先生の言葉 全集
103.虫博士
どうしたんです。そんなに慌てて。
ようやくヒュージスパイダーがボーリングビートルを捕食しない理由がわかった? はあ、そうですか。良かったですね。
え、リアクションが薄いじゃないかって? うーん。正直、その程度のことは肌感覚で知っているというか、ちょっと見ていればわかるというか……。
ええ。そりゃあ、体感での理解と、実際に原因を突き止めて事実を証明することの違いはわかります。あなたの発見は昆虫学やクモ学の分野から見れば素晴らしいことかもしれません。でも、あなた冒険者じゃないですか。確かに虫が趣味だというのは以前、こちらにいらっしゃった時に聞きましたよ。聞いたどころか、戦うのも忘れて私に虫のうんちくを延々語っていましたよね。はっきり言って、パーティの他の5人もあきれていましたよ。身内の俺らに話すのならまだしも、敵にまで長広舌をふるってくれるなって顔つきで。
それだけじゃありません。あの後、あの5人はあなた抜きでこっそりもう一度ここに訪れて、あなたの行状をいろいろ報告してくださったんです。あなた、ドラゴンフライのブレスで傷ついた味方をわざと放置して、経過観察をしていたらしいじゃないですか。しかも、ドラゴンフライが昆虫ではなくドラゴンの一種であることを知ったら、あっさり興味をなくしちゃったなんていう後日談まですっかりこちらは聞いているんですよ。
あなた、僧侶ですよね。その自覚はありますか? 味方の傷を治さない僧侶なんて僧侶失格ですよ。少し考え方をあらためないと、僧侶としての腕があっても、いつか仲間に見放されてしまいますよ。そろそろあなたのパーティもセンターに挑む頃でしょうし、大切な時期なんですからかぶとの緒を締め直してがんばってください。というか、こんなことをモンスターの私に言わせないでください。
その件についてはわかった、けど、せっかく発見したんだから話ぐらいはさせてくれ?
……本当にわかっているのか怪しいですが、まあ話を聞くのは良いですよ。で、なんでヒュージスパイダーはボーリングビートルを捕食しないんですか?
ふむ。ボーリングビートルは甲虫のために固い殻で覆われているので、クモにとっては食べるのが非常に面倒だから、ですか。
でもそれって、アシダカグモが家で飼ってるカブトムシやクワガタを襲っているのを見たことがない時点で気づきそうなもんですけど。まあ、これからは心を入れ替えて頑張ってくださいな。