miss you 8
「私は大した事ない!それよりもジョルジョの方が!大丈夫か?痛みは?ドクターを直ぐ呼ぶから」
立ち上がってナースコールを押そうとするアムロの手を、ジョルジョが握って引き留める。
「待っ…て…」
まだ力が入らないであろう手で必死にアムロの手を掴み、切なげに自分を見上げるジョルジョの瞳に動きを止める。
「ジョルジョ?」
アムロはジョルジョへと向き直り、椅子へと座り直す。
「アムロ…ごめん…僕の所為で…君を危険に晒してしまった…」
ジョルジョは震える手でアムロの手をギュッと握る。
「ジョルジョ…どうしてあんな事…」
あの時、ジョルジョはアムロを薬で眠らせ、何処かへ連れ出そうとした。
おそらくシャアもナナイも関わってはいない、彼の独断行動だっただろう。
アムロの問いに、ジョルジョは少し目を伏せ、唇を噛み締める。
そして、息を吐き、意を決したようにアムロを見上げる。
「…君を…大佐に渡したくなかった…。君を僕のものにしたかった…」
「ジョルジョ…」
ジョルジョの言葉に、アムロが辛そうな表情を浮かべる。
「ホルスト参謀は…君の存在を疎んじていた…君を…排除したがっていた…」
「うん…」
「君の…暗殺すらも考えていたんだ…」
「暗殺…」
その単語に、アムロがビクリと身体を震わせる。
「だから…僕から参謀に話を持ち掛けた…。君がスウィート・ウォーターから出るあの会談のタイミングで…君を連れてネオ・ジオンを去るから…暗殺は思い留めて欲しいと…」
スウィート・ウォーター内では、アムロは殆どの時間をシャアと過ごす為、自ずと厳重な警護を受ける。それにシャアの目が光るスウィート・ウォーターを出航する事など到底不可能だった。
だからこそ、アムロがスウィート・ウォーターを出るこのタイミングは絶好のチャンスだった。何より、直前にナナイから聞かされたアムロの妊娠の事実は、ジョルジョにこの決断を下すトリガーとなった。
「あのまま…君が大佐の子を産めば…もう絶対に僕の手が届く事は無いと思った。…だから、君を攫って、どこか果てのコロニーでひっそり暮らせたらなんて…馬鹿な夢を見た…」
「ジョルジョ…」
「ごめん…僕の…エゴで君を危険な目に…」
「そんな事…!私が悪いんだ!私がジョルジョに甘えていたから…!シャアに流されてるくせに…ジョルジョの優しさにも縋っていたから!」
互いに手を握り合い、己の罪を告白する。
人が人を想う心、愛する心。
アムロ、ジョルジョ、シャア、ナナイ、誰が悪い訳でも無い。ただ、それぞれの想いが上手く噛み合わなかっただけ。
二人はその想いを胸に抱え、涙を流す。
「アムロ…少しは僕の事…好きになってくれていた?」
「好きだよ!ジョルジョの事は大好きだ!」
アムロのその言葉に、ジョルジョが小さく笑みを浮かべる。
「そうか…でも…大佐の事はもっと好き…?」
「……っ」
ジョルジョの問いに、アムロは言葉を詰まらせる。
「ごめん…嫌な質問だね。本当は初めから分かっていたんだ。アムロが大佐に惹かれている事は…それに、大佐がアムロを求めている事も」
「ジョルジョ…」
「互いの立場や思想の違いから反発し合っていたけど…二人とも心の中では互いを求め合ってただろう?」
おそらく、初めは互いに自分の想いを自覚していなかっただろう。けれど、傍で二人を見ていた自分は気付いてしまった。
二人が相手を常に目で追っている事に。
その視線が、熱を帯びている事に…。
ジョルジョは痛みに顔を顰めながらも、ゆっくりと手を伸ばし、アムロの頬に触れる。
「分かっていたけど…君を諦めきれなかった…」
「ジョルジョ…」
ジョルジョのその手を、アムロが上から包み込む。
「アムロ、君を心から愛してる…」
「ジョルジョ…!」
アムロの琥珀色の瞳から、ポロポロと涙が零れる。
「ジョルジョ…私…」
そんなアムロに、ジョルジョは少し哀しげに、けれど、優しく微笑む。
「君も…大佐に、その想いを伝えておいで…。そして、大佐の想いを確かめるんだ。そうしないと、僕も先に進めないから…」
掌から伝わるジョルジョの優しい想いに、アムロはただ頷き、涙を流す事しか出来なかった。
今まで、こんな風に暖かい心で自分を愛してくれる人がいただろうか。
この人を同じだけの想いで愛する事が出来れば良かったのに…。
けれど、自分の心はあの赤い男に捕まってしまった。強く、激しく、それでいて脆いあの男に…。
「さぁ、もう行くんだ、アムロ。君は君の成すべき事をしなくては。きっと大佐も待っているから」
ジョルジョはそっとアムロの頬のから手を離し、真っすぐにアムロを見つめる。
そんなジョルジョの翡翠色の瞳を見つめ返し、コクリと頷く。
「ありがとう…ジョルジョ。行ってくる!」
「ああ」
アムロは立ち上がると、もう一度ジョルジョを見つめ返し、その場を後にした。
残されたジョルジョは、小さく溜め息を吐いて今までアムロに触れていた掌を見つめる。
「もう…こんな風に君に触れる事は出来ないんだろうな…」
目を閉じたジョルジョの瞳からは、いく筋もの涙が零れ落ちた…。
to be continued.
すみません。次こそラスト!
作品名:miss you 8 作家名:koyuho