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先生の言葉 全集

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117.好き嫌い



 好きな冒険者とか嫌いな冒険者とかはいますか、ですか?

 私、一応モンスターなので、冒険者は皆、倒すべき憎い相手なのですが……。こんな友好的に話をしてるやつが言っても説得力はないですかね、ははは。

 でも、やっぱりまじめな人たちには心を打たれますよね。なんとしてもこの迷宮で生き抜くんだっていう強い意志を感じる人々。どうすればより効率的にモンスターにダメージを与えられるかとか、相手に気づかれずに先制攻撃を仕掛ける技術を習得しようとしているとか。

 反面、私のところに来過ぎて力が抜けてしまっている冒険者も見受けられましてね。とりあえず今日という日はこいつをいじめてレベルを上げておこう、いつかセンターに挑むときや、下層に行くときにしっかりやればいいやなんて姿勢の方々。彼らは見ててもちょっとどうかなあって思っちゃいますよね。

 私がなめられるのは別にいいんです。実力もたかが知れていますし。ただ、だからといってこの迷宮をもなめてしまうのは、もう魔術師の術中にはまっているも同然ですよね。

 願わくは、前者のようなまじめな方々には生き残ってもらいたいし、後者のようなどうかなって方々には強敵のえじきになってしまえと思ってしまいますよね。

 実際にそのようになるかって? ところがね、必ずそうなるわけでもないんです。まじめな方々も全滅や遭難はしますし、ふざけたやつらがうまいこと強敵をかいくぐって、すごいお宝を手に入れることもありますよ。なんというか、見てて無情だなあと感じることもありますね。

 まあ、そういう意味ではわれわれモンスターの側も成長しなければいけないのかもしれません。まじめな方々もなめてる方々も根こそぎやっつけてしまって、誰もが恐れて訓練所に登録をしに来なくなるぐらいになれば、まじめな方は地に足をつけて社会で頑張れるし、ふざけたやつらは野垂れ死ぬだけでしょうからね。

 いや、社会もそれほど変わらない? まじめなやつが損をすることもあるし、怠惰でやるきのないやつが成功することもざらにある?

 そういうものですか……。モンスターなのでそこまでは知りませんでしたが、だとしたら悲しいことですね。

 でも考えてみたら、そういう社会だからこそいろいろなドラマが生まれるのかもしれません。生きざまがひとつでは没個性になりますし、はぐれものはそれこそ救いがありませんから。

 そういう意味では、私に嫌いな冒険者など、いないのかもしれませんね。


作品名:先生の言葉 全集 作家名:六色塔