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小説 Wizardry(ウィザードリィ)外伝Ⅱ

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寺院



 そこは寺院だった。

 普通の寺院では無い。

 天井は遥か数十メートルの高さがあり、壁は全て大理石で造られていた。その天井には一面に見事な天井画が描かれ、さらに、ガラス職人の技術の粋を結集して作られたであろうステンドグラスを嵌め込んだ窓が数十枚、大理石の壁を飾っていた。一寺院としては不相応なほど贅の限りを尽くした造りである。
 カント寺院―――法外な金を対価として、麻痺毒や石化など、地下迷宮のモンスター達から受けた傷はもちろん、死者をも蘇らせる技をもった高僧達が所属する宗教団体の本拠地であった。
 そのカント寺院に今、1人のドワーフ族の遺体が安置されていた。その周りをカント寺院の高僧たちが4名、遺体を囲む形で立っている。高僧の1人が手をかざし、呪文の詠唱を開始した。死者の魂を蘇らせる蘇生ディの呪文であった。
 厳かな雰囲気の中、ドワーフの遺体を光が包み込む。その光は次第に輝きを増していった。光は部屋全体を覆わんばかりに広がったのち、急速に収斂する―――。

 ラスタールとスイフトは、カント寺院の待合室に待機していた。椅子に座って腕を組み、目を瞑っているラスタールに対し、スイフトは落ち着かない様子でウロウロと歩き回っている。エルフ族のラスタールに対し、ホビット族のスイフトはラスタールの腰の高さほどの身長しか無い。その様子は心配事を抱えた子供の様だ。

 待合室の扉がノックされ、スイフトはビクリと振り向く。扉が開かれ、カント寺院の僧侶が入ってきた。
 「お待たせいたしました。成功です。」ニコリと僧侶が笑う。その後ろからドワーフの男がふらつきながら出てきた。
 「ドルガル!」スイフトが駆け寄る。ラスタールも立ち上がって安堵の表情を浮かべた。
 「ラスタール、スイフト、ありがとう。感謝する。」ドルガルはまだ弱々しい笑みを浮かべ、礼を言った。
 「お世話になりました。仲間を蘇らせてくれたこと感謝いたします。」そういってラスタールは僧侶に一礼した。その様子をスイフトは不満そうな目で見ていた。
 「無事に成功して何よりです。また何かありましたらご来院ください。」笑みを浮かべながら僧侶は頭を垂れた。
 「行こうぜ、ラスタール。ドルガルの体力も回復してやらないといけないしさ。」不機嫌そうにスイフトは言い、ドルガルを支えながら扉の外へ出て行った。やれやれといった様子でラスタールもスイフトに続いてカント寺院をあとにした。


 「スイフト、あんな態度は良くありませんよ。仮にも仲間を蘇らせて貰ったんですから。」ラスタールがスイフトを窘める。
 「だってよう。成功したから良かったようなものの、失敗しても金を返してもらえないんだぜ。完全に商売じゃねえか。こっちが礼を言う筋合いは無いと思うけどな。」スイフトは頬を膨らませながら言う。

 スイフトの言うことも一理ある。カント寺院での治療代は全て前金で支払い、仮に蘇生に失敗し、遺体が灰になったとしても料金は返金されない。それどころか、灰の状態から蘇生させるために更に倍の料金を要求される。カント寺院が強欲寺院などと言われる所以である。しかしながら、その治療技術の高さから、冒険者たちは毒づきながらも、利用する者は少なくなかった。特に死者の蘇生の成功確率は、並みの僧侶のそれとは比較にならないほど高かった。信用がおけるため、文字通り命には代えられないと、死んだ仲間を蘇らせる際はカント寺院に依頼するものが殆どだったのである。

 悪の戒律に身を置くラスタールは、その物腰の柔らかさから、悪のくせに人が良すぎると言われることも多い。だが、相手も人だ。感謝されて気分を害する者はいないだろう。カント寺院の僧侶も、罵声を浴びせる相手より、物腰柔らかい相手の治療に力が入ることもあるかもしれない。ラスタールに言わせれば、悪の戒律だからこそ、後々を考えて、人の心の裏の裏を読もうとするのだ。

 「さて、ケイシャ達が地下一層で待っています。急ぎましょう。」ラスタールはそこで思考を止め、諦めたようにスイフトを促した。