先生の言葉 全集
102.自害
殺してほしい、ですって?
何があったかは知りませんが、むやみに命を散らすのはいいものではありませんよ。生きていれば必ずいいことはあるものです。あなたも冒険者をなりわいにしているならば、自暴自棄にならずに恐れず迷宮に踏み出すことを忘れてはいけません。
それに、私に殺してほしいと頼むことはあまり得策ではありませんよね。あなたも以前、パーティの皆さんとここに何度も訪れてますから、私の実力は百も承知でしょう。対して攻撃力のない私に殺されるということは、苦痛でもあります。どうせなら最下層で私の師匠にでもお会いして、ブレスで吹き飛ばされるほうが楽に死ねると思いますよ。
ふむ。今まで自分はサムライとしてたくさんのモンスターを殺してきた、彼ら、彼女らは人ではないものも多かったが、いずれにしても世の中を一生懸命に生きていた、と。そんな彼らを一方的に殺りくし、そして先日、玄室でニンジャの集団に囲まれて、私以外の5人が首を奪われてしまった。首がない以上、大切な仲間は蘇生すらできない。それ以上に、もうこんな殺生にまみれた生活はたくさんだと思うようになってきた。いっそ僧侶になって、仲間や手にかけたものの冥福を祈ろうと思ったが、この世界の僧侶は戦わなければならない。メイスを振り回したり、攻撃魔法を使って敵をほふったり。僧侶になっても殺生からは逃げられない。いっそもう、死んでやろう、そう考えた。どうせ死ぬなら、一番苦しい方法が良い。ならば、あなたになぶり殺されたい、そう思った次第……。
なるほど。でも、悲しいですが世の中にはそういった体験を経ないと得られないものってあるんじゃないか、そういうふうに思うんです。確かにあなたの体験は想像を絶するものだったでしょう。でも、きっとそれをくぐり抜けた先に、栄光というものはあるもんなんじゃないかと思います。何ごともなく、最初から栄誉に与れた人は世の中にはそうそういませんよ。血筋や能力が良い方もいますが、彼らもなんだかんだで苦労しているものです。多分、何かを得るには何かを失わなければならない。世の中はそういう道理でできているんです、そう信じましょう。それが証拠に、ほら、私なんか何も得ていない代わりに、何も失っていない生活をここで延々続けているじゃないですか。
何かを得ようとしているあなたは、これからまだまだ輝けることでしょう。だから、これからもがんばっていきましょうよ。