先生の言葉 全集
120.誕生
おや、懐かしい方々がやってきましたね。
ほう。皆さん、ついに最下層で三種の神器を手に入れたんですか。さぞかし大変だったでしょう。ええ。これで装備も整ったし、最後尾の司教も全魔法を覚えたので、これから魔術師に遭いに行くと。それはそれは勇ましいことです。
でも、やっぱり魔術師相手では命の危険もあるので、これまでお世話になった方々にあいさつをしているんだと。で、先輩冒険者や酒場のおやじさんらにお会いしてきて、最後にここへ?
いやいや、私は魔術師配下のモンスターですし、お礼を言われる筋合いはないですよ。確かにお話をすることは多かったですし、戦うという形であなた方と接することも多かったですが。
でも、あなたはこの上級職だらけのパーティにたくさんの経験をくれて強化に役立ってくれたし、この迷宮の情報もたくさん提供してくれました。また、常に緊張感をもって望まなければならない死と隣り合わせのこの迷宮で、癒やし系キャラとして全冒険者、全モンスター、全ての登場人物に愛されたという多大なる功績の持ち主でもあります。なので、皆を代表して、この迷宮で一番高価で見つけるのが難しかった指輪と、『先生』という称号をプレゼントしたいと思います、ですって?
……ええと、状況はよくわかりました。そして、お気持ちは大変うれしく思います。ですが、その指輪って、もしかしてあの対アンデッドに効果のある指輪じゃないですよね。あんなものを身に付けさせられたら、ただでさえ弱いのにさらに弱くなってしまいますよ。
それと、癒やし系キャラってなんですか。あと、その称号もなんですか。完全にバカにしてるでしょう。そりゃね、この1階の小部屋が第2訓練場と呼ばれているのは知ってます。でも、そこの主だからって、『先生』ってのはいくらなんでも皮肉が過ぎていますよ。これから魔術師を倒して、近衛兵となるであろうあなた方が、今まで散々利用してきたモンスターに変な称号をつけて、みんなこれからこいつのことを『先生』と呼ぼうぜって、これはもういじめですよ。然るべき機関があれば訴えたい気分ですよ、全く。
はい? 時間だからもう行く? ええ。怒りは収まりませんが、せいぜい魔術師に勝てるようご武運をお祈りしていますよ。
さて、と。『先生』ですか……。うん。なんか悪くはない気がしてきましたね。
お、また新しい冒険者がやってきたようです。じゃあ、『先生』としての仕事を始めますか!