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miss you【番外編 ジョルジョ編】

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miss you【番外編 ジョルジョ編】



 彼女に初めて会ったのは一年戦争が終わって二年程経った頃。場所は妹のナナイが入所していたニュータイプ研究所だった。

 地球連邦軍管轄下の「オーガスタ研究所」此処は一年戦争でアムロ・レイが示したニュータイプという、人類の進化とも呼ばれる能力を持つ者を研究する場所で、戦後に世界中からニュータイプの素養のある者が集められ、様々な研究が行われた。
 自ら志願して入所する者も居たが、多くはあの戦争で戦災孤児となった子供が、半ば無理やり入所させられていた。
孤児たちは保護施設に入る際、簡単な検査を受ける。そこで素養の見られた子供が此処に移送されるのだ。
守るべき親のいない子供にはどうする事も出来ないのが現実で、妹のナナイも此処に入所しなければ兄である自分諸共生活支援を受けられないと言われ、渋々ながらそれに従った。

 週末には必ず妹の元に面会に訪れ、様子を見ると共に何度も妹の退所を申し入れた。
 その日も、妹の面会に訪れて退所の申し入れをしたものの、結局は受け入れて貰えず施設の中庭で頭を抱えていた。
「クソっなんで認められない!僕はもうナナイを養えるのに!」
支援を受けて必死に勉強し、学校も卒業してなんとか仕事にもあり就けた。住む所も出来てようやく妹を引き取れると正式に申請を出したにも関わらず、それは受理すらして貰えなかった。
「こんな所にナナイを置いておけない!直ぐにでも出してやりたいのに!」
多くの子供達が此処に集められ、様々な検査や実験の被験体となる。中には此処ならば飢える事も凍える事もないと自らすすんで入る者もいるが、此処がそんな甘い場所では無い事は薄々気付いていた。
ナナイは自分に心配を掛けまいと何も言わないが、あきらかに精神に異常をきたした子供や、体調を崩す子供がいる。噂では命を落とす子もいると言う。
ナナイも以前の様な屈託のない笑顔をあまり見せなくなってしまった。
「どうにかしてこんな所から出してやらないと…」
そんな事を考えながら頭を抱えていると、目の端に人の足が見えた。
思わずそちらに視線を向ければ、検査着に身を包んだ少年が木陰に寝転がっていた。
少年は青々とした芝生に仰向けに寝転がり、ぼんやりと空を見上げている。
そしてゆっくりと手を空に向かって伸ばした。
袖口から見える手は驚くほど細く、幾つもの注射痕が見えた。
「あの子もここの被験体か…それにしても酷く痩せているな…」
少し伸びた赤茶色の癖の強い髪、空を見つめる瞳は綺麗な琥珀色をしている。
その容貌には見覚えがあった。
「あれ?あれってもしかして戦後にマスコミに取り上げられていたニュータイプの少年なんじゃ…確か名前は…」
暫く見つめていると、こちらに気付いたのか少年が身体を起こして見つめ返してきた。
「何か用?」
「え?あ、いや何でも…その…気持ち良さそうだね」
突然声を掛けられて驚く。
そして、その声が思った以上に高い事にも驚いた。
『男の子…だよな?』
「…そうだね…建物の中にいるよりは気持ち良い…塀の外には出られないけど…」
高くそびえ立つ塀を悲しげに見つめる少年にズキリと胸が痛む。
「外に…出たい?」
「うん…宇宙に…還りたい…」
「宇宙…?」
もう一度空を見上げ、更にその向こうの宇宙へと想いを馳せる少年に思わず見入る。
そして、気が付けば彼の側に歩み寄っていた。
少年はこちらを見つめ小さく微笑む。
「もう行かないと…」
立ち上がろうとする彼に手を差し出せば、少し驚いた表情を浮かべてから、「ありがとう」と微笑み浮かべて手を取ってくれた。
立ち上がったところで彼がフラついたのを支える。
「あっ」
抱き抱える様に支えた彼の身体は本当に華奢で折れてしまいそうだった。
しかし、男の子にしては柔らかな感触と良い匂いに驚く。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとう」
顔を真っ赤にする彼が動揺している事に首を傾げていると、小さな声でボソリと呟く声が聞こえる。
「あの…離して…」
「あ、ごめ…え?」
その時、自分が少年の胸を触っていた事に気づく。妙に柔らかいと思ったその感触は僅かながらもある胸の膨らみ。
「え?あ…!君、もしかして…女の子…?」
僕の言葉に更に顔を赤くする少年に驚き、思わず手を離す。
「あああ、ごめん!」
「別に…いい…」
顔を真っ赤にして俯く少年…いや、少女に庇護欲の様なものが込み上げる。
思わず抱き締めそうになったその時、背後から声が掛かった。
「アムロ・レイ准尉、時間だ」
冷たい男の声に、少女はビクリと肩を震わせて恐る恐る男の方を見つめる。
そして、震える足をゆっくりと動かして男の方へと歩いて行く。
「あの…大丈夫かい?」
思わず声を掛ければ、チラリとこちらを向き、コクリと頷いた。
「うん…ありがとう…」
そう言って小さく微笑むと、少女は男と共に去って行った。
その後ろ姿がどうしようもなく切なくて、心が締め付けられる様に痛んだ。
「……っ!」
何も出来ない自分が酷くもどかしくて、ギュッと胸元を握りしめる。
「あんな子が…ここでどんな目に遭わされているのか…」
ほんの数分の邂逅だったが、彼女との出会いは僕の心に深く刻み込まれた。


 それから数年後、反連邦組織によって被験者となっていた子供たちは解放された。
しかし、彼女の姿は既になく、何処か別の場所に移送された事を知った。

 その後、僕とナナイは色々な経緯を経てネオ・ジオンへと入り、僕はスパイとして連邦軍へと入隊した。そして、同じく連邦軍に潜入していたシャア・アズナブル大佐を補佐する為エゥーゴへと加わり、カラバのメンバーと共に地球で活動していた。
 そしてあの日、僕は再び彼女に出逢った。
輸送機で敵モビルスーツを撃退し、アウドムラの危機を救った彼女は大人へと成長し、僕の前に現れたのだ。
まだ線は細いが、研究所にいた頃よりも随分と健康的になった身体。しかし、その心はかなり不安定で、昔の様にモビルスーツに乗れない自分に苛立っていた。
 聞くところによると、彼女はあの研究所からシャイアン基地に移送され、何年も軟禁状態にあったらしい。
二十四時間監視され、基地の周辺から出る事すら出来ない、そんな生活を何年も余儀なくされれば、心を病んでしまっても仕方がないだろう。
そして何より驚いたのは、彼女が男として振る舞っていた事だ。
確かに大衆は皆、一年戦争の英雄「アムロ・レイ」は男だと思っているから致し方ないかもしれないが、その姿は何処か無理をしている様で痛々しかった。

 しかし、どこか覇気の無い瞳をしていた彼女も、ライバルであったシャア・アズナブルと対峙する時は、その瞳に驚く程の強さを浮かべていた。
 同志として共に戦いながらも、決して心からは相容れない二人はよく衝突していた。
モビルスーツに乗れないアムロを叱責する大佐に対し、悔しさを滲ませた瞳を向ける彼女を大佐は叱責しながらも気遣っていた様に思う。
二人は反発しながらも、いつも瞳で互いを追っていた。
 暫くしてどうにか立ち直り、かつての様にモビルスーツを駆る事が出来る様になった彼女を大佐が嬉しそうに、そして誇らしげに見ていたのを覚えている。