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BYAKUYA-the Withered Lilac-4

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「そ、そんなんじゃないわよ。ただ、満腹になりすぎて、いざというとき私を守れないようじゃ困るってだけよ」
 あながち外れているわけではないものの、ツクヨミの言葉は言い逃れをしているかのように聞こえる。
「素直じゃないなぁ。まあいいや。僕は何があっても貴女を守る。安心してよ。姉さん」
 ツクヨミは一瞬ドキリとする。それは二重の理由からだった。
「あっ。姉さん。そこ危ないよ」
 ビャクヤは、鉤爪を一本伸ばし、ツクヨミの背後に迫っていた虚無を仕留めた。
「ちょっとビャクヤ、驚かさないでちょうだい!?」
「しょうがないだろ。これだけ虚無だらけなんだから。さすがの僕でも。姉さんを守りながら戦うのは辛い。とりあえず。安全そうなあの辺に座っててよ」
 ビャクヤは、一口に虚無を捕食し、ツクヨミに避難を促した。
「……そうさせてもらうわ。ビャクヤ、さっき言ったこと、くれぐれも忘れないようにね」
「分かってるって。ほら。早く行った行った」
 空腹で気が立っているのか、ビャクヤは、犬や猫を追い払うように、ツクヨミに手を振った。
「まったく……あとはお願いね、ビャクヤ」
 ツクヨミは、そそくさとその場から離れた。そしてブランコの前の柵に腰掛ける。
「任せてよ。姉さん……さて。料理の時間だね……!」
 ビャクヤは両手を広げる。そして、顕現を喰らう糸を手に纏い空中に向けて放った。
「この辺に……ここにも……」
 ビャクヤの手から放たれた糸は、一瞬にして蜘蛛の巣の形となり、街灯を反射していかにも鋭いものらしく光る。
 糸は、空中を漂う虚無、地を練り歩く虚無どちらにも巻き付き、拘束する。
「いっぱい引っ掛かったね。さて。どう料理しよう?」
 ビャクヤは、糸に絡めた虚無に向けて、八裂の八脚(プレデター)を振るう。
 八本の鉤爪は、ビャクヤの身の丈をも超える長さにまで伸縮し、鞭のようなしなりを持ちつつ、虚無の群れを切り刻んでいった。
「ハハハハ! みんな切り刻んであげるね!」
 ビャクヤは、高笑いを上げて虚無を細かく刻むと、再び糸に一纏めにし、口元へとそれらを近付けていった。
「うん。どいつもこいつも旨い。最高の食材だ。さすがは姉さん。いい所に案内してくれる」
 ビャクヤは、捕らえて切り刻んだ虚無を次々に喰らう。
 ツクヨミは、ビャクヤの戦い、もとい捕食の様子を見ながら、虚無が一匹空を飛んで行くのを見つけた。
 真っ黒な鳥のような姿をした虚無であり、さながらカラスが飛んでいるかのようだった。
 そんな虚無が、この公園の中心付近にある遊具、回旋塔の天辺に止まった。そして虚無は、青白い光を帯び始めた。
ーーあそこが今日の『夜』の『深淵』にあたる場所……ーー
 ツクヨミは、改めて自分の予測が当たっていた事を実感する。完全一致とまではいかないにしても、これだけ距離が近ければ、『器』の割れている状態においても十分たりえる結果であろう。
 回旋塔の上で光に包まれた虚無は、その体を増大させた。『深淵もどき』の顕現を吸ったために巨大化したのである。
 あの程度の虚無に喰い尽くされるような事はないだが、『深淵もどき』が消えれば今日の『夜』は終わる。そうなってはツクヨミの計画が頓挫してしまう。
「ビャクヤ!」
 ツクヨミは、群がる虚無を料理し、捕食するビャクヤに呼びかける。
「なーに。姉さん?」
「あれを見てちょうだい」
「あれって……」
 ビャクヤは、糸でぐるぐる巻きにした虚無を放り、ツクヨミの元へ寄った。
