先生の言葉 全集
39.訓練場の悪事
おや、珍しい方が来ましたね。
ええ。存じております。あなた、訓練場にお勤めの方ですよね。おうわさは、冒険者の皆さんからいろいろとお伺いしております。
まあ、地下1階のこの場所も、不本意ですが第2訓練場と揶揄されているくらいです。ここはお互い訓練場に勤めるもの同士、襟を開こうじゃありませんか。
ほう、相談があって来たんですか。どういったことでしょう。
うん、検査に合格した新米冒険者達が、すぐ辞めちまう? みんな、数日で辞めるって言ってくるんだ、と。もしかしたら、俺の見る目はもう狂っているのかもしれないし、そろそろ引退を考えている、ですか。
なるほど。その方に向いている資質を見極めるのも大変な仕事ですからね。なにせ、命にまで関わる問題ですし。心中、お察しいたします。ですけど、私、1点だけその話を聞いて疑念を抱きました。辞める報告をしに来た方々は、お金はお持ちでしたか?
そういえば、みんな持っていなかった?
……やはり、そうですか。訓練場に登録する冒険者の方々も、大半が食い詰め者とはいえ、いくらかはお金を持っているはずです。それすらも持たずに辞めていく。これは、どういうことが行われているか、なんとなく予想がつきませんか?
ええ、犯人はおそらくろくに冒険に出てもないのに、装備だけは比較的いいものを持っているパーティでしょうね。もっとも、冒険に出ていないので、いいものといってもせいぜい店売りのものでしょうけど。その顔は、心当たりがあるようですね。
今からそいつらを、問い質してやる?
いや、しなくても大丈夫ですよ。
なぜかって?
ほかの冒険者からお金を奪って、店売りの装備を整えたとしても、必ず冒険者としての試練は訪れます。市販の品で最奥の魔術師を倒せるほど、この迷宮は甘くありません。必ず、彼らも苦労して自力で装備を調達しなければならない、そんなときが来るはずです。
でも、金だけ奪われて辞めさせられた冒険者はかわいそうじゃないか? それも否めませんが、高い授業料だったと思えばいいんじゃないでしょうか。ほかの冒険者にお金を奪われるような方は、申し訳ありませんが、この迷宮で生き長らえるのは難しい。命を奪われずに違う道を歩めるだけ、まだいいのではないかと。
さすが、第2訓練場の主は言うことが違うなって?
いやあ、照れますな。
じゃあ、仲良くなったついでに、ちょっと手合わせをしようって?
いや、さすがにそれだけは、ご勘弁を。