先生の言葉 全集
37.通好み
どうも皆さん、こんにちは。近頃、下層での冒険も慣れてきたようですね。ええ、巨人さんや悪魔さんが、あなた方のことを話していました。最近来た冒険者にしては、なかなかやりおるってね。で、そんな皆さんが、わざわざ1階の私のところまで来るなんて、どうされたのですか。もう私なんか、いじめがいはないですよね?
さっき、いいものを拾ったんで見せてくれる?
なるほど、ぜひ、お目にかかるとしましょうか。
ほう、この剣ですか。これはかなりの珍品です。うちの師匠もたまに宝箱に忍ばせている物ですよ。これは確か、性格が悪の方しか振るえないサーベルですよね。これを手にできるのは、よほど運が良い証拠です。ちょうど皆さんは性格が悪のようですから、大切にしてください。
え? でも、あの回転する剣が前衛に行き渡ってる?
あらら、そうなんですか。確かに、このサーベルよりもあの剣のほうが、安定したダメージをたたき出せますからね。私の経験から言っても、あの回転する刃に斬られるほうが痛いです。
でも、あんなお手軽で便利な剣があるのに、なんでこんな物が高価な扱いなんだって?
うーん。まあ、お店の事情もあるんでしょうね。でも、それ以上に、使い心地がいいらしいと聞き及んでいますけどね。あの回転する剣は、どの性格でも装備して振るうことができます。なので、扱いやすい反面、細かいところまで配慮が行き届かない、そんな評価もごくまれに耳にします。言うなれば、汎用性は高いけど、必ずしも一人一人に確実にフィットするわけではないんですね。
一方、この魔法の力を持ったサーベルは、持ち主の特性や剣技の癖を判断し、それによって形状を変えるとすら言われています。ただ、その強大すぎる魔力に引き込まれることがないよう、利己的な性格の方以外は装備を禁じられているのです。ですから、威力はやや劣るものの専門性に長けている、いわば通好みの剣なんですね。その証拠に、このサーベルを扱いたいがために、わざわざ性格を変える君主の方もいらっしゃると聞いています。このこと一つ取ってみても、このサーベルの得も言われぬ魅力をご理解していただけるんじゃないでしょうか。ですから皆さんも、戦い抜いたその先に握っているのは、このサーベルかもしれませんよ。
ところで、私、友好的なんですけど、どうします?
え、そんなに魅力的なサーベルなら、試しに使ってみる?
そうですか……。何か、やぶ蛇だったかな……。