白雪の花
「お加減はいかがですか?」
もうずいぶんと聞き慣れた声が聞こえて、私は無機質な天井から目を移す。
ベッドから少し離れたところにある部屋の入り口に、一人の美しい女性が立っていた。
やや釣り目の大きな瞳。
そして、色白の肌。紅く艶めく唇。
まるで白い雪の上に咲いた花みたい。
「もう退屈で死にそうよ?」
私は冗談めかしてそう返す。彼女の困った顔は可愛いのよね。
「死んじゃったら悲しいから、やめてくださいねぇー。」
彼女は表情を変えず、飄々と私のイジワルに応えた。
「……もぅ。」
ーーー
私がこの病院に入院してからずいぶんと経った。
最初は体調不良。風邪がなかなか治らなくって、不思議に思って受診して。
ああ、そういえば。最初に採血してくれたのはこの子だったわね。
彼女の唇と赤い血が重なり、思い出す。
それから病名を告げられて。ドン底に落とされたような気持ちになって。入院だなんだとドタバタして。気が付いたらこの病室に釘付けになっていた。
ーーー
病院は嫌い。刺激がなんにもなくて、つまらない。起きる時間も検査の時間もぜーんぶ一緒。取り決めらた日常のレールをただなぞるだけ。
こんな所、いるだけで気が狂いそう。
だけどね。
貴方だけが、私の心を埋めてくれる。
彼女の仕草、言葉、笑い声。
彼女だけが、色褪せた世界でただひとつ、鮮やかな色彩を放っている。
今の私の生きる理由。
健屋 花那。
…………。
ねぇ、貴方は気付いてる?
ーーーーーーーー
「快方に向かってるとは言えないなぁ。」
すっかり寒くなった病院の屋上で、私は一人煙草をくゆらせていた。
ここで考えるのは、いつもあの人の事。
黒く長い美しい髪。深い湖のような静かな瞳。優しく包み込むような声。
「ここに来た時よりは、少し明るくなっているんだけどね。」
煙草の根元を舌で転がしながら呟く。
いつも通り、味はしない。
ーーー
病棟に来た時は、目が完全に死んでいた。
おもちゃを全て取り上げられた子供のように、無気力で。生きる理由さえもうどこにもないようで。
そんな彼女を一目見た瞬間、私は言いようのない気持ちに襲われた。
あのままじゃ駄目だ。
あの人を救いたい。私にできることなんか限られているけれど。
それでも。彼女のために。
白雪 巴。
…………。
ねぇ、あなたは知ってる?
もうずいぶんと聞き慣れた声が聞こえて、私は無機質な天井から目を移す。
ベッドから少し離れたところにある部屋の入り口に、一人の美しい女性が立っていた。
やや釣り目の大きな瞳。
そして、色白の肌。紅く艶めく唇。
まるで白い雪の上に咲いた花みたい。
「もう退屈で死にそうよ?」
私は冗談めかしてそう返す。彼女の困った顔は可愛いのよね。
「死んじゃったら悲しいから、やめてくださいねぇー。」
彼女は表情を変えず、飄々と私のイジワルに応えた。
「……もぅ。」
ーーー
私がこの病院に入院してからずいぶんと経った。
最初は体調不良。風邪がなかなか治らなくって、不思議に思って受診して。
ああ、そういえば。最初に採血してくれたのはこの子だったわね。
彼女の唇と赤い血が重なり、思い出す。
それから病名を告げられて。ドン底に落とされたような気持ちになって。入院だなんだとドタバタして。気が付いたらこの病室に釘付けになっていた。
ーーー
病院は嫌い。刺激がなんにもなくて、つまらない。起きる時間も検査の時間もぜーんぶ一緒。取り決めらた日常のレールをただなぞるだけ。
こんな所、いるだけで気が狂いそう。
だけどね。
貴方だけが、私の心を埋めてくれる。
彼女の仕草、言葉、笑い声。
彼女だけが、色褪せた世界でただひとつ、鮮やかな色彩を放っている。
今の私の生きる理由。
健屋 花那。
…………。
ねぇ、貴方は気付いてる?
ーーーーーーーー
「快方に向かってるとは言えないなぁ。」
すっかり寒くなった病院の屋上で、私は一人煙草をくゆらせていた。
ここで考えるのは、いつもあの人の事。
黒く長い美しい髪。深い湖のような静かな瞳。優しく包み込むような声。
「ここに来た時よりは、少し明るくなっているんだけどね。」
煙草の根元を舌で転がしながら呟く。
いつも通り、味はしない。
ーーー
病棟に来た時は、目が完全に死んでいた。
おもちゃを全て取り上げられた子供のように、無気力で。生きる理由さえもうどこにもないようで。
そんな彼女を一目見た瞬間、私は言いようのない気持ちに襲われた。
あのままじゃ駄目だ。
あの人を救いたい。私にできることなんか限られているけれど。
それでも。彼女のために。
白雪 巴。
…………。
ねぇ、あなたは知ってる?