その先へ・・・3
(7)
カーテンのすき間から差し込む朝日が目に眩しい。
ゆるゆると起き上がり周りを見回してみた。
長い間、時をすごしていた豪華な調度がある部屋ではない。
「ああ、夢か……。夢だったんだ」
ユリウスはほうっと息を吐き、ベッドから降り窓辺へと向かった。
窓の外は雪。
夢の中と同じ様に、静かに降り積もっている。
銀色の雪が張り付いた窓ガラスに、鈍く映る自分の顔を見つめた。
昨晩、思いもかけない人の名前を聞き、心の奥にしまおうと決めた日々が溢れてきてしまったのだろうか?
ユスーポフ家ですごした時が鮮やかに夢に現れたのは、初めてだった。
……あの夜から、およそ一年経っていた。ユリウスはガラスの向こう側に、巻き毛の青年を思い浮かべた。
……リュドミール、元気かな?
あの小さなリュドミールは、今では立派な士官候補生になったんだろうな。
……ぼくにもいたよ、リュドミール。
ねぇ、きっときみは驚くだろうね。
……アレクセイだったんだ。
ぼくは彼を愛して、彼を追ってこの国に来たんだ。
彼に会い、声を聞き、見つめられるだけで、不思議と思い出したんだよ。
ユリウスはアレクセイの顔を思い浮かべ、髪にそっと触れた。
夕べ髪をかき回された時に触れた彼の手の感触と、あの温かな瞳を思い出し、一人頬を染めた。
彼を思い出すたびにあんなにも胸が騒いだのは、そういう事だったんだ。
彼がシベリア終身刑を言い渡されたあの時、涙があふれて止まらなかったのはそういう事だったんだ。
きみがあんなにも憧れていた人。
ぼくが、命がけで愛した人。
同じ人だったなんて、不思議な巡り合わせだと思わないかい?
きみに会わせてあげたいな。
ねぇ、リュドミール。
今なら、ヴェーラの気持ちが分かるって、言っても良いかな?
愛した人を忘れられないって。
ぼくは彼の事は忘れてしまっていたけれど、心の奥深い所で彼を覚えてた。
彼を愛した事を覚えていたんだ。
きみが幼い頃、「好きなものは覚えている」ってぼくに言った事があったよね。
きみの言った通りだったよ。
ぼくはアレクセイを愛していた。
そして……今も……。
この気持ちは変わらない。
この想いだけは、もう一生変わらないし、決して忘れない。
ぼくは、アレクセイを愛している。
愛している……。
〈その先へ……4へ続く〉