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小説 Wizardry(ウィザードリィ)外伝Ⅱ

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プロローグ




 壁一面が氷で覆われていた。
 氷の彫像と化した、元は異形の者であったろうと思われるものも数体転がっている。
 強烈な冷気が直撃した証拠だった。

 「・・・・駄目か・・・。」

 ローブを纏った男が苦々しくつぶやく。袖から除く手の甲には、幾何学模様の刺青が入っていた。

 次の瞬間、氷の彫像の後方から巨大な影が動き、ローブの男を目掛けて躍り出た。男が気圧されて目を瞑りかけるとほぼ同時に、影の突撃方向に甲冑姿の戦士が立ち塞がる。


 ギィィイィ…ンンンン……!!


 鈍い金属音が鳴り響き、影が突き出した刃を戦士の盾が防いだ。

 「こいつに呪文は効かねえ!俺がやる!!」

 力まかせに盾を払い、刃を逸らせたあと、戦士は右手に握った剣を振り下ろした。

 攻撃を受けつつも影は、微動だにせず、手に持った剣を構え直す。影の伸長は4メートルはあろうか。赤い毛髪と髭をたくわえ、手には大剣と大盾を持ち、口からは炎が漏れている。
 影の正体は、ハルギスの地下迷宮第9層に棲む巨人族、ファイアージャイアントだった。

 「フィル、落ち着いて。敵は1体。全員でかかれば勝てる。ラスタール、奴の動きを止めて。」
 真紅の甲冑に身を包んだ女性戦士が剣を構え、フィルと呼ばれた戦士を窘たしなめた。その剣は僅かに反りがあり、切っ先が斜めに尖っている。刀と呼ばれる東方の武器だ。

 「心得えました。しかし猛凍(ラダルト)をくらっても生きているとは…。この階層の敵は違いますね。」
 口惜しそうに嘆息しながらローブを纏った男、ラスタールは次の呪文の詠唱に入る。

 「分かってるよ、ケイシャ。少し熱くなった。」
 深く息を吸い込み、フィルと呼ばれた男は剣を中段に構えた。その剣は女性戦士のケイシャと同様に片刃であったが、反りが無い。直刀だ。

 数瞬ののち、ファイアージャイアントの身体がゆっくりと動いたかと思うと、フィル目掛けて突進した。フィルが迎え撃とうとした瞬間 ――――― ファイアージャイアントの動きが停止する。その好機を逃さず、ケイシャとフィルの剣がファイアージャイアントに振り下ろされた。

 そのまま、ファイアージャイアントは絶命した。

 「…石化(ロクド)か。助かったよ、ラスタール。」

 剣の血を振り払いながらフィルは礼を言う。
 魔術師系呪文4レベルに属する石化(ロクド)は、相手の神経を麻痺させ、身体機能を石さながらに停止させる。もっとも、効果は術者の力量で大きく左右されるため、確実に動きを止めることが保証されている訳では無い。

 「いえ、呪文抵抗が高い相手だったので効果があるか不安でしたが、1発で効いてくれて助かりました。」

 安堵の笑みを浮かべながらラスタールがそれに応える。

 「それじゃ、俺は宝箱を調べさせてもらうぜ。」

 後方から出てきた皮鎧を見に着けた男が、自分の出番とばかりに玄室の隅に置かれた箱に向かって歩き出した。少年のような背丈だが、声の太さから立派な成年した男だとわかる。

 「気を付けてよ、スイフト。レザリア、さっきのニンジャに少しやられた。大したこと無いけど治療をお願い。」

 ケイシャが右の二の腕の切り傷を見せ、治療を願い出ると、レザリアと呼ばれた鎖帷子を着た女性は無言で頷き、ケイシャに近付く。レザリアが印を結び、詠唱を行なうと、掌中から柔らかい光がケイシャの腕を包む。
 ケイシャに治療が施されている間、スイフトと呼ばれた男は、宝箱の隙間から注意深く中を覗き見た。

 (毒ガスだな。雑な作りだ。作動するかどうかも怪しいもんだぜ。)

 僅かな隙間から仕掛けられた罠を判別したスイフトは心の中で毒づくと、手慣れた手付きで罠を解除した。

 「おっと、大漁大漁っと。随分と金貨が入ってるな。それと、なんだこりゃ、随分と長いな。」

 スイフトは戦利品を取り出して皆に見せた。

 「わからないな。鑑定はボルタックに依頼してみるか。いずれにせよ、これでドルガルを蘇らせることができる。街に戻ろう。」

 フィルが言う。

 「そうね。彼がいれば、また迷宮の探索を本格的に再開できるわ。」

 ケイシャが続き、全員が玄室をあとにした。

 すぐ近くには、街へ帰還するためのエレベーターが設置されていた。