miss you 6
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サイド1のスペースコロニー『ロンデニオン』。地球のヨーロッパを模して造られたこのコロニーで今日、地球連邦政府とネオ・ジオンの会談が行われる。
ネオ・ジオンの旗艦『レウルーラ』のタラップを降りると、隣のドックには地球連邦軍 ロンド・ベルの旗艦『ラー・カイラム』も入港していた。
アムロは思わずラー・カイラムの艦橋を見上げ、懐かしい戦友の姿を探してしまう。
「アムロ、行くぞ」
「はい」
後ろ髪を引かれながらも、シャアに促されて港に降り立ち、会談が行われるホテルへと向かう。
ラー・カイラムの艦橋から、そんなアムロの姿をブライトが見つめていた。
スウィート・ウォーターに調査に入ると報告を受けてから、パタリとアムロからの通信が途絶えた。
何かあったのではと心配していたところに、シャア・ダイクンの宣戦布告。
そして、その隣に立つアムロを見つけた時は心底驚いた。
ネオ・ジオンに捕らえられ、無理やり従わされているのかとも思ったが、それもどうも違う様で更に困惑する。
しかし心のどこかで、そんな事もあり得るのかもしれないとも思っていた。
グリプス戦役でクワトロ・バジーナ大尉として共に戦った男は、アムロの事を随分と気にかけていた。地球で再会したと聞き、初めは二人が揉めるのではと懸念したが、クワトロ大尉はアムロを宇宙に誘ったと言う。
そして、アムロの事を語るクワトロの瞳や表情は、決して憎む者に向けるものではなく、寧ろ好意を抱いた者に対するものだった。
その時から、あの二人は目に見えない糸で繋がれるいるのではと感じていた。
しかし、今のアムロの置かれた状況はかなり微妙だろう。
かつての連邦の英雄であるアムロがシャアの元に付き、反連邦の旗印となった事で多くのスペースノイドが連邦に対して反旗を翻そうとしている。
そんな状況に追い込んだアムロを連邦が疎ましく思うのは当然であり、正直、いつ命を狙われてもおかしく無い状況だ。
おまけにアムロはシャイアン基地を脱走した脱走兵だ。命を狙わないまでも拘束される危険性は充分にある。
それにアムロはかつて連邦の白い悪魔とまで言われた連邦のエースパイロットだ。当然ネオ・ジオン内にアムロを憎む者も多くいる。
シャアの庇護下にいるとしても、何が起こるか分からない。
ブライトは小さく溜め息を吐くと、何も出来ないでいる自分を不甲斐なく思い、拳を握り締める。
「俺はあいつに何が出来る?」
アムロの後ろ姿を見つめて呟いた。
◇◇◇
大きなテーブルを挟んで、地球連邦政府の高官とネオ・ジオンの幹部が顔を合わせる。
そこに、真紅の総帥服を身に纏ったシャアが姿を現した。
連邦の高官が総帥自らこの場に同席する事に驚き騒めく。
そして、シャアの後ろに控える様に続くアムロの姿に高官達が眉を顰める。
『裏切り者のニュータイプが!』
『あの女の所為で連邦の威厳はガタ落ちだ』
高官達の呟きと思惟に、アムロは内心溜め息を吐く。
こうなる事は分かっていたが、やはり気持ちの良いものでは無い。
そんな空気を断ち切る様に、シャアが高官達へと視線を向ける。
決して睨みつけた訳ではないが、その威厳に満ちた視線に全員が息を飲み、水を張った様にしんと静まり返る。
「それでは、始めようか」
「総帥自ら会談にお立ち会い頂けるとは…」
冷や汗を浮かべながらも愛想笑いをする高官にアムロは眉を顰める。
連邦政府は5thルナ降下作戦でようやくその重い腰を上げて交渉に応じてきた。
こんな事を思うのはいけないと分かっているが、シャアがあの非道な作戦を決行しなければこの交渉の場は設けられなかっただろう。
内心溜め息を吐きながらもシャアの後ろに控え、高官達を見つめる。
そこでふと、見知った顔を見つける。
『あれ?あの人…確かミライさんの元婚約者の…カムランさんとか言ったけ?…でもあの人確か会計監査局の人だったよな…なんで会計監査局の人間がこの場に…?』
アムロの疑問を他所に、交渉が進められて行く。
停戦協定を結ぶにあたり、ネオ・ジオン側から幾つかの条件が出される。
まずはスウィート・ウォーターの連邦からの独立。全てのスペースノイドの独立は現状ではまだ時期尚早だ。そこはシャアも分かっている。
だからこそ、今後のモデルとなる様にまずはスウィート・ウォーターを独立させ、礎を作る。
他にもいくつかの条件を提示し、それが承認されていく。そして、最後の条件をネオ・ジオンが提示する。
書類に明記されたそれを連邦の高官が確認すると、事前に知らされていたのかコクリと頷く。
それを確認し、シャアの政治面での右腕である幹部ホルスト・ハーネスが何かを部下に指示した。
『何だ?』
その様子にアムロは嫌な予感を覚える。
