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BYAKUYA-the Withered Lilac-4

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Chapter10 紅騎士、業火の戦い


 ビャクヤとツクヨミは、日々『夜』へと踏み込んでいた。
 二人の行く手を阻む虚無や『偽誕者(インヴァース)』は、ビャクヤの鉤爪の餌食とし、二人は『夜』の奥、更に奥へと進んでいた。
 彼らは、闇雲に『夜』を歩んでいたわけではない。
 ツクヨミの指導の元、ビャクヤは彼女の護衛、そして顕現を喰らうために突き進んでいたのだった。
 ツクヨミの全ての目的は、彼女のかつての親友であるゾハルを見つけ出すこと。
 そして顕現求めて暴走するゾハルの『器』を割る。これがツクヨミの、己が身を賭してでも危険な『夜』へ赴く理由であった。
 そして、奴隷とその主人といった関係の姉弟は、今宵もまた『夜』へと来ていた。
「いやいや。これはこれは……」
 ビャクヤは、辺りの気配を感じ取りながら微笑する。
「素晴らしいね。辺り一帯。旨そうな匂いだ。これはさぞかし楽しめそうだねぇ」
 これから捕食できるであろう顕現に、嬉々とするビャクヤの隣で、ツクヨミは、『器割れ』して鈍くなってしまった感覚をどうにか研ぎ澄まし、辺りの顕現の量を探っていた。
「…………」
 ツクヨミは、ゾハルを探すという最終目標の過程として、また別の目的を持っていた。
 こうして毎日のようにやって来る『夜』は、実は厳密には『虚ろの夜』とは異なるものだった。
 迷い込んだ人間を喰らう虚無が存在し、それらから運良く生き延びた能力者のみが、自ら入り込めるという点においては同じである。しかし、こうした擬似的な『虚ろの夜』と真のそれとは、あるものの存在にて区別される。
 虚無やビャクヤのような『偽誕者』の求めるものは、顕現である。それは、普通の人間は一切持ち合わせないものであり、虚無と『偽誕者』のみが持つ力の源である。
 そうした性質であるために、虚無は共食いを辞さず、虚無同士で顕現を奪い合うのである。人間を襲うのは、顕現という食事にありつく事が保証されていないために、人間の肉を喰らう事で飢えを一時的にしのぐためなのだ。
 共食いまでなされているが、『夜』に虚無が消え失せることは有り得ない。というのも、『虚ろの夜』には、辺りを強い顕現で満たし、時として人さえも虚無に変えてしまうことのある、顕現の奔流たるものが存在しているためだった。
 能力者の中でも、とりわけ『虚ろの夜』に精通した者しか知らないが、そうした者たちにはその奔流をこう呼んでいた。『深淵』と。
 その『深淵』とは、『虚ろの夜』の中核をなすものでもあるが、大々的に存在するものではない。
 無作為に、『虚ろの夜』のある一点にのみ出現するもので、見た目の大きさは、大人が一人両手を広げた位しかない。
 しかし、この人一人ぶんほどしかないオブジェのような物体には、『虚ろの夜』を発生させられるだけの顕現が、無尽蔵に存在するのだ。
 そして、その『深淵』から放出される顕現は恐ろしいほどの量である。
 強い上に、多大なる顕現を帯びているために、顕現の扱いに慣れていない『偽誕者』が無闇に近付くと、虚無にされることがある。『偽誕者』の間ではこの事故を『虚無落ち』と呼ばれ、実際に落ちた人間も存在する。
 こうした経緯から虚無が生まれる事もあるが、虚無とは基本的に、『深淵』から溢れる強い顕現が生き物のようになって出現する場合がほとんどである。故に、『深淵』が『虚ろの夜』を作り出し、虚無を生み出すという、全ての根源と言える。
