miss you 7
miss you 7
「大佐!こちらを!」
慌てた様子で部屋に入ってきたナナイが、手に持った白いハンカチをシャアへと差し出す。
白いハンカチに包まれた物は赤茶色の髪の束。
何かで引き千切られた様なそれの一部には熱で焼かれた跡があった。
「これは…アムロの…焼けた跡は…銃で撃たれたか…⁉︎」
「地下のパーキングにこの髪と大量の血痕がありました。そして数人分の足跡も…血液は二人分…現在調べていますが…おそらくアムロ大尉と…兄のものです…」
悲痛な表情を浮かべ、ナナイが身体を震わせる。
「監視カメラの映像は?」
「その時間帯、ホテル内の通路や地下パーキングのカメラは何者かによって停止されていました」
「計画的だな…それで二人の行方は?」
「それが…その後エレカに乗せられたらしく不明です」
「周辺の目撃情報やそのエレカの特定は?」
「どうやら盗品らしく、車両登録が消されており移動履歴も追跡が出来ない様細工されていました。周辺のカメラや通行データは現在確認中です」
全てのエレカには車両登録がされ、その位置情報も全て管理される。その情報が操作され、移動履歴が確認できないのだ。
しかし、コロニー内の各ポイントでエレカの通行データは管理されており、登録の無いものが通過すれば即時に情報が管理局に通知される。
停戦条約の事後処理中、嫌な予感が胸を過り、急いで部屋に戻った。
だが、既にアムロとジョルジョの姿は無く、ホテル内をくまなく捜索すると、地下のパーキングに大量の血痕、そしてそこにアムロの毛髪が残されていた。
シャアは己の胸に湧き上がる嫌な予感に拳を握り締める。
「アムロ…」
「大佐…まさか連邦がアムロ大尉を…」
「その可能性は十分ある…しかし…」
いくら愚かな連邦でも、会談の直後にこんな事をするだろうか?それに犯行はあまりにも計画的だ。
「大佐…嫌な予感がします…アムロ大尉は…それに…もしかしたら兄はもう…」
共に行方不明になった兄を想い、ナナイが瞳に涙を滲ませる。
この状況もそうだが、少なからずニュータイプ能力を持つナナイは、身内の異常な気配を察知しているらしい。
シャアは震えるナナイを抱き寄せ、落ち着かせるようの背中を摩る。
「ナナイ…」
そして、シャアもナナイと同じ様に微かだがアムロを感じていた。
間違いなくアムロは生きていると…しかし、心が乱れているのも感じる。そしてあの血痕。
生きてはいるが、無傷では無い事は確かだ。
シャアは焦る心を抑え込み、必死に理性を保つ。
『アムロ!』
◇◇◇
ピッピッピッと電子音が鳴り響く中、ラー・カイラムの医務室では医師や看護師達が慌ただしく走り回る。
「輸血用血液を早く!」
「血圧低下!」
「男性の方、心停止です!」
「気道確保と蘇生処置!電気ショックいくぞ!」
医師達が突然運び込まれた重傷患者二人の治療に当たる。
「ブライト艦長、あの女性患者はまさか…」
ラー・カイラムの副艦長であるメランが、ガラス越しに医務室内を見つめるブライトに問い掛ける。
「ああ、アムロ・レイだ」
ブライトは治療を受けるアムロを心配気に見つめながらメランに答える。
「やっぱり!一体どういう事ですか⁉︎」
あの後、ブライトは一緒にいた部下と共にジョルジョの側に落ちていたエレカのキーを拾って二人をラー・カイラムへと運んだのだ。
直ぐにホテルのフロントに連絡して救急搬送を依頼しようとしたが、二人を撃った犯人がはっきりしなかった事や停戦条約が締結した直後のこのタイミングで事件が公になる事への懸念。
