miss you 7
「ああ、分かってる。俺を愛してくれている。けどな、もしも彼が生きていたら俺なんか相手にされなかったんだろうなと思う…」
「ブライト…」
「今でもな、彼から貰った…いや、預かった指輪を大切に持ってるんだ」
ブライトは少し悲しげな表情を浮かべてアムロを見つめる。
「もしも彼が生きていて…何らかの事情でミライと彼が結ばれる事なく、俺と結婚したとしたら…きっと俺は一生心の中にモヤモヤしたものを抱えて生きていくんだと思う。そしてそんな俺の想いを見透かしたミライとは心がすれ違ってしまっていたかもしれない」
「そんな…」
「お前もおそらく彼に対して、それなりに好意を抱いているんだろう?」
ブライトの問いに、アムロは少し逡巡した後、コクリと頷く。
「…初めてだったんだ…あんな風に包み込むような温もりや…優しさを貰ったのは…」
アムロはそっと眠るジョルジョの手を握る。
「ジョルジョは、ニュータイプとしてじゃなく…ただのアムロ・レイとしての私を好きになってくれた」
「そうか…」
「私も…そんなジョルジョに惹かれていた…」
初対面で身体を許してしまうくらいに…。
「暫く監禁状態だった時も…ジョルジョがずっとそばにいて支えてくれたから耐えられた。その腕の中が安心できて…心地良くて…初めて護られてるって思えた」
幼い頃に母親と別れ、仕事にしか関心の無かった父親からは満足な愛情を得られなかった。
多分、自分が思っている以上に愛情に飢えていたのだと思う。
そんな自分を愛し、包み込み、安らぎを与えてくれたジョルジョに惹かれない訳がない。
「でも…シャアと再会して…その激しい想いを向けられて…あっという間に飲み込まれてしまった…」
ジョルジョの与えてくれる安らぎを吹き飛ばすほどの存在感、そして激しい想いをぶつけられた。
そして自分もまた、シャアに対して激しい感情を抱いてしまった。
アムロはシャアとの再会を振り返る。
クワトロ・バジーナだった時とは変わってしまったシャア。
初めは愛とか恋とかそんな生優しい感情ではなかった。
怒り、悲しみ、悔しさそんな負の感情ばかりだった。スペースノイドの自治権獲得の為とは言え、地球に隕石を落とすと言った男に、驚きと怒りを感じた。そして無理矢理抱かれて恐怖を感じた。
しかし、彼の優しさにも触れ、そして内側に触れてしまった時、彼の抱える哀しみと決意、そして自分を求める想いが伝わってきて心が揺らいだ。
シャアを守りたいと…支えたいと思ってしまった。
ジョルジョに守られたいと思っていたのに、シャアを守りたいと思ってしまった。
それ程までに、シャアの心は純粋で繊細で…脆かった。
気付けば、その純粋な心にどんどんと惹かれていき、もう自分を止める事が出来なかった。
「私もジョルジョに、同じだけの愛を返せれば良かったのに…結局…気付いたらシャアに惹かれてしまっていた…あの人の手を…振り払えなかった…」
「アムロ…」
「でも、まさか子供が出来るなんて…過去の人体実験の影響で、子供は無理だって言われていたから…」
アムロはそっと自身のお腹に触れる。
諦めていた子供ができた事、それもシャアの子供が出来たことに喜びは感じる。
しかし、自分に想いを寄せてくれているジョルジョの事や、シャアに想いを寄せるナナイの事、そして、ネオ・ジオンでの自分の立場を思えば素直に喜ぶ事は出来なかった。
ネオ・ジオン内ではまだ自分に対して負の感情を持つ者がいる事を知っている。
シャアの公務に伴われるようになって、更にその感情が大きくなっていった事も感じていた。
「まさか…今回の事はネオ・ジオン内の…」
あの時、おそらくジョルジョに睡眠薬を飲まされた。そして気付いた時には撃たれていた。
撃たれた時、誰かの声が聞こえなかったか?あれは…誰の声だった?
「戻らないと…」
アムロがギュッと拳を握り締める。
「折角停戦条約を結んだのに、もし今回の事件がネオ・ジオンの者の手によるものだとしても、連邦に濡れ衣を着せて、シャアにアクシズ落としを実行させてしまうかもしれない…!それだけは止めなければ!」
「落ち着け、まだ犯人がネオ・ジオンの人間だと決まった訳じゃない。連邦にもお前を暗殺する動機は充分にある。とりあえず、シャアにだけ秘密裏にお前の無事を知らせれれば良いんだが…」
「あっ!私の着ていた制服の襟に発信器が付いていた筈だ、それで通信も出来るかもしれない!」
「発信器?いや、それらしい物は無かった気がするが制服を持ってこさせよう」
「頼む!」
届けられた血だらけの制服を広げてみるが、襟元にあった筈の通信機は見当たらなかった。
「無い…あの時に落ちたのか?」
それとも、事前にジョルジョによって外されていたのかもしれない。
今回の事件には、おそらくジョルジョも無関係では無い…。
「どうしよう…」
「落ち着け、シャアもバカじゃない。おそらく事件の真相を探っている筈だ。もしかしたらあっちから接触してくるかもしれん」
「そうだけど…」
「とにかくお前は少し休め、顔色が悪いぞ」
アムロのフラつく身体を支え、ブライトが優しく頭を撫でる。
「…そんな場合じゃ…」
「大丈夫だ、第一今日明日でアクシズ落としなんて大掛かりな事出来る筈ないだろう?とにかく今は休め!お腹の子に何かあったらどうする!俺もなんとか手段を考えてみる!少しは俺を頼れ!」
「…ブライト…」
その言葉に、自分は一人ではないののだと実感させられる。
心強い味方がいるのだと…。
「うん…分かった…ありがとう」
ブライトはアムロを病室に戻すと、再びジョルジョの元を訪れた。
そして、ジョルジョに視線を向ける。
「…気付いているのでしょう?ジョルジョ・ミゲル中尉」
ブライトの問い掛けに、眠っている筈のジョルジョがゆっくりと瞳を開いた。
to be continued.
終わりませんでした!
次回!次回!…多分。
作品名:miss you 7 作家名:koyuho