 人間や『偽誕者』にとっては危険の塊である『深淵』であるが、それは同時に、『偽誕者』へ更なる進化を与えうるものでもあった。
 この『夜』や『虚ろの夜』を創造するほどの強い顕現を宿す『深淵』の顕現を受容はしうるだけの『器』があれば、『偽誕者』は圧倒的な力を持つ存在へと至るのである。
 当然の事ながら、虚無にとっては『深淵』の顕現は、自身の力を遥かに高められる最高のご馳走となる。
 進化を求める『偽誕者』、そして極上の食事を求める虚無それぞれが『深淵』を目指して『虚ろの夜』を進んでいく。
 もしも彼女も進化を求めているのなら、必ずや『深淵』に姿を見せるであろう。
 ゾハルと再び会うための近道となるのは、『虚ろの夜』の『深淵』を見つけ、そこで待ち受けること。これしかなかった。
 しかし、今宵もまた、『深淵』の現れる『虚ろの夜』ではない。たが、このような突発的な『夜』であっても、『深淵』ほどでないにしろ、それのようなものは存在する。
「……ビャクヤ、ここは違うわ。場所を変えましょう」
 ツクヨミは、だいぶ利きにくくなった感覚を研ぎ澄まして、この日の『夜』に出現している顕現の奔流を探しだしていた。
「えー。もう動いちゃうの? せめて少しくらい食べさせてよ……」
 ビャクヤは口を尖らせる。
「安心なさい。私の言う通りにすれば、嫌になるほど虚無を貪れるわ。大人しく付いてきなさい」
 ツクヨミの願いは、ビャクヤにとって絶対に応じなければならない事だった。
「仕方ないなぁ。本当にご馳走があるんだろうね? 姉さんを疑うわけじゃないけど。腹ペコのまま帰ることになるのだけは勘弁だよ?」
「それは大丈夫、いいから付いてきなさい」
 ツクヨミが歩き出すと、ビャクヤはしぶしぶ後を付いて行った。
 そしてビャクヤは、感嘆することになる。
「これは……!?」
 普段のビャクヤの狩り場は、自宅から程近く、街にも近いため『偽誕者』の数も多い川沿いの広場であった。
 しかし、ツクヨミに引き連れられてやって来たのは、街から反対方向に行った先にある児童公園である。
 公園内は、至るところに虚無が存在していた。大小様々であるが、ビャクヤにとってはご馳走の山であった。
「すごい。すごいよ姉さん! どいつもこいつも旨そうだ!」
 ビャクヤは、はしゃいでいる。
ーーどうやら、ここで合っていたようね。私の勘は、それほど鈍ってはいないということ……ーー
 じっくりと探りに探って見つけ出したこの『夜』の『深淵もどき』であるが、実際にここに来るまで、ツクヨミは自分の感覚に確信が持てなかった。
 しかし、こうして正しい位置へと来られた。ここにいる限り、顕現求める虚無らとビャクヤが戦うことになろう。
 そして、『偽誕者』も姿を見せるだろう。その中に、もしかすると、ゾハルがいる可能性があった。
「ビャクヤ、ちょっと待って」
 ツクヨミは、背中に八本の鉤爪を顕現させ、今にも狩りをしようとしているビャクヤを呼び止める。
「なんだい姉さん? まさか。ここも違うとか言わないよね?」
「そうじゃないわ。相手が虚無だろうがなんだろうと、私を守るために喰らいなさい。けど、あまり満腹になられても困るのよ」
「ああ。それなら大丈夫さ。片っ端から喰いつくしてたら。獲物がいなくなっちゃうだろう? それにさ。腹八分が体にいいって言うじゃないか。まっ。顕現に栄養とかあるのか知らないけどね。あははは……」
「そう、それなら安心したわ」
「もしかして。僕の健康を気遣ってくれてるのかな? あはは。さすがは僕の姉さん。お優しい。あははは……!」
 ビャクヤは、本気なのか冗談なのか、なかなか判断の付かない笑みを見せる。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-4 作家名:綾田宗