先生の言葉 全集
85.小手
街の商店にやけに高値の小手が売っているけど、あれは買うべきなのか、ですか?
ああ、はいはい。小手の棚にぽつんと一種類だけ置いてあるやつですね。あれ、確かに店売りの防具にしては値段が高いので、なかなか大枚をはたこうという気がしない冒険者も多いと聞きますね。
かといって、少しお金に余裕が出てきた頃には、迷宮で手に入る武具にそこそこ強力なものが出始めるので、そっちに気を取られてその存在自体を忘れてしまうんですよね。言うなれば、そういうちょっと厄介な立ち位置の防具、そんな感じだと思います。
あの小手、種明かしをすると、戦士、侍、君主、忍者、すなわち主に前衛に立つ職業が身につけられるものですね。あれを装備することで腕部の守りが少しですが強化されるので、買っておいても損はない品だとは思います。在庫も多いようですから遠慮なんかしなくてもいいですよ。
ただ、皆さんが先ほどご指摘されたように、少々お値段が高めなので駆け出しの冒険者がいきなりあれを買おうとするのはやめたほうがいいかもしれません。ある程度冒険を進めて、お金に余裕が出てきた頃に、他の武具との兼ね合いを見て購入を検討するのがいいかなと思います。
なんであんなに高いのか、あの店がぼったくってるのか、ですか?
まあ、あのお店がいろいろとあくどいことをしているというのは、私たちモンスターの耳にも入ってきている程度には有名ですが、この小手に関しては良心的な価格で提供していると思いますよ。小手というのは、主に指から腕部のあたりまでを守る防具ですが、こと指の部分に関しては繊細な可動が求められることは理解できますよね。なんせ得物を握るんですから、それを取り落とそうもんなら死は確定です。ですから、あの小手は指部の動きに相当こだわりを持って作られているはずです。それを考えれば、実はあの値段でも安いくらい技術が詰め込まれているということが理解できると思います。
あと、買っておいたほうがいいもう一つの理由は、実はこの迷宮にはもう一種類小手が眠っているのですが、それがかなりのレア物で手に入りにくいっていうことです。おそらくその小手を前衛3人分、見つけるにはかなりの頻度で迷宮の最深部に潜り込まなければいけないでしょうから、少しでも身の守りを上げておきたいというわけです。
というわけで、迷宮の中層あたりに行けるようになったら、購入を検討するぐらいでいいかなと思います。