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【弱ペダ】(サンプル)星原のロードスター

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「頂上、とーちゃく!」
 息を切らせて道路脇の展望台と思しき場所に自転車を乗り入れる。数客のベンチがあるきりで、手すりすらない崖の上だ。敷かれた砂利がタイヤに踏まれて音を立てた。
「おー!」
 思わず巻島と坂道の二人が同時に感嘆の声を上げた。
 崖縁の向こうに、連山が織り成す緑の襞が続き、真っ青な空が広がっている。頂上の風は涼しくて、汗みずくで熱い身体を冷やして行く。
「凄い! あっ! 山の向こうに海が見えますよ!」
 坂道は大はしゃぎだ。彼の言うとおり、遠くの山の頂上の向こうに、キラキラと太陽を照り返す水面が見えた。
「巻島さんと来られて良かったです」
 そう巻島を見る坂道の笑顔も負けずとキラキラしている。あまりの眩しさにサングラスでもすればよかったと思うくらいだ。

 高校最後のインターハイが終わって、巻島はイギリスに行った。イギリスの大学を出て兄の仕事を手伝うためだ。それから数年経ち、やっとたまに日本へ帰ってくることが出来るようになった。それぞれ少しずつ状況が変わったせいもあるが、坂道と時間が合えば会う事も出来るようになった。そして僅かな日数ではあるが、二人で出かけることも可能になった。
 だから、昔約束した『デート』をしに来たのだ。
 自転車に乗って、泊りがけで山を走る。
 自分たちが一番『らしい』と思えるデートだ。
 今回は秘湯と呼ばれる温泉を目指す。聞けば川の中に温泉が湧いていて、地元の人たちがコツコツと運んだ岩で簡単に囲われ、脱衣所代わりの板づくりの川床があるだけの場所らしい。たまに動物が入っていたりするような、地元の人しか知らない温泉だと言う。そんな秘湯に夜、二人で入れたらさぞ感慨深いだろう。とは言え、川が増水してしまうと入れないので、そこは天候次第、賭けのようなものだが。
 久しぶりの逢瀬は二泊三日で、最終日はそれなりの温泉宿をとっているが、今夜はテントに寝袋だ。それでも二人で山を好きなだけ走れると思うと楽しくて仕方がない。
 坂道はキャンプ自体初めてだと言う。巻島もほぼ同じだ。そしてレースとは違って二人とも荷物を抱えているから、拠点を作るまでは競うことも出来ないが、それでも二人だけでと言う時間は久しぶりで、少々浮かれていると言っても過言ではない。

 今回の計画が何となく決まってから、坂道がネットなどから、今回目当ての「秘湯」と呼ばれる温泉の情報を探してきてくれた。
 今日は地図とネットからの情報を落とした携帯端末を自転車につけて、目的地の山に登ってきたのだ。
「キャンプ場はちょうど向こうの尾根のところですね」
 坂道が地図と見比べながら、頂上の展望台から先に見える山を指した。
「温泉も向こうの山みたいなので」
「ああ、ちょうどいいショ」
 キャンプ場は区画で予約してあるから、チェックイン時間以降に行って、テントなどの準備をすれば充分だろう。
 簡易コンロを持ってきているのと、バーベキューをするつもりがないので火を起こす必要もないから、楽なものだ。昨今人気だという、テントや寝具、バーベキューの道具や食材まで必要なものが全て用意されており、手ぶらで泊まることが出来て、かつホテル並みに快適なサービスを受けて贅沢に過ごせる『魅惑的』な『キャンピング』こと『グランピング』なんてのも、ゆっくり過ごせていいのかもしれない。別の機会に坂道と行ってみたいものだと思う。
 が、まずは二人揃って初めてのツーリングだ。
 食事の用意をする前に周囲の探索を兼ねて、噂の秘湯を探す時間に当ててもいいかも知れない。
「僕もそう考えてました」
 巻島の大まかなプランに、坂道が嬉しそうに言って、急に照れたように、エヘヘ、と笑った。

「うわぁ!」
 坂道が歓声をあげる。
 目当ての、川の中に湧く温泉だ。
 キャンプ場に着いてテントを立ててしまい、秘湯を探しに出た。ほぼほぼ車通りのない山道を二人で走りながら、時々良さそうな坂を二、三度競ったり、眺めの良い場所で休んだりと散策しながらの捜索だが、そう苦労もせず見つけることが出来た。秘湯と噂をされた温泉は、山の端に夕陽が辛うじて引っかかって、その残照に暗い陰影を落とした石が、川の流れを遮るようにゴロゴロと並んでいた。水位がちょっとでも上がればすぐに川の中に没してしまう。それでも、数人程度は入れるほどの大きさだ。
 話で聞いた通り、そのすぐ近くに、脱衣所代わりに簡単に板が数枚敷いてある。
 そのほかには体を洗うところもないし、果たして入って良いのかどうかも、何も書かれていない。
 少し心配になるところではあるが、近づいてみれば、川面から湯気が上がっている。
「ちゃんと入れそうな温泉みたいですね」
「ああ、良い温度ッショ」
 巻島が囲われているあたりの水面に試しに手を入れて、そう言った。
 周りを見渡しても、車通りもなく、人もいない。夕暮れの濃くなる闇の中、木立の中から虫の音と鳥の静かな鳴き声、そして風のかすかな音だけがある。
「入っちゃいますか…」
「入っちまうか」
 二人で同時につぶやいて、顔を見合わせてくすりと笑い合う。
 板敷の脱衣所で手早く服を脱ぐと、懐中電灯とタオル一枚を持って岩場を慎重に渡る。幅の広い川は岩が乱立しており、飛び伝いするのも、歩き易いとも言えない。真っ暗になったら、それこそ足を痛めてしまいそうな場所だ。温泉が湧いている辺りは川底が浅いのか、水位が下がって温泉や岩場のあちこちに水たまりが残っている。ざっと手で掛け湯をして簡単に体を洗うと、坂道と巻島はそっと湯に入った。
 偶然にも丁度いい温度になっていた湯に浸かって、はあ、と思わず深い溜め息が二人の口から漏れた。
「気持ちいいですね……」
「ああ……」
 懐中電灯を消して、いつの間にか暗くなってしまった夜空を二人でぼんやりと見上げる。街灯すらない、月もまだ上っていない真っ暗な空には、びっくりするほどの星が散っていた。星のない空間などほとんどないくらいに空が埋まっている。川面を吹きぬける涼しい風、せせらぎの音。遠くに響く木々が揺れる音。そんな自然の音が意外に大きく感じる。
「普段見えてないだけで、本当はこんなに星が見えるんですね。こんなに凄いの初めて見ました」
 坂道が感嘆の声を上げた。ぼんやりと見ている間にも星がつうと流れて、坂道が「流れ星ですよ、巻島さん!」と興奮してはしゃいだ。完全な暗闇ではないが、それでもまだ月の昇らない宵闇の中では黒の濃淡でしか周りが見えない。それなのに、巻島には何故か温泉の熱で上気した坂道の肌が判るような気がした。
 薄く細い身体をしているが、それでもきちんと自転車に必要な筋肉で覆われている。張り詰めて弾力のある肌がしなやかに動いて巻島を誘惑するようだ。
 岩に囲まれた湯船に並んで浸かりながら、凄い凄い、と夜空を見上げてはしゃぐ坂道をそっと抱き寄せた。
「巻島さん?」