先生の言葉 全集
121.ピグマリオンの末裔
師匠。あのパーティを覚えてますか?
あのとても強かった冒険者たちです。最下層の私たちも手を焼いた6人組。
彼らの長所はその連携能力でした。女戦士がその素早さで私たちを引き付け、その間にリーダーの君主が作戦を伝える。3番手の侍、後衛の忍者、僧侶、魔法使い、全員が正確にその作戦を実行していく。完璧なチームワークの前に、私たちはただ倒されるだけでした。
でも、あの6人が魔除けを取り戻すのも時間の問題だろうとうわさをしあっていたら、いつの間にか彼らはふっと姿を消してしまった。
師匠。先日、彼らの消息を別の冒険者から聞いたんです。
最後に彼らと戦ったのは私たちでした。覚えていますか? あのとき、おとりとして時間を稼いでいた女戦士を、師匠はそのつえで殴打して石にさせることに成功しました。その想定外のできごとにリーダーは撤退を選択し、石化した彼女を抱えて扉の向こうへと逃げ込んだんです。あれが、彼らの最後の戦いだったそうです。
パーティには僧侶がいるので、彼が魔法を唱えて石化を治せば冒険は続行できるはずでした。しかし、僧侶は意外なことを言い出します。あの魔法の使用回数がもう尽きているんだ、と。
君主はまだ石化を治す魔法を知らないので、こうなるともう寺院を頼るしかありません。彼らは街に戻り、お金を工面して寺院に向かいます。ところが、彼女はすでに誰かに引き取られたあとでした。
皆であわてて探すも石化した女戦士は見つかりません。そのうち、パーティの一員である僧侶の姿も見えないことに気付きます。4人はただぼう然とするしかありませんでした。
そして数カ月がたち、ようやく1人と1体が見つかったのです。
街から遠く離れた枯れ井戸の底で僧侶は亡くなっていました。その付近にはかつて女戦士だった石片が散らばっていたそうです。
僧侶は自身が偶像性愛者だと知らなかったのでしょう。しかし、石化した彼女を見て自身の奥底に眠る性に気付き、熱情に火がついてしまった。そのため、魔法が尽きたとうそをつき、寺院から彼女を盗み出して、井戸の底まで逃げ込んで愛の限りを尽くしたんです。でも、その愛の激しさの果てでしょうか、彼女を破壊してしまった。失意と後悔の中で、破戒僧も恐らく命を閉じたのでしょう。
残された4人は今、新メンバーを探しているみたいですね。
ええ。師匠はこの話を聞いてケラケラ笑うと思いました。私は、人の業について考えさせられましたがねえ。