miss you 8
ブライトがアムロに問い掛けた瞬間、オペレーターの悲痛な声が響き渡る。
「核ミサイル…全弾撃ち落とされました!」
「何⁉︎五発全部だと⁉︎間違いないのか?」
ブライトはモニターに向けて顔を上げる。
「…はい…間違いありません!」
オペレーターがもう一度確認するが、やはり核ミサイルはアクシズに辿り着く前に消滅していた。
ブライト達の祈りも虚しく、頼みの綱であった核ミサイルでの爆破は失敗に終わったのだ。
「クソっ!」
ブライトは拳をキャプテンシートに叩きつけて叫ぶ。
「ブライト、こうなれば内部爆破しかない」
アムロはブライトを気遣いながらも、次の作戦への移行を進言する。
「そうだな…、十分後ブリーフィングを開く。準備をしてくれ」
「了解」
ブリーフィングルームへと移動するアムロの後ろ姿を見つめ、ブライトは小さく溜め息を吐く。
「やはり、そう簡単にはいかんか」
十分後、アクシズの内部爆破作戦についてのブリーフィングが開かれた。
アクシズ内部の立面図を表示させ、アムロが坑道に付けたチェックポイントについて説明する。
「このポイントは配管の合流点や内部の接続部分になる。ここに爆弾を仕掛ければアクシズは確実に半分に割れる。時限爆弾をセットして撤収するまでのタイムリミットは二十分。ラー・カイラムがアクシズに取り付いて離脱するギリギリの時間だ」
この間、ラー・カイラムはこの敵の砲撃を受ける事になる。
爆弾を仕掛ける部隊も命懸けだが、ラー・カイラムにもかなりの危険が伴う。
「ケーラ中尉率いるモビルスーツ隊はラー・カイラムの援護を」
「了解です。アムロ大尉」
ケーラが敬礼をして答える。
「頼む、ケーラ中尉」
アムロもコクリと頷きそれに答える。
「ブライト、私も出て爆破部隊の護衛に入る」
「は⁉︎その怪我で何を言ってるんだ」
「ここにじっとしてたって命の危険がある事に変わりは無い、それなら少しでもみんなが生き残れる事をするべきだろう?これに失敗したら私達だけじゃなく、地球にいる何億という命が奪われるんだ」
「アムロ…」
アムロの、覚悟を決めたその瞳にブライトは息を飲む。
そして、大きな溜め息を吐く。
「ったく!お前は昔っから俺のいう事なんて聞きゃしない!勝手にしろ!」
「ブライト!」
「だが約束しろ、無駄死にはするな!」
真っ直ぐに告げるブライトに、アムロがコクリと頷く。
「分かった」
そして、ブライトとアムロはブリーフィングルームに集まったクルー達へと視線を向け姿勢を正す。
「命懸けの作戦となる。すまんがみんなの命を俺にくれ!」
ブライトの覚悟を決めた言葉に、全員が敬礼で返す。
言葉は無くとも、クルー全員の心は一つだった。何があってもこの作戦を成功させ、地球を守る。その想いだけで戦場へと身を投じる。
「よし!全員配置に付け!」
「了解!」
クルー達が出て行き、最後に残ったブライトとアムロは顔を見合わせる。
「結局、俺はまたお前に頼ってしまうな…」
「何言ってるんだ。今回の事は私の責任だ」
「お前がシャアの元に行かなきゃ、もっと早い段階でアクシズ落としが決行されていただろう」
「それはそうかもしれないが…」
「シャアは…武力でなく、話し合いでの独立を目指す様になってくれたんだろう?」
「…そう…言ってくれた。でも、連邦の出方によっては武力行使も致し方が無いとも思っている」
「…だろうな。連邦の上がまともな人間ばかりなら良いが、そうでは無いからな。シャアの考えも理解出来る」
「ああ…」
アムロは頷き、ブライトへと視線を向ける。
