先生の言葉 全集
84.病は気から
うーん。うーん。
ああ、いや、すみません。ちょっと考えごとをしておりまして。私が考えごとなんて珍しい? いや、こう見えて私もいろいろ考えていたりするんですよ。
じゃあ、普段は話を聞いてもらっているから、今日は話を聞こうじゃないかって? いや、そんなお気遣いは無用です。皆さんのほうが立場は大変でしょうし、いろいろ悩みも多いでしょうからね。私なんぞこの場所にいて、たまにお香をもらえればいいご身分なんですから、楽なもんですよ。
普段からお世話になっているし、水臭いことを言うな? いや、別に私はあなた方をお世話しているわけじゃないんです。たまたま皆さんが私で経験値を稼いでくだけですし、その際に友好的なモンスターとして雑談をしているに過ぎないわけで。ですから、私としてはあなた方をただ倒そうと思って戦っているだけなんですよ。
それでも聞きたい? 参りましたね。じゃあ、お言葉に甘えてお話をさせてもらいましょうか。
いや、実は最近体調が悪いんですよ、体がなまっているような感じで。おかげで普段以上に攻撃が当たらないし、いつも以上にすぐやられてしまうような気がしてるんですよね。
今はまだどうにかなっていますが、このような状態が続くと最悪の場合、師匠に見限られてしまう可能性が出てきてしまうかもしれません。正直、師匠も普段の私のふがいなさにあきれているときがありますし。私たちモンスターも戦いで結果を残せなければ、上司である最奥の魔術師の評価が下がってしまいますし、評価が下がれば結果を出すように怒られてしまいます。そのとき、師匠が私を見捨てる可能性があると思うと、心配で夜も眠れないのですよ。
こういうとき、冒険者の皆さんはどうしているのでしょうか。何かリフレッシュをするような方法があるのでしょうか。
ええ。サウナに行ったり、マッサージを受けたりしたあと、ビールを飲むのがいい? それでも治らないようなら、病院に行く?
なるほど、その手がありましたか。私も幽霊をやっている期間が長いので、すっかり人間のときのことを忘れていました。
じゃあ早速、それらの手配をしましょうか……。そういえば、そういうのって幽霊の私に効果はあるのでしょうか。
それ以前に多分、お店に入れない? それに、幽霊は病気になんかならないし、眠らない? 言われてみれば確かにそうですね。そう考えたら、なんか元気になってきました。
そっかぁ、ただの気のせいか、良かったぁ〜。