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先生の言葉 全集

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119.初めまして



 え? ああ、はい、どうも。初めまして。

 あの、皆さん。なんで自己紹介なんか始めるんですか。私はただのモンスターなので……。

 はあ、戦士で14歳、ドワーフでボーナス18、エリートじゃないですか。そちらのお侍さんは、人間でボーナス25。もう超人じゃないですか。
 いや、そんなことはいいんです。いきなり切りつけてくれていいんですよ。いや、まあ、それはそれで困りますが。はあ、あなたはノームの僧侶でボーナス17。優秀な方々ですね。あなたは人間の盗賊でボーナス16。ひとりぐらいボーナス5程度の親近感がわきそうな方はいないんですか。で、残りのおふたりはどちらもエルフのメイジで、それぞれボーナス19と18、ですか。ボーナスだけなら怖いもんなしですね。

 いや、そんなことはいいんですよ。なんで皆さん、あいさつや自己紹介を始めるんですか。もちろん礼儀は社会生活においてとても大切なものですし、場合によっては、私は最も戦うことになるモンスターになるかもしれませんが、あくまで冒険者とモンスターという関係なんですから、そういうのは別にいらないんですよ。

 え? でも、先輩の冒険者からあそこにいる幽霊だけは怒らせないようにって言われた? あいつは最奥の魔術師とも狂王ともつながりがあるから、怒らせるとまじで危ないって?

 ……いや、まあ、確かに面識はありますけどね。あの実力者たちが私をどういう目で見てるかなんて、すぐに見当がつくでしょう。魔術師なんて、私を将棋の手駒ぐらいにしか思ってませんよ。あくせく頑張っていても、都合が悪くなったらあっさり捨て駒にします。で、最終的に迷宮の1階に幽閉するでしょうね。狂王にいたっては何度かお会いしただけで、ろくに話をしたこともありません。

 そんなわけで、私は小物もいいとこですので、礼儀正しくしなくていいです。もちろん、大物だからとかいうことではなく、一介のモンスターにもちゃんと礼を尽くしたいというのなら、本当に素晴らしいことだと思うし、ぜひ続けてください。ただ、当然モンスターは敵ですので、いきなり襲いかかるなどの手段に出てきます。そんなやつらに礼を尽くしていたら、この迷宮で生きていくのは難しいでしょう。そのへんは気をつけたほうがいいかもわかりませんね。

 え? さすが大物だけあって、助言も的確だ? これからもお世話になりますので、あらためてよろしくお願いします?

 うーん。なんかやりにくい人たちが来ちゃったなあ……。


作品名:先生の言葉 全集 作家名:六色塔