しばらくすると扉が開き、ネオ・ジオンの者が台車に積まれたアタッシュケースを次々と部屋へと運び入れ、カムランの前に積み上げていく。
カムランは何も聞かされていなかったのか、少し戸惑いながらもそのアタッシュケースを開いた。
その中にはぎっしりと敷き詰められた金塊。
カムランは動揺しながらも、会計監査局としての仕事をする為金塊を確認する。
確認作業が完了すると連邦の高官はにっこりと微笑み調印書にサインをする。
そして、同じくシャアもそれにサインをした。互いの調印が終わり、握手を交わしながら連邦高官アデナウアー・パラヤはとんでもない事を口にする。
「シャア総帥、これをもって連邦とネオ・ジオンの和平条約は締結しました。条件にある通り、ルナ2のネオ・ジオン軍撤退との交換条件として小惑星アクシズをネオ・ジオンに譲渡します」
アクシズの譲渡と言う言葉を聞き、思わず立ち上がろうとしたアムロを、隣に座るジョルジョがグッと掴んで押し止める。
その視線が「今は堪えろ」と訴えているのを感じて、唇を噛みしめながらもそれに応じる。
そんなアムロに連邦政府高官の一人が視線を向けた。
「シャア総帥、失礼ですがそちらにいるのは連邦軍のアムロ・レイ大尉では?」
「ええ、そうです」
「大尉には脱走兵の嫌疑が掛かっております。連邦軍としては軍法会議にかけて処分を下す必要があります。大尉をこちらに引き渡して頂けますかな?」
その言葉に、シャアは特に表情を崩す事なく、部下にある事を指示する。
するとその部下がアタッシュケースを更に一つ高官の前に差し出す。
「こちらでアムロ・レイ大尉の除隊手続きをして頂けますかな?大尉の脱走はグリプス戦役時の混乱の中での事です。他にもエゥーゴに参加した者も多くいたでしょう?パイロットの一人くらい、どうこうしても連邦軍には問題無いのでは?」
シャアの言葉に高官が言葉を詰まらせる。
しかし、アムロのネオ・ジオン入りがスペースノイドに大きな影響を与えた事も事実であり、簡単には引き下がれない。
「しかし!アムロ・レイ大尉はただのパイロットではありません、そう簡単に除隊させる訳には!」
「また彼女をニュータイプ研究の被験体にし、幽閉しますか?」
「っ…それは…」
「そうであるのならば、尚更引き渡す事は出来ない。彼女はその身に私の子を宿している。実験の被験体になどなれば子の命も危険に晒されてしまう」
「なんですと!」
サイド1のスペースコロニー『ロンデニオン』。地球のヨーロッパを模して造られたこのコロニーで今日、地球連邦政府とネオ・ジオンの会談が行われる。
ネオ・ジオンの旗艦『レウルーラ』のタラップを降りると、隣のドックには地球連邦軍 ロンド・ベルの旗艦『ラー・カイラム』も入港していた。
アムロは思わずラー・カイラムの艦橋を見上げ、懐かしい戦友の姿を探してしまう。
「アムロ、行くぞ」
「はい」
後ろ髪を引かれながらも、シャアに促されて港に降り立ち、会談が行われるホテルへと向かう。
ラー・カイラムの艦橋から、そんなアムロの姿をブライトが見つめていた。
スウィート・ウォーターに調査に入ると報告を受けてから、パタリとアムロからの通信が途絶えた。
何かあったのではと心配していたところに、シャア・ダイクンの宣戦布告。
そして、その隣に立つアムロを見つけた時は心底驚いた。
ネオ・ジオンに捕らえられ、無理やり従わされているのかとも思ったが、それもどうも違う様で更に困惑する。
しかし心のどこかで、そんな事もあり得るのかもしれないとも思っていた。
グリプス戦役でクワトロ・バジーナ大尉として共に戦った男は、アムロの事を随分と気にかけていた。地球で再会したと聞き、初めは二人が揉めるのではと懸念したが、クワトロ大尉はアムロを宇宙に誘ったと言う。
そして、アムロの事を語るクワトロの瞳や表情は、決して憎む者に向けるものではなく、寧ろ好意を抱いた者に対するものだった。
その時から、あの二人は目に見えない糸で繋がれるいるのではと感じていた。
しかし、今のアムロの置かれた状況はかなり微妙だろう。
かつての連邦の英雄であるアムロがシャアの元に付き、反連邦の旗印となった事で多くのスペースノイドが連邦に対して反旗を翻そうとしている。
そんな状況に追い込んだアムロを連邦が疎ましく思うのは当然であり、正直、いつ命を狙われてもおかしく無い状況だ。
おまけにアムロはシャイアン基地を脱走した脱走兵だ。命を狙わないまでも拘束される危険性は充分にある。
それにアムロはかつて連邦の白い悪魔とまで言われた連邦のエースパイロットだ。当然ネオ・ジオン内にアムロを憎む者も多くいる。
シャアの庇護下にいるとしても、何が起こるか分からない。
ブライトは小さく溜め息を吐くと、何も出来ないでいる自分を不甲斐なく思い、拳を握り締める。
