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「ジョルジョ…」
アムロの瞳に涙が溢れ、頬を伝って行く。
「その…何だ、彼はお前の恋人なのか?」
「…え?…あ…」
答えられずにいるアムロの頭を、そっとブライトが撫でる。
「すまん、色々ありそうだな。とりあえずは安め。ここにいてやるから」
優しいブライトの言葉に、アムロの胸が熱くなる。
「ごめん…ブライト…迷惑かけた…、それから…よく分からないけど…助けてくれたんだよな?ありがとう…」
「迷惑ではないが心配したぞ!後で色々聞くからな。今はとにかくに眠れ」
「うん…」
麻酔がまだ効いているのか、アムロは目を閉じるとそのまま眠りに落ちていく。
その寝顔を見つめ、ブライトは小さく溜め息を吐く。
「頼りないかもしれんが…少しは俺を頼れよ」


 翌日、アムロの病室を訪れたブライトは、空になったベッドに驚き病室を飛び出した。
医務室内を探し回り、集中治療室内で立ち尽くすアムロを見つけた。
「こんな所に居たのか…まだ安静にしていないとダメだろう?」
ゆっくりとアムロの側に寄り、その視線の先を同じように見つめる。
そこには処置を終えたものの、未だ意識の戻らないジョルジョが眠っていた。
バイタルを示すモニターはどうにか彼の生存を伝えているが、血圧や心拍は弱く、決して助かったとは言えない状況だ。

「ジョルジョは大丈夫なのか?」
不安気にジョルジョを見つめるアムロに、ブライトが冷静に答える。
「まだ予断を許さない状況らしい、意識が戻れば希望はあるらしいが…銃弾を5発受けていて、数発は内蔵を傷付けていた。出血もかなりあったからな…」
「…ジョルジョ…」
祈るようにアムロがその名を呼ぶ。
「彼はジョルジョというのか?」
「うん…ジョルジョ・ミゲル」
アムロはコクリと頷き、再びジョルジョを見つめる。
「アムロ、心配なのは分かるがお前も重傷なんだぞ。それに身体を冷やすとお腹の子にも触る」
その言葉に、アムロは驚いたようにブライトに振り返る。
「え?お腹の子?」
「ああ、お前妊娠してるんだろ?」
「え…?」
口元に手を当て茫然とするアムロに、ブライトが驚く。
「まさかお前…気付いてなかったのか?」
「だって…あれは嘘だと…シャアもはっきり言わなかったし…」
そう、シャアははっきり言わなかった。
嘘だとも真実だとも。
「まさか…本当だったのか…」
ガクリと身体から力が抜け、壁にもたれる。
「アムロ!」
そんなアムロを支え、ブライトはゆっくりと椅子に座らせる。
「大丈夫か?」
「……」
何も答えられず茫然とするアムロに、ブライトが優しく問い質す。
「アムロ、お前に何があった?お腹の子は…彼の子なのか?」
ブライトがジョルジョに視線を向けながら問う。
その問いに、アムロは戸惑いながらも小さく首を横に振る。
「…違う…」
「…違う?それじゃ…誰の?」
「…ア…」
「ん?」
「…多分……シャアの…」
「シャア⁉︎」
驚くブライトを、アムロが不安気に見上げる。
「ブライト…どうしよう…まさか子供が出来るなんて…」
ガタガタと震えるアムロをブライトが慌てて抱き締める。
「アムロ!すまん、落ち着け」
「ブライト…」
暖かいその腕の中で、必死に呼吸を整えて身体の震えを抑える。そして、漸く少し落ち着いてきたアムロは、ポツリポツリと今までの事を語り始めた。
ブライトはアムロの肩を抱き、安心させる様に摩りながらそれを聞く。
全てを話し終わったところで、アムロが大きく息を吐く。
「アムロ?」
「ごめん…結局私は何の役にも立たなくて…」
