、甘い物が好きだったなと思って…」
「そうか…しかし、よく私の誕生日が分かったな」
今日はクワトロ・バジーナではなく、シャア・アズナブルいや、キャスバル・レム・ダイクンの誕生日。それを知る者はごく僅かだ。
「今日…スミレさんがそう言っているのが聞こえて来たので…」
「ああ、あの時か…そうか、ありがとう。嬉しいよ」
嬉しそうに微笑むシャアに、アムロも漸く緊張が解けて笑顔を返す。
「アムロ、君が食べさせてくれないか?」
「え?」
箱を差し出し手に取るように促す。
「ダメか?」
「あ…良いですよ」
おずおずと綺麗に並ぶチョコレートを一つ摘むと、シャアの口元へと運び口に含ませる。
「美味しいですか?」
「ああ、とても美味しい」
そう答えるシャアの表情が妙に色っぽくて、思わずアムロの顔が赤くなる。
「もう一つ食べます?」
「ああ、今度は君の口から食べさせて欲しいな」
シャアはチョコレートを一つ摘むと、アムロへと咥えさせる。そして、自分の唇を寄せて食べさせてくれとせがむ。
アムロは戸惑いながらも、今日の主役であるシャア願いを叶えようとチョコレートを咥えた唇をシャアの唇へと近付ける。
シャアはそのチョコレートを唇に含み、そのままアムロへと口付けた。
「ん、んんん」
口腔内で溶けたチョコレートをアムロへと口移して食べさせながら、更に深く口付ける。
「あ…んん…シャ…」
アムロは口の中いっぱいに広がるチョコレートの甘さと、中に包みを込まれていたブランデーの香り。そしてシャアの舌に翻弄されて次第に身体の力が抜けていく。
気付いた時にはシャアの腕に抱かれていた。
「シャ…ア…」
トロンとした瞳を向けて力の抜けた身体をシャアの胸に預ける。
「美味しいだろう?」
「は…い…でも僕には少しお酒がキツいかも…」
「そうだな。しかし、お陰で気持ち良くなったのではないか?」
少量ながらも度数の高い酒は、飲酒の経験の無いアムロにアルコールを回らせる。
「はい…なんだかフワフワします」
少し顔を蒸気させたアムロがふにゃりと笑う。
「アムロ、もう一つプレゼントが欲しいのだが、お願いしてもいいか?」
「はい…でも僕、もう何も持ってないです…」
「モノは要らない…私は君が欲しい。貰っても良いだろうか?」
シャアの言葉の意図が解らず、アムロはコテンと首を傾げる。
「僕?僕はとっくに貴方のモノですよ?」
その言葉と仕草にシャアはクラクラとしながらも、言葉を続ける。
「そうだな。心は既に私のものだ。だから、今日は君の身体も欲しい」
そう言いながらアムロの身体を背中からスルリと撫であげ首筋にキスをする。
「え?…あっ!」
「解ってくれたか?」
「あ…えっと…はい…」
「良いか?」