何より、もしもこれが連邦の手によるものだった場合、連邦の管理下にあるロンデニオンの病院では危険だと判断し、ラー・カイラムへ運ぶ事にしたのだ。
「アムロが暗殺されそうになっているところに鉢合わせた。犯人がはっきりしなかったから、少し無謀ではあったがこちらに運んだ」
「暗殺⁉︎」
「ああ、何者かに銃で撃たれた。あの彼に庇われてアムロは腕と肩の怪我で済んだが…彼の方は背中に数発の銃弾を受けている」
「彼はネオ・ジオンの?」
「だろうな。アムロと同じネオ・ジオンの制服を着ていた」
アムロがネオ・ジオンの制服を着ていた事に複雑な想いが込み上げる。
どういう経緯でアムロがネオ・ジオンにいるのかは分からないが、自分から進んでネオ・ジオンにいるとは思えなかった。
おそらく何かしらの理由があるのだろう。
それはアムロとあの彼との関係にも関わりがあるのかもしれない。
あの時の様子から察するに、彼はアムロに対して恋愛感情を持っている。
何発もの銃弾をその身に受けながらも、決してアムロを離さずその身を挺して守っていたのだから。
そして、意識を失う直前にアムロのキスを求め、アムロに愛していると告げていた。
「艦長、少しよろしいですか?」
アムロの治療に当たっていた医師がブライトに声を掛ける。
「ああ、何だ?」
「女性の方の治療が終わりました。重傷ではありますが命に別状はありません」
「そうか…」
ホッと胸を撫で下ろすブライトに、医師が更に言葉を続ける。
「幸い、お腹の子供も少し危険な状態ではありましたが、このまま母胎の容体が安定すれば大丈夫でしょう」
「お腹の子?母胎?」
「はい、彼女は妊娠しています。まだ初期なので心配しましたが、麻酔などの使用にも充分気を付けましたので障害などの心配も無いでしょう」
「ちょっと待って下さい、妊娠って…アムロが妊娠していると⁉︎」
「はい」
思いもしなかった報告に、ブライトが驚きの声を上げる。
アムロが消息を断ってから一体何があったのか。
ずっと連絡が取れず、最悪の事態も想定した。
無事な姿を見たと思ったら、ネオ・ジオンを立ち上げ連邦に宣戦布告をしたシャアの横に立っていた。そして今回の暗殺未遂。
その上妊娠だと?この数年の間にアムロの身に何が起こっていたのか。
「…アムロが目を覚ましたら本人に直接聞くしかないか…」
ブライトは溜め息を吐くと、治療を終えてベッドに横になるアムロをガラス越しに見つめて呟いた。
◇◇◇
「アムロ、アムロ…」
誰かが自分を呼んでいる声が聞こえる。
ゆっくりと意識が浮上して行くのを感じながらアムロは重い瞼を開く。
「アムロ!」
初めに目に入って来たのは真っ白な天井。
そして、自分を心配気に見下ろす戦友の顔。
「…ブライト…?」
「アムロ!」
自分の状況が理解できずに、朦朧とする頭で戦友の名を口にする。
「大丈夫か?痛みは?」
「痛み…」
そう呟いて体を動かそうとすると、左腕と肩に鋭い痛みを感じる。
「うっ…痛っ…」
「バカ!動くな傷が開くぞ!」
「傷…?」
「ああ、腕の方は銃弾が掠っただけだが、肩には銃弾が残っていたんだ。幸い太い血管や神経には傷がついていなかったそうだが絶対安静だ」
「腕…銃弾…」
その単語を呟き、自分が何者かに襲われた事を思い出す。そして、自分を庇うジョルジョの事も。
「あっ!ジョルジョは⁉︎ジョルジョは無事…痛っ」
起き上がろうとして、激しい痛みと目眩にそのままベッドへと身を沈める。
「落ち着け、彼はまだ治療中だ」
「生きて…る…?無事?」
「まだ分からん…今、医師達が必死に治療に当たっている」