 そしてツクヨミが指差すと、ビャクヤはその先に目を向ける。
「なんだい? あれは。虚無が光ってるじゃないか」
「あれこそがこの『夜』の源よ。あの遊具に『深淵』が顕現している。顕現を求める虚無にとっては、あれが顕現の供給元よ」
「ふーん。ということは。やつらにとって格好のエサ場ってことかな。なるほどね。あの辺で張ってれば。動かなくても食事が運ばれてくるってわけか。それは楽でいい。しかも。あそこからはなかなか上質な顕現を感じるね。さながら。真っ赤に熟れた果物の木って所かな?」
 詳しく聞かずとも、ビャクヤはほとんどを理解した。
「察しがいいわね、その通りよ。けれど、『深淵』の顕現を喰らっては駄目よ。あなたはあれに群がる虚無(害虫)を喰らえばいいわ」
 ビャクヤは不服のある顔をする。
「そんなぁ……最高の食事を目の前にちらつかせながら。そりゃないよ。僕にも食べさせてくれたっていいじゃないか」
「それだけはダメ。何を言ったって覆らないわ」
 この『夜』の『深淵』たる顕現の源は、果樹であり、ビャクヤは、それに群がる虚無という害虫を捕食する、蜘蛛、つまり益虫のような扱いであった。
「あなたまで『深淵』に手を出すのなら、その時点であなたも私にとって害になる。仇なすものは何であれ駆除する。つまり、あなたとはお別れよ」
 ビャクヤにとって、ツクヨミとの別れはこの上ない恐怖である。故に黙って従うより他はない。
「はあ……分かったよ。分かりましたとも。お姉様の言うことは聞きますよ。まったく……」
 ビャクヤは、しぶしぶツクヨミの言うことを聞く。
「物わかりがいいわね。それじゃあ、引き続きお願い」
 ツクヨミは微笑む。
「まったく。ずるいよ姉さんは。そんな顔をされちゃあ。従わずにはいられないじゃないか。仕方ない。愛するお姉様ために頑張るとしようかな」
「それでこそ我が弟よ、ビャクヤ……」
 今宵の『深淵』である回旋塔に向かっていくビャクヤを見送りながら、ツクヨミは呟くのだった。
 その後も、ビャクヤの狩りは続いた。
 農作物を蝕む害虫、害獣のごとく『深淵もどき』に集う大小様々な虚無を相手にしながらも、ビャクヤは一匹たりとも逃さずに捕らえ喰らった。
 やがて虚無の数は減り、ビャクヤの腹もだいぶ満たされた。
「ふう……あらかた喰い尽くしたかな。残るのは。あの『深淵』とかいうものだけど。手を出すなって言われてるし。ここらで打ち止めかな?」
 ビャクヤは、背中の鉤爪を消し去った。
「ビャクヤ、まだ気を緩めないで。まだ……」
 ツクヨミは、辺りを見回した。
 顕現を求めて害虫のごとく『深淵』を狙う虚無の群れは、ビャクヤの鉤爪の前に狩り尽くされた。
 あれほどいやな気配だらけだったこの場所が、今や日常となんら変わりない穏やかな公園に戻った。
「……姉さん。もうなんにもいないじゃないか。ここでこれ以上張っててもしょうがないんじゃない? 僕のお腹もだいぶ落ち着いたし。今日はもう帰ろうよ」
「…………」
 ツクヨミは考える。
 ここに、それ以前に、この『夜』に入ってから数時間は経過している。そんな中、ビャクヤは、能力を総動員させて虚無を狩っていた。
 たとえ『深淵』が狙いではないとしても『偽誕者』であれば、一地点で虚無の気配が連続して消えていくのは感じとることができる。
 もしもゾハルがこの近くにおり、『深淵』を目指しているのなら、間違いなく現れているはずだった。
ーーあの子は現れなかった。こんな『深淵もどき』には興味がないのか、それとも、あの時、ビャクヤの力に恐れをなして接触を断とうとしているのか……分からないわねーー
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-4 作家名:綾田宗