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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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アメリカで布を被った男達が十字架を焼いていたのと同じ時刻、東南アジア・マレー半島の先に浮かぶシンガポール島は昼だった。地球は丸く、時差というものがあるためである。

二月というのに太陽は天の高くにあり、灼熱の光を地に投げかけていた。地球は丸く、シンガポールは赤道のすぐ近くにあるからである。

海岸に銃声が響いていた。トラックで連れてこられた人間を堤に並べて、機関銃で撃つ。あるいは銃剣で刺し殺す。死体を海に投げ捨てて、次の者達を並べ立たせる。

それがえんえんと続いていた。死体の首を斬り落として、台に並べて写真を撮る者もいた。海は真っ赤に染まっており、見渡す限り何千という死体が浮かぶ。

それを眺めてニンマリと笑う者がいた。笑いながらも、

「どうした。まだまだこんなものではないはずだぞ。何をグズグズしているんだ!」刀を振って怒鳴り上げる。「もっとどんどん連れてこい。もっと、もっとだ!」

日本語だった。その男に対して、『なぜ』、とやはり日本語で言葉を返す者もいた。なぜです。なぜこんなことをやらなければいけないんです。違う。オレ達はこんなことをしに来たんじゃないはずだ。これは〈彼ら〉の思いを裏切る行為だ。〈やつら〉と同じに裏切る行為――。

「やかましい! これが陛下の御軫念(ごしんねん)だ。ガタガタ言うやつは憲兵だろうと叩っ斬るぞ!」

男は言った。その名前は辻政信。血みどろの海を背にして怯える兵士達を見る。

「いいか、この島の人口が半分になるまでやるんだ!」

叫んだ。全身に血を浴びて、直上からの日射しでそれが乾く間もなくまた血を浴びる。そうしてもはや赤黒い錆の塊のようになった姿で、血塗りの軍刀をかざして叫ぶ。

「足りん! これでは、全然足りん!」