「俺はあいつに何が出来る?」
アムロの後ろ姿を見つめて呟いた。
◇◇◇
大きなテーブルを挟んで、地球連邦政府の高官とネオ・ジオンの幹部が顔を合わせる。
そこに、真紅の総帥服を身に纏ったシャアが姿を現した。
連邦の高官が総帥自らこの場に同席する事に驚き騒めく。
そして、シャアの後ろに控える様に続くアムロの姿に高官達が眉を顰める。
『裏切り者のニュータイプが!』
『あの女の所為で連邦の威厳はガタ落ちだ』
高官達の呟きと思惟に、アムロは内心溜め息を吐く。
こうなる事は分かっていたが、やはり気持ちの良いものでは無い。
そんな空気を断ち切る様に、シャアが高官達へと視線を向ける。
決して睨みつけた訳ではないが、その威厳に満ちた視線に全員が息を飲み、水を張った様にしんと静まり返る。
「それでは、始めようか」
「総帥自ら会談にお立ち会い頂けるとは…」
冷や汗を浮かべながらも愛想笑いをする高官にアムロは眉を顰める。
連邦政府は5thルナ降下作戦でようやくその重い腰を上げて交渉に応じてきた。
こんな事を思うのはいけないと分かっているが、シャアがあの非道な作戦を決行しなければこの交渉の場は設けられなかっただろう。
内心溜め息を吐きながらもシャアの後ろに控え、高官達を見つめる。
そこでふと、見知った顔を見つける。
『あれ?あの人…確かミライさんの元婚約者の…カムランさんとか言ったけ?…でもあの人確か会計監査局の人だったよな…なんで会計監査局の人間がこの場に…?』
アムロの疑問を他所に、交渉が進められて行く。
停戦協定を結ぶにあたり、ネオ・ジオン側から幾つかの条件が出される。
まずはスウィート・ウォーターの連邦からの独立。全てのスペースノイドの独立は現状ではまだ時期尚早だ。そこはシャアも分かっている。
だからこそ、今後のモデルとなる様にまずはスウィート・ウォーターを独立させ、礎を作る。
他にもいくつかの条件を提示し、それが承認されていく。そして、最後の条件をネオ・ジオンが提示する。
書類に明記されたそれを連邦の高官が確認すると、事前に知らされていたのかコクリと頷く。
それを確認し、シャアの政治面での右腕である幹部ホルスト・ハーネスが何かを部下に指示した。
『何だ?』
その様子にアムロは嫌な予感を覚える。
しばらくすると扉が開き、ネオ・ジオンの者が台車に積まれたアタッシュケースを次々と部屋へと運び入れ、カムランの前に積み上げていく。
カムランは何も聞かされていなかったのか、少し戸惑いながらもそのアタッシュケースを開いた。
その中にはぎっしりと敷き詰められた金塊。
カムランは動揺しながらも、会計監査局としての仕事をする為金塊を確認する。
確認作業が完了すると連邦の高官はにっこりと微笑み調印書にサインをする。
そして、同じくシャアもそれにサインをした。互いの調印が終わり、握手を交わしながら連邦高官アデナウアー・パラヤはとんでもない事を口にする。
「シャア総帥、これをもって連邦とネオ・ジオンの和平条約は締結しました。条件にある通り、ルナ2のネオ・ジオン軍撤退との交換条件として小惑星アクシズをネオ・ジオンに譲渡します」
アクシズの譲渡と言う言葉を聞き、思わず立ち上がろうとしたアムロを、隣に座るジョルジョがグッと掴んで押し止める。
その視線が「今は堪えろ」と訴えているのを感じて、唇を噛みしめながらもそれに応じる。
そんなアムロに連邦政府高官の一人が視線を向けた。
「シャア総帥、失礼ですがそちらにいるのは連邦軍のアムロ・レイ大尉では?」
「ええ、そうです」
「大尉には脱走兵の嫌疑が掛かっております。連邦軍としては軍法会議にかけて処分を下す必要があります。大尉をこちらに引き渡して頂けますかな?」
その言葉に、シャアは特に表情を崩す事なく、部下にある事を指示する。
するとその部下がアタッシュケースを更に一つ高官の前に差し出す。
「こちらでアムロ・レイ大尉の除隊手続きをして頂けますかな?大尉の脱走はグリプス戦役時の混乱の中での事です。他にもエゥーゴに参加した者も多くいたでしょう?パイロットの一人くらい、どうこうしても連邦軍には問題無いのでは?」
シャアの言葉に高官が言葉を詰まらせる。
しかし、アムロのネオ・ジオン入りがスペースノイドに大きな影響を与えた事も事実であり、簡単には引き下がれない。
「しかし!アムロ・レイ大尉はただのパイロットではありません、そう簡単に除隊させる訳には!」
「また彼女をニュータイプ研究の被験体にし、幽閉しますか?」
「っ…それは…」
「そうであるのならば、尚更引き渡す事は出来ない。彼女はその身に私の子を宿している。実験の被験体になどなれば子の命も危険に晒されてしまう」
「なんですと!」
作品名:miss you 6 作家名:koyuho