「大佐!こちらを!」
慌てた様子で部屋に入ってきたナナイが、手に持った白いハンカチをシャアへと差し出す。
白いハンカチに包まれた物は赤茶色の髪の束。
何かで引き千切られた様なそれの一部には熱で焼かれた跡があった。
「これは…アムロの…焼けた跡は…銃で撃たれたか…⁉︎」
「地下のパーキングにこの髪と大量の血痕がありました。そして数人分の足跡も…血液は二人分…現在調べていますが…おそらくアムロ大尉と…兄のものです…」
悲痛な表情を浮かべ、ナナイが身体を震わせる。
「監視カメラの映像は?」
「その時間帯、ホテル内の通路や地下パーキングのカメラは何者かによって停止されていました」
「計画的だな…それで二人の行方は?」
「それが…その後エレカに乗せられたらしく不明です」
「周辺の目撃情報やそのエレカの特定は?」
「どうやら盗品らしく、車両登録が消されており移動履歴も追跡が出来ない様細工されていました。周辺のカメラや通行データは現在確認中です」
全てのエレカには車両登録がされ、その位置情報も全て管理される。その情報が操作され、移動履歴が確認できないのだ。
しかし、コロニー内の各ポイントでエレカの通行データは管理されており、登録の無いものが通過すれば即時に情報が管理局に通知される。
停戦条約の事後処理中、嫌な予感が胸を過り、急いで部屋に戻った。
だが、既にアムロとジョルジョの姿は無く、ホテル内をくまなく捜索すると、地下のパーキングに大量の血痕、そしてそこにアムロの毛髪が残されていた。
シャアは己の胸に湧き上がる嫌な予感に拳を握り締める。
「アムロ…」
「大佐…まさか連邦がアムロ大尉を…」
「その可能性は十分ある…しかし…」
いくら愚かな連邦でも、会談の直後にこんな事をするだろうか?それに犯行はあまりにも計画的だ。
「大佐…嫌な予感がします…アムロ大尉は…それに…もしかしたら兄はもう…」
共に行方不明になった兄を想い、ナナイが瞳に涙を滲ませる。
この状況もそうだが、少なからずニュータイプ能力を持つナナイは、身内の異常な気配を察知しているらしい。
シャアは震えるナナイを抱き寄せ、落ち着かせるようの背中を摩る。
「ナナイ…」
そして、シャアもナナイと同じ様に微かだがアムロを感じていた。
間違いなくアムロは生きていると…しかし、心が乱れているのも感じる。そしてあの血痕。
生きてはいるが、無傷では無い事は確かだ。
シャアは焦る心を抑え込み、必死に理性を保つ。
『アムロ!』
◇◇◇
ピッピッピッと電子音が鳴り響く中、ラー・カイラムの医務室では医師や看護師達が慌ただしく走り回る。
「輸血用血液を早く!」
「血圧低下!」
「男性の方、心停止です!」
「気道確保と蘇生処置!電気ショックいくぞ!」
医師達が突然運び込まれた重傷患者二人の治療に当たる。
「ブライト艦長、あの女性患者はまさか…」
ラー・カイラムの副艦長であるメランが、ガラス越しに医務室内を見つめるブライトに問い掛ける。
「ああ、アムロ・レイだ」
ブライトは治療を受けるアムロを心配気に見つめながらメランに答える。
「やっぱり!一体どういう事ですか⁉︎」
あの後、ブライトは一緒にいた部下と共にジョルジョの側に落ちていたエレカのキーを拾って二人をラー・カイラムへと運んだのだ。
直ぐにホテルのフロントに連絡して救急搬送を依頼しようとしたが、二人を撃った犯人がはっきりしなかった事や停戦条約が締結した直後のこのタイミングで事件が公になる事への懸念。