「そんな事はないだろう?お前がいるからこそシャアは隕石落としを思い留まっている」
「でも…5thルナは止められなかった」
「シャアにそこまでさせたのは連邦のお偉方の責任だ」
ブライトとて、かつて共に戦ったクワトロ・バジーナ大尉の事はよく知っている。
彼は根っからの軍人ではあるが、冷たい人間ではなかった。だからこそ、敵だったにも拘らず共に戦えたのだ。
そして、現在のあの男が当時とは全く変わってしまったとは思えない。スペースノイドの行く末を憂い、連邦からの圧政から解放したいと思うからこそネオ・ジオンを立ち上げたのだろう。
決して独裁者になる為ではないと思っている。
しかしながら、シャア本人はそう思っていても、周りの人間もそうとは限らない。
アクシズを落とし、地球を寒冷化させる事で、ネオ・ジオンの力を見せつけて、人類を掌握しようと目論んでいる者もいるかもしれない。
その者達からすれば、アムロの存在は疎ましいものだろう。ましてやシャアの子供を身篭っているとなれば…
そこまで考えて、ブライトは嫌な予感を覚える。
『まさか、アムロの暗殺を企てたのは…』
アムロに想いを寄せるジョルジョ中尉を唆し、シャアの元から連れ出させたのではないか?
そして眠らせて抵抗できないアムロを…。
おまけにこのタイミング。
その罪を連邦に着せて、戦争を始めるつもりかもしれない。
 ブライトは腕の中のアムロを見つめ、複雑な表情を浮かべる。
戦争を回避する為にはアムロをシャアの元に返し、無事を知らせるべきだ。
しかし、そこはアムロの命を狙う者たちが居る場所だ。
もしかしたら、ジョルジョ中尉はそんな場所からアムロを連れ出し、守ろうとしていたのかもしれない。
 腹の子はシャアの子だとしても、アムロがシャアではなく、この青年を愛しているのならば、このまま二人を逃してやる方が幸せかもしれない。
ブライトは、戸惑いながらもアムロの気持ちを確認する。
「アムロ、お前はこのジョルジョ中尉を…好きなのか?…その…シャアよりも…」
「え?」
ブライトの問いに、アムロは少し驚きながらも自分の気持ちを答えようと口を開く。
しかし、横で苦しむジョルジョを見つめ、答えに詰まる。
こんな怪我まで負って、命懸けで自分を守ってくれたジョルジョよりもシャアを選ぶ事など出来ない。ましてや、何度も身体を重ねた相手だ。
しかし、自分は気付いてしまった。
心が、ジョルジョよりもシャアを求めてしまっている事を。
「私…は……」
答えられずにいるアムロに、ブライトはアムロの本心を察する。
「……シャアなんだな…」
「違っ!」
「違うのか?」
「…や……だから…それは…」
答えられずに俯くアムロに、ブライトが小さく溜め息を吐く。
「アムロ、自分の心を偽るな」
「……」
黙り込んでしまったアムロの頭を優しくクシャリと撫でる。
「答えを偽ったまま前に進めば、お前だけでなく、周りの人間も傷付く」
「ブライト…」
ブライトは椅子に座り直し、遠くを見つめる。
「ミライも…多分まだスレッガー中尉の事が忘れられない」
「え、ミライさん?」
「お前も知ってただろう?ミライがスレッガー中尉を好きだったって…」
「あ…うん…」
あの日、スレッガー中尉の戦死をミライに告げた時、あんなに感情的になるミライを初めて見た。
いつも周りに気を配り、冷静に状況を判断して皆んなを、ブライトを導いていたミライの剥き出しの感情。
あんな風に泣く人だとは思わなかった。
それほどまでに彼に惹かれていたのだろう。
「今でもな、俺なんかと結婚してよかったのかと思うんだ…」
「そんな!ミライさんはブライトの事…」
作品名:miss you 7 作家名:koyuho