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小説 Wizardry(ウィザードリィ)外伝Ⅱ

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アルマール




 城塞都市アルマール。

 大陸東域に位置し、東方世界との接点であるこの都市は、西方諸国の出城でもあるため、交易都市として発展を遂げてきた。アルマールの領主は代々、交易によって莫大な財を築き、その振舞いは地方都市の領主としては別格だった。

 時の領主ウディーンは聡明で、幼い頃より神童との呼び声高く、15で領主の座に就き、早くから政まつりごとに頭角を現した。蓄積された財を腐らせることなく、都市を発展させることに費やしたのである。都市を横断する街道を整備すると同時に、税を軽減することで、流通を促し、人々の往来を活性化させた。物が行き交い、商売に最適な都市であるという噂が大陸全土を駆け抜け、瞬く間にアルマールは交易都市であるというだけでなく、大陸最大の商業都市となった。

 大陸全土から、あらゆる人、種族がアルマールにやってきた。

 最も数が多い人間族。美しい外見と尖った耳が特徴的で、知力が高いエルフ族。屈強な身体を持ち、戦士としての適性がある者が多く、更に金属製品の加工を得意とするドワーフ族。信仰心が篤く、優れた僧侶を多く輩出してきた森の民であるノーム族。人間の子供のように小柄だが、手先が器用で他のどの種族よりも俊足に秀でたホビット族。……その他にも希少種族と言われる者たちも訪れ、アルマールはあらゆる人種が生活する都市となった。

 都市が繁栄するにつれ、城塞都市を守る軍も強化された。

 各種族から選び抜かれた精鋭たちで構成されたアルマールの防衛隊は、剣術、体術、魔術共に優れ、かつ公の儀式にも耐えられるよう、容姿、品位、品格が求められた。強固な仲間意識と高い士気を持った防衛隊は2,000を数え、国内外に軍として絶対の強さを誇ったのである。

 アルマールは建都以来、史上最高の栄華を誇ることになったのだ。

 ウディーンは19で大陸王家の娘であるサリティアを妻として迎えると、大陸の王族たちの中に名を連ねた。更に翌年、愛娘となるマナヤが誕生すると、遂に大陸の覇権を狙える位置にまで上りつめることになったのである。

 30歳になったウディーンは、幸せの絶頂にいた。
 都市は繁栄し、民心は安定し、何よりも愛する家族が傍にいた。
 いつまでもその幸せと繁栄は続く、そう誰もが信じて疑わなかった。

 しかし、悲劇は突如として起こる。
 現大陸王の弟ラダールと息子サラムの間で王位継承争いの火種がくすぶり始めた。サリティアに父にあたる大陸王ライディールが病に倒れ、その後継者をどちらにするかの政治的権力闘争が水面下で進められたのである。
 当初は未だ幼少であるサラムを王に戴くのは心もとないという意見が大勢を占めていたが、ラダールは素行が悪く、人心を掌握しているとはお世辞にも言えなかったため、次第にサラムを王に推す声が強くなった。
 サリティアは心を自分の兄と甥が争う様に心を痛め、ラダールを説得するため、引き留めるウディーンの手を振り払い、王家に帰還したのである。
 それ以来、サリティアが再びアルマールの地を踏むことは無かった。
 逆上したラダールは劣勢と見るやサリティアを幽閉し、ウディーンにサラムを攻めるよう脅迫してきたのである。

 ウディーンはラダールを説得するための特使を派遣したが、既にラダールの心は狂気に蝕まれていた。追い込まれたラダールは狂人となり、特使の首とサリティアの首をウディーンのもとへ送りつけてきたのである。

 ウディーンは絶望した。
 何故、妻が殺されなければならないのか、あの時、直ぐに軍を派遣しておけば良かったのか―――。

 絶望の中で、ウディーンは防衛隊1,000をもってラダールを攻めた。
 サラムの軍の協力もあり、ラダールはあっけなく捕縛されたが、絶望したウディーンは判断力を失って暴走し、ラダールを強制的にアルマールに連行し、大衆の面前で八つ裂きにしたのである。

 如何なる理由があろうと、仮にも王家の弟を裁判にもかけずに独断で処刑したことに対するウディーンへの不信の声は王家の中で高まり、遂にウディーンは王族よりその名を除籍された。

 この頃から、ウディーンの心に暗い感情が影を落とす。

 あれほど熱心であった政まつりごとに興味を持たなくなり、日々サリティアの幻影を追い求め、酒色に溺れるようになった。愛娘であるマナヤと接する機会も減り、次第にマナヤは孤独の中に身を置くことになる。

 ある時、砂漠を行き来する商隊が、アルマールの街外れの砂の中から瓦礫の残骸を発見した。瓦礫は古代の遺跡のようだった。

 商隊からの報告に、はじめは意にも介さぬ様子のウディーンであったが、商隊が差し出した金属板を目にして目の色が変わった。その金属板には次のように記されていたのだ。

“最後の皇帝にして闇と結びし邪悪なる妖術師ハルギスここに眠る。その眠りを妨げることなかれ。墓所の封印に触れることなかれ。”

 妖術師―――。

 サリティアを失い、王族より除籍されたことで絶望に打ちひしがれ、正常な判断力を失ったウディーンは、それを目にしてもしやと思った。

 太古の魔術であれば、サリティアを蘇らせることが出来るのではないか。
 あの頃の幸福な自分に戻してくれるのではないか。

 それはもはや、妄想とも戯言ざれごとともとられかねない思考であったが、ウディーンにとっては遺跡を発掘するための探検隊を派遣するには十分な動機となった。

 こうして、都市をあげて遺跡の発掘が進められた。
 日に日に、遺跡の見える範囲は拡大して行く。ウディーンは、遺跡の全貌が明かされる日を強く望んだのだ。

 しかし、結果としてこのウディーンの行動が、アルマールに大きな災厄をもたらすことになる。

 ある日、遺跡を探索中に大規模な落盤事故が起きた。

 探索隊の数百の人命を巻き添えに、それは地底へと通じる禍々しき顎(あぎと)を開いた。

 地上に露出していた部分は、遺跡のほんの一部に過ぎなかった。地底には地上とは比較にならない規模の広大な地下迷宮が存在していたのである。

 恐ろしい災厄はそのあとに起こる。落盤事故にあった被害者たちの躯が腐臭を放ちながら地下迷宮へと入り込んでいったのだ。邪悪なる皇帝の魂は既に永遠の眠りから解き放たれていた。アルマール全体に瘴気が漂い、瞬く間に都市全体が寂れて行った。

 追い打ちをかけるように、次の災厄が愛娘であるマナヤに降りかかった。
 15歳になったばかりのマナヤは、突如として光を失った。続いて聴覚が、そして言葉が失われた。このハルギスの呪いに対して、あらゆる癒しの術は無意味であった。

 手段を選んでなどおれぬ。ハルギスが復活したのなら再び封じればよい―――。

 ウディーンはすぐに防衛隊を派遣することを決意する。
 故郷の危機に、始めは意気軒昂な防衛隊であったが、防衛隊を待ち受けたのは、異世界から生まれた異形の者どもを始めとした怪物たちだった。
 いかに精鋭といえども、人との戦を想定して作られた防衛隊では、せいぜい7レベルのものが大半を占め、僧侶や魔術師たちは3レベルの呪文を習得しているもので選り抜きと評される。

 そのような者たちに、迷宮深層の敵の討伐は荷が重すぎた。