何より、もしもこれが連邦の手によるものだった場合、連邦の管理下にあるロンデニオンの病院では危険だと判断し、ラー・カイラムへ運ぶ事にしたのだ。
「アムロが暗殺されそうになっているところに鉢合わせた。犯人がはっきりしなかったから、少し無謀ではあったがこちらに運んだ」
「暗殺⁉︎」
「ああ、何者かに銃で撃たれた。あの彼に庇われてアムロは腕と肩の怪我で済んだが…彼の方は背中に数発の銃弾を受けている」
「彼はネオ・ジオンの?」
「だろうな。アムロと同じネオ・ジオンの制服を着ていた」
アムロがネオ・ジオンの制服を着ていた事に複雑な想いが込み上げる。
どういう経緯でアムロがネオ・ジオンにいるのかは分からないが、自分から進んでネオ・ジオンにいるとは思えなかった。
おそらく何かしらの理由があるのだろう。
それはアムロとあの彼との関係にも関わりがあるのかもしれない。
あの時の様子から察するに、彼はアムロに対して恋愛感情を持っている。
何発もの銃弾をその身に受けながらも、決してアムロを離さずその身を挺して守っていたのだから。
そして、意識を失う直前にアムロのキスを求め、アムロに愛していると告げていた。
「艦長、少しよろしいですか?」
アムロの治療に当たっていた医師がブライトに声を掛ける。
「ああ、何だ?」
「女性の方の治療が終わりました。重傷ではありますが命に別状はありません」
「そうか…」
ホッと胸を撫で下ろすブライトに、医師が更に言葉を続ける。
「幸い、お腹の子供も少し危険な状態ではありましたが、このまま母胎の容体が安定すれば大丈夫でしょう」
「お腹の子?母胎?」
「はい、彼女は妊娠しています。まだ初期なので心配しましたが、麻酔などの使用にも充分気を付けましたので障害などの心配も無いでしょう」
「ちょっと待って下さい、妊娠って…アムロが妊娠していると⁉︎」
「はい」
思いもしなかった報告に、ブライトが驚きの声を上げる。
アムロが消息を断ってから一体何があったのか。
ずっと連絡が取れず、最悪の事態も想定した。
無事な姿を見たと思ったら、ネオ・ジオンを立ち上げ連邦に宣戦布告をしたシャアの横に立っていた。そして今回の暗殺未遂。
その上妊娠だと?この数年の間にアムロの身に何が起こっていたのか。
「…アムロが目を覚ましたら本人に直接聞くしかないか…」
ブライトは溜め息を吐くと、治療を終えてベッドに横になるアムロをガラス越しに見つめて呟いた。
◇◇◇
「アムロ、アムロ…」
誰かが自分を呼んでいる声が聞こえる。
ゆっくりと意識が浮上して行くのを感じながらアムロは重い瞼を開く。
「アムロ!」
初めに目に入って来たのは真っ白な天井。
そして、自分を心配気に見下ろす戦友の顔。
「…ブライト…?」
「アムロ!」
自分の状況が理解できずに、朦朧とする頭で戦友の名を口にする。
「大丈夫か?痛みは?」
「痛み…」
そう呟いて体を動かそうとすると、左腕と肩に鋭い痛みを感じる。
「うっ…痛っ…」
「バカ!動くな傷が開くぞ!」
「傷…?」
「ああ、腕の方は銃弾が掠っただけだが、肩には銃弾が残っていたんだ。幸い太い血管や神経には傷がついていなかったそうだが絶対安静だ」
「腕…銃弾…」
その単語を呟き、自分が何者かに襲われた事を思い出す。そして、自分を庇うジョルジョの事も。
「あっ!ジョルジョは⁉︎ジョルジョは無事…痛っ」
起き上がろうとして、激しい痛みと目眩にそのままベッドへと身を沈める。
「落ち着け、彼はまだ治療中だ」
「生きて…る…?無事?」
「まだ分からん…今、医師達が必死に治療に当たっている」
作品名:miss you 7 作家名:koyuho