先生の言葉 全集
122.描出
どうも、こんにちは。
あなたのおうわさは聞いていますよ。優秀な侍でありながら絵筆でわれわれモンスターをスケッチしているという、ちょっと変わった方ですよね。
そんなことをしているのには理由がある? ええ。絵を描くのが好きだからというのもあるが、やはりモンスターの恐ろしさは口頭や文書といった言葉だけではなかなか伝わるものではない。だから、なるべく絵で初心の冒険者たちにモンスターの恐ろしさを伝えよう、と思っているんですね。
なるほど。それは良い手かもしれません。あなた方と同じヒューマノイドなモンスターはともかく、異形のモンスターなどは絵という形でも一度は、見ておいたほうがショックは小さいかもしれませんから。
ほう。反対にかわいいモンスターへの注意喚起にもなるんですか。ああ、なるほど。あなたの絵のおかげでうさぎに気軽に近づく初級の冒険者が減ったんですか。うんうん。やはり何も知らなければ、あのうさぎの前で不用意に喉元を見せてしまいますもんね。
というわけで、この私の絵も描いておきたいのでやってきた? まあ、それはいいですけど、私はそれほど危険ではないので注意喚起と言うより、こいつはいくらでも狩れるからお得だなんて初心者の方々に説明されそうですね。
え? 描くついでにもう一つ、相談がある? まあ、聞いては見ますが、なんか嫌な予感がしますね。
ああ。私の師匠の絵も描こうと狙っているんだが、遭遇すると手がつけられないので、戦闘中に時間稼ぎをしてくれないかってことですか?
それはさすがに無理ですよ。師匠は戦闘中に私の言うことなんて聞いてくれません。その攻撃はクリティカルを含む全ての状態の異常を繰り出してきますし、ブレスはレベル13の前衛でも2回、持ちこたえるのがやっとでしょう。ましてや後衛の方は、1回でも耐えきれるかどうか。
そんな師匠を足止めするのは弟子の私も無理です。どうしても描きたいのであれば、パーティが壊滅するかもしれないほどの死者が出ることを覚悟するか、9階を歩き回っていれば師匠も友好的で機嫌のいい時があるかもしれません。その時をねらって話を持ちかければあるいは……、といったところでしょうか。
でも、確かに師匠の不気味さ、恐ろしさは絵に残してもらいたいと思いますね。傍目で見ている味方の私ですら、恐れおののくほど凄まじいのですから。
そういう意味では、あなたにはぜひ戦闘中の師匠を描いてもらいたいところです。