先生の言葉 全集
126.恋愛事情
モンスター同士は恋仲になったりしないのか、ですか?
結構あるみたいですよ。私たちアンデッドはもう生殖能力がないので、もうそれほど大した楽しみはありませんが、迷宮内にいるならず者たちもやはり生物ですからね。誰かを好ましく思うことはやはりありますよ。
やはり3階あたりの尼僧が人気なのかって? いや、彼女らは神に仕えていますから、案外身持ちが固いという話を聞いていますよ。もちろん還俗することも可能でしょうから、他の冒険者と恋仲になって職を変えた尼僧の方もいらっしゃるんじゃないですかね。
また、人間型のモンスター以外でも、そのような関係になったりといったことはあるみたいです。巨人族なんかは、1グループ内に違う性別の方もちょいちょい混じってるみたいです。まあ、私たち異種族には見分けがつきにくいので、ああ、巨人が4体いるな、ぐらいしかわかりませんがね。
あとは、ドラゴンなんかも家庭を持ってここに住み着いています。これは私もちょっと前に知ったんですが、迷宮内はわりと住むのにはいい環境のようで、つがいで巣を作っているグリーンドラゴンやファイヤードラゴンがいるようです。その結果、生まれた子どもがドラゴンパピーとしてたまに駆り出されている、と。
あなたがた冒険者と同様、モンスターも命がけですからね。仮に命を落とすことになっても、自分の子孫など、この世に何らかの爪痕を残したいという気持ちは同じなんだと思いますよ、多分。
そういう意味では、私のような力を持たないアンデッドは何も得られない地の底で全てを諦めているような感覚です。生前、男性だったものも女性だったものもいますが、みんなボロボロで腐肉ばかりを求めている。おしゃれをしてよく見られたいという感情の前に、他者に対する意識がもう希薄なんです。
まともなのは、魔術師とともに最奥にいるアンデッドの王くらいだと思います。彼は美しいですし、貴族の衣装も身につけていますから魅力的に思う方も多いでしょう。まあ、近寄ったら牙を突き立てられて、あっという間に抜け殻になってしまいますがね。
そのようなリア充たちを目の当たりにして、爆発しろとか思わないのかって?
いや、むしろ温かい目で見てますよ。今は生命の枠を外れた存在ですが、かつては私も人間だった頃がありましたから。
そういう意味では、うまく世の中が回っているのを見て安心しているおじいちゃん、といった心境なのかもしれませんね。