「ブライト、シャアは…どう出ると思う?あの男がクーデターが起きたとして、大人しくこの状況を見ているだけとは思えない」
「…ああ」
「それに…この状況…どこか腑に落ちない」
「アムロ?」
「会談でのシャアの発言は、ネオ・ジオン内の反乱分子の炙り出しが目的だったんじゃないか?」
「何を…」
「多少想定外があったかもしれないが…私がここにいる状況もシャアの思惑通りなんじゃ…」
アムロの視線を受け、ブライトが少し動揺する。
「アムロ…何が言いたい?」
「シャアと何かしらのやり取りがあったんだろう?ブライト、どうなんだ?」
その真剣な瞳に、ブライトが諦めた様に小さく溜め息を吐く。
「…まぁな」
ブライトの答えに、アムロは「やっぱり」と言う表情を浮かべる。
「それで、シャアはなんて言ってたんだ?あの人は何をする気なんだ?」
問い詰めるアムロに、ブライトは参ったと両手を挙げる。
「正直、俺もそんなに詳しくは知らない。ただ、お前を保護して欲しいと言われただけだ」
「いつ?」
「…お前を保護して少ししてからだ」
「……」
アムロは口元に手を当て少し考えると、小さく息を吐いて拳を握り締める。
「シャアの奴…」
「アムロ?」
「分かった。とにかく、今はアクシズを半分に割る作戦を成功させるしかない。恐らくこれもシャアの計画の一つだ」
「かもな。とにかく、俺たちは俺たちのすべき事をするぞ!」
ブライトとアムロは向かい合い、拳を突き合わせると、互いに背を向けそれぞれの持ち場へと向かった。
◇◇◇
その頃、レウルーラではなんとかアクシズへの核攻撃は阻止できたものの、進まぬ戦況に焦りが出てきた。
「ホルスト、このままでは地球から連邦の援軍が合流したら劣勢になるぞ、ロンド・ベルも核ミサイルが失敗したからと言って引き下がりはしないだろう。何か仕掛けてくる」
余裕の笑みを浮かべ、シートに肘をついたシャアがホルストに告げる。
「分かっております!」
その状況を、ライルはただ、不安気に見つめる事しか出来なかった。
◇
「アクシズの爆破部隊の準備が整いました!」
ラー・カイラムの艦橋では作戦に向けてクルー達が慌しく動き回る。
「よし!ラー・カイラムをアクシズに横付けするぞ!援護のモビルスーツ隊出撃!」
ブライトが右手を挙げ指示を飛ばす。
その頃、ノーマルスーツに着替えたアムロは、ジョルジョの元を訪れていた。
椅子に座るとグローブを外し、ジョルジョの手を両手で包み込む様に握る。
「ジョルジョ、ごめんね。少し傍を離れるよ」
ジョルジョの少し冷たい掌を温める様に優しく撫でる。
「ジョルジョが守ってくれたこの命を無駄にはしない。何より…今は私一人の命じゃないから…」
アムロはそっとお腹に触れる。
「ごめん…ジョルジョと一緒に生きたいって思った事があるのは本当だよ…きっとこの子にとっても、ジョルジョとの方が幸せなんだと思う。…でも、私…馬鹿だから…」
薄っすらと涙を浮かべて微笑む。
「自分の…成すべき事をするよ」
そんなアムロの手を、握っていたジョルジョの指が握り返す。
「え…?ジョルジョ⁉︎」
アムロがジョルジョの顔を覗き込めば、ジョルジョの目蓋がフルリと震え、ゆっくりと翡翠色の瞳が姿を現す。
「ジョルジョ!」
ジョルジョは何度か瞬きを繰り返し、アムロへと視線を向ける。
「アム…ロ」
「ジョルジョ!」
自分の手をギュッと握り、心配気に見下ろしてくる愛しい人の姿に、ジョルジョは目を細める。
「アムロ…大丈…夫か?」
自分自身重傷を負っているにも拘らず、庇いきれずに怪我を負ったであろうアムロの身を案じる。
作品名:miss you 8 作家名:koyuho